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レイディ・メイディ 66-23
2008.10.09 |Category …レイメイ 66話
どよぉぉ~ん……
リク『バケツだよ! バケツに入っているよ!? 掃除用じゃないの、ねぇ、コレ!?』
暗雲が心に立ち込めたが、目の前で教官がそわそわしているところを見ると、さてはこの一言を期待しているに違いない。
わかってしまってリクは実行せざるを得なくなってしまった。
リク「いっ……意外にイケてるよ」
無理に口に入れて……言ってしまった。
嘘を。
▽つづきはこちら
鎮「そ、そうであろ? たんとあるでな? さぁお食べ!!」
残り物を混ぜ込んだだけなのにさも自分が作りましたっぷりの、この喜びよう。
ちっぽけなことで何故こんなにいつも嬉しそうなのだろう、この人は。
どうしたものか。時々、反応にものすごーく困るときがある。
鎮「とりあえず、裸も見苦しいからみっちー殿に服を借りてぇ………おおっとぉ!? みっちー殿はちみっこいから巨大ビック・リクには合わぬな。あーっはっはっはっ!」
リク「……………………」
『でもミハイル先生は先生より10cm近くは大きいと思うよ……』
本人がいなくても、もう言いたくて言いたくてしょうがないみたいだ。
負けているのに勝ち誇って大威張り。
リク『ミハイル先生とこの人の関係って一体……』
きっと普段から何かにつけ張り合っているに違いない。
ミハイルがまともに相手をしてくれているかは別として。
鎮「うん、背格好がちょうど合うのはヴァルト殿でござろうな。よし、借りてくる」
リク「いいよ、別に。乾かすから」
ローゼリッタの10月は冷え込むので、天気の悪い日や夜には暖炉が必要である。
鎮が食堂に下りていった間に雨に濡れた服を絞って広げていたリクは、魔法で薪に火をくべた。
髪を拭いた後のタオルを腰に巻いて、はい、おしまい。
鎮「……ビミョー……」
リク「まぁまぁ」
異性がいないとまぁ、適当に。こんなモノである。
鎮「一度戻って風呂でも入ってから改めて来るか明日にすれば良かったのに」
リク「……今がいいんだけど」
困っていなかったら、雨の中、2時間も濡れてはいない。
鎮『……ええと……』
鎮が困って額当てを直す仕草をしていると結局、掃除用のバケツにかき混ぜられた残飯を間食(!)して、スプーンを中に放り込んだリクの方から話し始めた。
リク「先生……俺さ、彼女を傷つけるつもりじゃ……なかったんだよ」
鎮「うん」
空になったバケツを受け取って部屋の隅にどかす。
リク「傷つけるつもりはなかったし、傷つけたくなかったし………上手くやっていけると思ったんだ」
鎮「うん」
端に畳んで積み上げている布団の山から、普段使っている毛布を引っ張り出す。
リク「……俺、感情が欠けてるからかな? 何も……何も感じないんだ。アンは可愛いって思うんだけど、恋とかそういうのじゃなくて……」
鎮「よっと」
やっと引き出せた毛布をふわりと広げてリクの頭から被せた。
鎮「何だ。好いてもおらぬのに承知したのでござるか。ま、付きおうてみてそのうち情も移ろうというならそれもアリだとは思うが」
リク「うん……一応、そのつもりでいたんだけど。彼女はいい子だから、きっと好きになれるだろうって」
受取った毛布に包まってリクは床を見つめた。
鎮「なれなかった?」
リク「好きは好きだよ」
鎮「アンが求めておるのはそういう好きではなかろ。そのくらいわかっておるくせして」
クッションの上に腰を下ろし、そこらに転がしておいた作りかけの人形を手にとって無心に削り始める。
リク「…………。うん、知ってた」
鎮「……………………」
リク「さっき。手をつないで欲しいって求められたんだけど、触れられなかった」
何故と問い返しながら、鎮にもこれで全容がだいたいわかった。
手だけでなく口付けなども求められて、それを拒んだのだろうと言うことが。
そうでなければこんなに大げさに発展しないであろうから。
リク「アンが……キレイ過ぎて……」
どこまでも信じきって何も疑いを持たない、澄んだ瞳。
何一つ汚れた経験のないその身。
彼女から見たリク=フリーデルスはどんな少年なのか。
きっと、きっと本物の李紅とは遠くかけ離れた存在だろう。
本当は盗みも詐欺も強盗も……できる範囲のあらゆる悪事に手を染めてきた人間なのに。
リク「だけど俺は汚いから……薄汚れているから……」
鎮「……手、洗えよ」
リク「いや、そうでなく……」
鎮「わかってるけど」
リク「……からかわないでよ」
鎮「汚れてたって別に良いではござらぬか」
リク「彼女を汚してしまう」
鎮「はぁ?」
ただ触れるだけなら構わないが、そこに性的な干渉が少しでもあってはならない。
それは心身ともに絡んで入り混じってしまう行為だから。
そうなれば結果は見えている。
自分が相手を狂わせて破滅させてしまうのだ。
リク「俺とは……深く関わらない方がいいんだ」
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