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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 66-21

 イヤイヤするように激しく首を振って、その場にしゃがみこむ。
 
リク「ダメだよ、アン。ワガママ言わないで? もう閉館の時間なんだからさ。……ほら、後から来る人たちがビックリしているよ?」
アン「イヤよ!! 私たち、恋人だもん! それなのに手もつないでくれないなんてっ」
リク「……は、恥ずかしいから……だよ」
 
 我ながら苦しい言い訳だと思った。
 けれど他に思いつかなかった。
 しどろもどろになっていると丁度よくというべきかやっぱりかと嘆くべきか図書館長がやってきてアンを叱った。
 
老人「バカモノ! この神聖な場所でなぁにをやっておる!?」
 

▽つづきはこちら

 怒鳴られてにわかに青ざめたアンの背を押して、リクは走り出した。
 階段を駆け下りて重厚な扉を力いっぱい押して外に転がり出る。
 図書館の鬼館長から無事に逃げおおせた二人は10月の冷えた外気をいっぱいに吸い込んだ。
 すると、ぽつん。
 ぽつん。
 大粒の雫が顔を打った。
 実際の時間よりも暗いと思えば雨雲が急成長していたのだった。
 
リク「あっ。雨? ずいぶん底冷えすると思ったら……ねぇ? 急いで宿舎まで戻らないと。駆けっこしようか?」
 
ここは明るい話題にそらしてと逃げの一手を打とうとしたリクだったが、黙って見つめられるとたちまち言葉に詰まってしまった。
どうやって切り抜けようか思案している間にアンは上向き加減に顔を向けてそっと目を閉じてしまう。
これは。あの騒ぎの後にこの行動。
どんなに鈍感な人間でもこれがキスのおねだりであることくらい、わからないわけではない。
もちろん、さして鈍感でもないリクだったらなおのこと。
ここでボケを発生させるようなバカはしない。
しないけれど……
どうしたらいいだろうか。
やっぱりリクは愚か者だった。
 
リク「…………………………ごめん。俺、そういうの……ダメだから」
 
 沈んだ声で謝罪する。
 
アン「!!」
リク「ホントに……ごめん」
 
 目を開いたアンは信じられないといった顔でリクを見つめていたが、やがてぐしゃりと崩れて泣き顔になる。
 
リク「えっと……でもほら、あの……ええと……」
 
 言うべき言葉を失くして視線を彷徨わせた。
 
アン「……き……」
リク「え」
アン「今日はごめんね。ワガママ言って。困らせるつもりはなかったの」
 
 リクが何か言い出す前にアンの方から早口にしゃべりだした。あふれ出る涙を袖で拭いながら。
 
アン「だから……嫌いにならないで、リク君……」
リク「ごめんはこっちだよ。不快な思いさせて……でも俺は……」
アン「また、明日ね? 約束よ」
 
 一方的に約束を押し付けて、アンは駆け出した。
 別れを告げられることを恐れたのだ。
 ずいぶんと遅くなり、食事の時間に差し掛かっても姿が見えないと迎えに来たジェーンと宿舎の入り口ではち合った。
 猛烈な勢いで走ってきたために肩がぶつかってジェーンは跳ね飛ばされる形で尻餅をついたが、アンは気づかなかったのか余裕がないのか振り向きもせずに行ってしまう。
 
ジェーン「アン! どうしたの、アン!」
 
 背中を追って走り出す。
 ようやく部屋のある3階に行き着いたところでジェーンはアンを捕まえることに成功した。
 
ジェーン「どうしたの、何かあった?」
アン「ジェーン……ううん、何でもない」
 
 涙を拭うが一向に収まってくれず、笑おうとしたけれど、それもすぐに失敗して崩れる。
 
ジェーン「言ってごらんよ?」
 
 優しく背中をなでてもらい、安心感が全身に広がってゆく。
 
アン「あの……あのね。リク君が……」
 
こういうときの友達じゃないかと言う言葉に甘えて、胸につかえた悲しみを吐き出そうとしたまさにそのとき、心無い会話がアンを貫いた。
女生徒「あの子さぁ、困ったときだけ頼るよね?」
アン「!」
 食事を終えて戻ってきた同学年の女の子たちである。
 階段を上がってくる。
 
女生徒たち「そうそう。普段は彼氏のコトばっかで、他はどうでもいいみたいにしてるのに……あれじゃジェーンが可哀想」
「あ。噂をすれば」
 
 数人が立ち止まって、階段を上がったところの廊下の隅に座り込むアンとジェーンを見下ろした。
 
アン「…………………」
 
 一気に体の温度が上がって、汗が吹き出た。
 
女生徒「その子、構うのよしなよ。ほっとけば?」
 
 侮蔑の視線を投げかけてきた女生徒は別のクラスにいるジェーンの友人であった。
 人懐っこいジェーンは、専攻やクラスが違っても、学科で同じ教室に入ればタイプが違ってもどんどん友達の輪を広げていってしまうのだ。
 一つ一つの付き合いは深くなくても顔は広い。
 その背に乗ってアンも少しずつ顔なじみが増えたようなものである。
 けれどアンはジェーンの友達の彼女が好きではなかった。
 派手な顔立ち、相手の気持ちもよく考えずにポンポンと言いたいことを言う性格。
 せっかくジェーンやモーリーと三人で楽しくしているのに、彼女が入ってくるとアンが押し出されてしまう。
 ジェーンもモーリーも三人の間に誰が入ってきても上手に会話を滑らせるのに、アンだけが上手く乗れずに口を閉ざしてしまうからだ。
 第一印象もサイアクだった。
 遠慮なく眺め回して小さく鼻で笑ったのだ。
 こんな失礼な子が友達だなんて信じられない。
 
女生徒「どうせリク君が慰めてくれるわよ。ジェーンなんかいなくても」
アン「!!」
ジェーン「そういう言い方しないでよ。彼女、今……」
女生徒「別にいいけどー。アンタも相当、お人好しだねっ。知らないよ」
 
 言い捨てて女生徒たちは歩み去ってゆく。
 彼女たちの中にはかつてアンが共通の敵・メイディアをこらしめるための会として所属していたメンバーも混ざっていた。
 リクは皆のリクだから、抜け駆けはいけないという決まりを破ったアンに手厳しいのも道理である。
 真っ赤だったアンの顔は見る間に青ざめてゆき、唇が侮辱のための怒りに震えだした。
 こんな暴言を叩きつけられたのは、メイディアのウジ虫発言以来である。
 
ジェーン「気にしなくていいんだからね? ホラ、あの子、キツイところあるし」
 
 恐る恐るアンの方を向く。
 彼女たちったら、何てことを言ってくれたんだろう。わざわざ荒波を立ててくれなくてもいいのに。
 そんなことを思いながら。
 
アン「………………ジェーンは……」
ジェーン「うん、平気だから」
 
 にこりと笑って引き続き背中をさすってやる。
 
アン「皆から気にされてていいね……」
ジェーン「エ? てゆーか……」
アン「何もないのに心配されてて……」
 
 ゆらりと立ち上がる。

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