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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 66-24

鎮「……おまーは、ウンコかーっ!?」
 
 削るのをやめて人形をリクの脳天に叩きつける。
 ごつんと重低音がして、
 
リク「いでっ!」
鎮「あっ!」
 
人形の首がもげた。
 
鎮「これっ! 人形の頭が落ちたではないかっ!!」
リク「いぃってーえっ!? マジ痛っ! てか、それ、先生が悪いんじゃん! 俺のせいにしないでよっ」 あせっ。
 
 涙を浮かべて頭を抱えながら抗議する。
 
鎮「リクがウンコだから悪いのでござるっ! このウーンコウンコ!」
リク「ウンコウンコ連発しないでよ、ウンコ!」
 
 人形の頭を拾って投げ渡す。
 
鎮「可哀想に、この人形は“リクのせいで首モゲ太”という名になってしもたわ」

▽つづきはこちら

リク「や、やめてよ、そんな人聞き悪い名前つけるの!」 がびん!?
鎮「なぁ、ウンコ。拙者は思うのでござるが……」
リク「ウンコって呼ばないでってば」
 
“ゴールデン”の二の舞はイヤだと密かに思った。
貴族のお嬢様のクルクルふんわりカールした見事な金髪に向かって、「黄金の巻グソ」呼ばわりしたあげく、とうとうそれをあだ名として定着(呼んでいるのは名づけた本人だけだったが)させ、最後までゴールデンと呼び続けた恐ろしい教官である。
 普通なら大問題のはずだが、すっかり呼ばれている方もそれで返事をしていたからいいのだろうか?
 だが、リクはリクと呼ばれたい。
 ウンコ呼ばわりなんてまっぴらゴメンだ。
 
鎮「お前様がどんだけ小汚いかどうかなんて拙者は知らないけど、そのようなこと、もう関係あるまい? これからは薔薇の騎士としてまっとうな道を歩もうとしておるわけなのだから」
リク「…………」
鎮「過去に何があろうと知らん顔しておればよいのに」
リク「だますことになるよ」
鎮「それがいけないことなのか、わからない」
リク「アンに申し訳ないんだ……」
 
 さりとて、本当のことを告げる勇気もない。
 
鎮「ハァ。モテ男クンの言い分はさっぱりわからんでござるな。拙者なら、めっさ大喜びなのにー。嫌われるのなら裏なんか一生隠し通しちゃうでござるもん。カイルではないが、それこそ犬とお呼び下さいだわ。あー、モテてぇー」
リク「そ、そんな、節操ないこと言わないでよ、先生」
鎮「だってちゃんとモテた試しないんだもん」
 
 失敗した人形を名残惜しそうになでていたが、やがてあきらめて床に放る。
 代わりにさっとリクの手を取り、
 
鎮「“好きです、おつきあいしましょう、そうしましょう。”」
 
そしてすぐさまポイ捨て。
 
鎮「……そんな風になったら、いつまでも延々と隣を歩いておしゃべりして終わりというわけにもいくまいが」
 
 もう子供でもないのだからと小さく肩をすくめる。
 
リク「…………そだね……」
鎮「それもわかってて。でもこの先も一線を越えるつもりは全くなくて」
リク「………………」
鎮「越えさせるつもりもない……と」
リク「………………」
鎮「受け入れるつもりもないのに、どうして約束なんぞすっかな」
リク「それは……」
 
 断わったら相手を傷つけてしまうから。
そうなれば、態度もぎこちなくなる。関係が壊れるのが怖かったからだ。
 
リク「……酷いヤツだよね、俺」
鎮「うん」
リク「……わかってるんだ……けど……」
鎮「けどもクソもない。お前様の“傷つけたくない、汚したくない”は、本当は自分が傷つきたくないの間違いでござろ? 相手のせいにするでないよ」
リク「…………ははっ。きびしっ」
鎮「だって拙者、野郎よりも可愛い女の子の味方だもの♪ キャッ☆」
 
リクの心はいつも曖昧で主体性に欠け、周りの状況に流されるばかり。
相手のことを本当に思うなら、きっぱりと断わるべきだったのかもしれない。
受け入れるつもりがないのなら。
 
鎮「…あ。ひょっとして」
リク「何?」
鎮「拙者が彼女でも作れゆぅたのが悪かったのか? それであわてて好いてもいないオナゴに……というわけではあるまいな? だとしたら、ちょっと目覚めが悪いぞ。でも拙者は悪くないからなー」
 
 アセアセ。
 
リク「ち、違うよ! そんなつもりじゃ……あ……でもちょっとはあるかな」
鎮「なぬっ!?」 びくっ!?
リク「いやいや、嘘だよ嘘。……ホントに……俺が悪かったんだ。一方的に」
 
 嘘だといったのが、少し嘘。
 意識していたわけではないけど、見捨てられたような気がして寂しかったのだ。先生に。
 寂しくて、きっと心の隙間を埋めようとした。
 そんなズルイところもあったような気がする。
 
鎮「ともあれ、明日にはしっかと謝っておくのでござるな。今日のうちにこれから相手と向き合っていくか逃げ出すかの結論を出して。結論が出せなかったら、出せなかった旨を伝えて共に考えてもらうのもよかろ。きっとアンはそれでも一緒に悩んでくれるでござろうよ。リクのために」
リク「……うん」
 
 毛布をかき寄せて顔をうずめる。
 
鎮「なぁに、大丈夫。アンとて他人に壊されてしまうほど脆くはない。お前様の自意識過剰というものでござる」
リク「……はは」
  『でも実際に……今まで何人も人の人生を狂わせてきたよ……』
 
 暖炉の火がパチンと音を立てて爆ぜた。
 炎の明かりが部屋の中に化け物のような影を作り出す。
 その正体は明かりを背にしたリクの毛布を被った姿だ。
 ゆらゆら揺らめいている。
 
鎮「お前様は相手を心配しすぎ。もっと信じてほったらかしでもよいと思う。互いに自分の意思と考えがあって行動しておるのだから。食い違おうが間違おうが傷つこうが汚れようが。全て己の選んだ道なれば……自分の責は自分で負うもの」
リク「先生は強いんだなぁ」
 
 ため息混じりにつぶやくと「だから言ったろ。丈夫だと」そう言って鎮はにやりと笑った。

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