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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 66-19

 クロエが目の前から消えてくれて、ようやくリクを取り戻せたアンは肩で息をついた。
 念願叶った恋を守るために必死で、また夢見心地でもあるアンは周りが全て敵であり、一方でこの恋は応援されているものだとごく自然に受け止めていた。
 全神経が恋人に向いていて、それ以外に気を回せなくなっていたのだ。
 そのために友人に寂しい思いをさせても気がつかなかったし、会話といえばリクのことばかりでそれを相手が聞いていて楽しいのかどうかを吟味することもしなかった。
 いつしかジェーンとモーリーはリクがいないときの寂しさを埋める代役に過ぎず、それもただうなずいてリクの話を聞いてくれるだけの便利な相手と化してゆく。
 モーリーはそんなアンに対して全く気に留めておらず、相変わらずどこ吹く風。
 一方、表面上よりも本当はずいぶんと「気にしい」であるジェーンは、今は相手に夢中な頃だから仕方がないと苦笑いを浮かべるだけだった。

▽つづきはこちら

 何でもかんでもどこからでもリクに話をつなげてしまうアン。
 皆が「またか」という表情をしても一向に気がつかない。
 人気者のリクの話なのだから、相手も聞いていて楽しいだろうという間違った思い込みが近頃加速気味である。
 以前からそういう傾向はあったが、特にリクに買ってもらったブレスレットを身につけるようになってから、興奮状態が続いているようだ。
 恋人として人目をはばかることなくいつもついて歩き、リクが他の友人たちと口をきこうものならすぐに間に入って会話を終わらせようとする。
 隠し切れないアンの好意と敵意は、少なからず周りに不快感を与えていたのである。
 そんなアンの良くない噂を耳にして誰より心配し始めたのはリクだ。
 やはり自分の存在が彼女によくないのではないか? ということである。
 リクは自分の容姿が、存在が、相手にどのように作用するかをしっかりと熟知していた。
 その気になれば、人一人を愛の奴隷として狂わせてしまうことも可能だと了解している。
 とぼけたふりをしながら本当は、己の美を意識していないレイオットや逆に醜いと強迫観念のように思い込んでいる鎮とは一線を画して、容姿を武器として扱えることを知っているのである。
 ときにはその魅力が全く通じない特殊な相手もいるが、平凡な少女・アン=ブラウンは通常の人々と同じく、リクというあまりに出来すぎた神の芸術を前に目がくらんでしまっていた。
 他の何を犠牲にしてもこの愛という信仰を貫こうとしているのだ。
 実際に今まで築き上げてきた信頼を失いつつあり、心のゆとりもなくなってしまっている。
 それに代わる大いなる喜びを彼女は手にしていたが、リクからしてみればずいぶんと危ういものに映っていた。
 リクも同じだけ彼女を愛していればよかったが、残念ながらそうではなかった。
 彼女の告白を受け入れて、彼女を愛そうという努力はしている。
もちろん、可愛いと思うのは本当だし、この子とならばきっとやっていけると思って首を縦に振ったのだ。
 誰でもよかったわけではない。好きになれそうな相手だからこそ、請け負ったのである。
 けれどまだまだ友達のような感覚から脱し切れていない。
 せいぜい、「妹のような」がいいところである。
 頼られれば面倒を見たくなってしまう女の子。けれどドキドキと胸が高鳴ることはない。
感情が乏しいリクの中で恋に育つには時間が必要だった。
また時期もよくなかった。
家族の仇がすでにこの世から去っていたという事実を知った後の喪失感を埋めるように付き合い始めてしまったから。
リクの方では喪失感を埋めるように頼っていた鎮に彼女を作れと言われて少し突き放された気持ちになっていた。
アンの方では片思いを打破すべくモーリーが舞台を整えてしまい、その流れで現在がある。
二人の強固な意思から生じた恋の始まりではなかったのだ。
このようにスタートをきった恋愛にアンはたちまち夢中になって溺れていったが、リクはどうあっても冷静なまま、浸ることができない。
彼女をとても良い子だと思うのに、それが恋に直結しない。
それはアンの魅力が足りないわけではなく、きっと自分に原因があるのだとリクは思っていた。
家族と死に別れて、寄る辺を失くした13歳の彼は貧民街のストリートキッズの仲間入りを果たし、強盗、詐欺など殺人以外のあらゆる悪事に手を染めてきた。
根が優しく、人と争ったり傷つけあうのを良しとしない性格の彼は、貴族の召使いの荷物をひったくってはその後で、召使いの子が貴族からどんな仕打ちを受けるだろうかと気が重くなったりもした。
この類稀な美貌を利用して相手をだますこともあった。
心は痛んだが、自分ひとりだけならまだしも、徒党を組んだ中にはほんの小さな子もいて、それらを食わせていくためにはどうしても必要なことだった。
日雇いの仕事もしていたが、それだけではとてもではないが足りなかったのである。
そんな汚れた日々は長くは続かず、恩人である神父との出会いで足を洗うことになるのだが、彼は自分が心身ともに汚れきっていると現在も思っている。
だからアンの愛を受ける資格がないとどこかで壁を作ってしまっているのだ。
断わると気まずくなってしまう。
友人という関係が壊れるのも怖い。
アンのことは好きになれそうな気がする。
そうして告白にうなずいたものの……
 
リク『俺のせいで友達から敬遠されていたとしたら……俺が彼女の本来の魅力をそこねてしまっているのだとしたら……やっぱり一緒にいない方が……?』
 
 抗えきれぬ美貌が相手を壊すのだとしたら。
 ちらりとアンに視線を落とすと彼女はさっと頬を染めて顔をそらした。
 見れば必ず目が合う。
 それは相手が常にこちらを見ているから。
 図書館デートで勉強を教えてあげているにも関わらず、アンの成績は付き合い始めてから落ちる一方になってきてしまっている。
 授業中も上の空だからだ。
 こうなるとリクでなくとも心配になるというもの。
 特に3回生からが厳しいというのに。
 今日も放課後は図書館でお勉強デートということにはなったが、またリクの話など聞いていないだろう。
 相手のことを思うなら少しくらい厳しくしなければいけないのだろうけれど、それができないのがリクである。
 つい甘やかせて何でも自分が先回りしてやってあげてしまう。
 図書館に足を運び、二人で向かい合うもやっぱりいつものように勉強そっちのけの見つめ合いタイムに突入だ。
 
リク「アン、もう少し頑張らないと、試験近いよ?」
アン「そ、そうよね。ゴメンなさい」
 
 言えばあわててノートと向き合ってくれる素直な子なのだが。
 しばらくするとやっぱりこちらを見て関係ないことを話しだしてしまう。
 
リク『俺も、人のこと言えないけどね』
 
 教科書、ノートとを指でとんとん叩いてアンを促すリクとて、今回の試験は珍しく1位を獲れる自信がない。
 家族の仇が死んで生きる目的を失くし、無気力感で一杯なのは今も変らなかったのである。
 アンという彼女が出来ても独占欲に満ちた愛を向けられてもリクの心に響かない。
 それよりも敬愛する教官の境遇を知ってしまい、しかもそれについて何の手立ても講じられずにいることの方がはるかに重く彼の心を支配していた。
 心配事ばかりでも気が入っていなくともそつなくこなすのが天才児の彼なのだが、唯一のライバルとするクレスがすぐ後ろに控えているのだ。
 降下するリクを追い抜く勢いでめきめきと実力をつけてその才能の片鱗を見せている。
 彼には負けたくない。
 そして成績を落として教官にため息をつかれたくない。

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