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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 66-12

リク「……そうだろうね」
 
 そんなクロエを見ないようにしてリクは色を変えたケヤキの葉を見上げた。
 
クロエ「先生は、もう構わないでくれって言うの。蒸し返すなって……それで私、何も言えなくなってしまって……」
 
 作った笑顔はすぐに崩れて悲しみの海に沈んでいった。
 
クロエ「どうしたらいいのかな。私、余計なことをしたのかも……」
リク「………………」
 
 もちろん相談を持ちかけられたリクにだってわからない。
 わからなくて持て余しているのだから。

▽つづきはこちら

 対象者は独りで苦しんでて、でも差し伸べた手は取ってくれなくて。
 逆に気を使わせまいと振舞おうとする。
 
リク『俺たちが子供だからだ……』
  『俺たちが子供で頼りにならないから……だから、平気な顔をして見せなくちゃならなくなっちゃうんだ、先生が』
 
 拳を握って力を込める。
 黙っているリクにクロエは不安を覚えて横顔を仰ぎ見た。
 
クロエ「ごめんね? こんなこと、持ちかけられても困るわよね?」
リク「あっ、いや、違うよ。クロエが頼ってくれて俺は嬉しいんだ」
 
 これは本心だった。
 クロエに頼ってもらえると、いや、クロエでなくともリクは頼られるのが嬉しいのだ。
 誰かに必要とされたいといつも望んでいるから。
 
クロエ「でも……」
リク「本当だよ。ただ、俺もまだ答えが見つからなくて……一緒に考えよう、二人で」
クロエ「うんっ」
 
 安心させるように微笑むとクロエもようやく笑顔を取り戻してくれた。
 
リク「二人で追うと先生も疲れちゃうかもしれないからさ。ここは一度、俺に任せてもらえないか?」
クロエ「大丈夫? ぬかに釘、のれんに腕押し状態よ? 何を言っても気にしないでって受け付けてもらえないんだから。私なんかのけ者結界バリア張られちゃったわ」
 
 肩をすくめる。
 4つも年上なのにヒサメ先生ときたら子供っぽいったらない。
 
リク「あははっ。先生はすぐそーゆーコトするからなぁ。でも、それでもしつこく煩く追い詰めれば、きっとそのうち尻尾を出すよ」
クロエ「尻尾って……」
 
にっこり天使の笑顔でなんと過激な。
こうなるともう悪魔の微笑にしか見えなくなってくる。
 
クロエ「それって嫌われちゃったりしない? 余計に頑なにさせちゃうとか……」
リク「うーん、痛い所を突いて下さる」
クロエ「だってもう既に構えちゃってて、僕は岩です、石です。何も言いません感じませんになっちゃってるんだもん、先生ったら」
リク「すでにそうなら口を無理やりにでも割らせるしか……」
クロエ「だから怖いったら」
リク「あはは。でもさ、」
クロエ「ん?」
リク「俺は先生の側に……誰もいないわけじゃないって……わかってもらいたいんだ」
クロエ「私も……」
 
 首を上下に振って賛同する。
 
リク「だよね。……俺が失敗してもっと頑なになっちゃうかもだけど、俺、腹を割って話してみたい。任せてもらえる?」
クロエ「……わかったわ。何か策があるんだよね。リクのことだもん」
リク「あー……いや、そう言われるとあれなんだけど~」
 
 急に自信を失くして頭をかく。
 
クロエ「えぇ~?」
リク「当たって砕けろ……かな?」
クロエ「うん……でもいいよ。やってみて。私よりリクの方がずっと近いから。男の人同士の方が分かり合えるかもしれない」
 
リク「……ありがとう」
クロエ「こちらこそ。任せて責任押し付けてしまったみたいで申し訳ないわ」
リク「俺がやりたいんだ」
 
 つながりが欲しい。
 鎮の壁を崩すのは、できれば他の誰かではなくて自分でありたいと願う。
 いや、同じ傷を持つ自分だからできると思う。
 例え友人であっても去る者を追わないのがリクという少年であった。
 生きるためとはいえ、貧民街で悪事に手を染めてきた自分だから人を追う資格がないと思っている。
 だから、こんなに自ら関ろうとするのは珍しい。
 何がそうさせるのかわからない。けれど、ただ追わねばならないと強迫観念にも似た思いが背中を強く押していた。
 
クロエ「ふふっ。リクとヒサメ先生の間は特別だもんね」
 
 すっと手を伸ばしてリクの肩に舞い落ちた落ち葉を指先で拾い上げる。
 
リク「あ、ありがと」
クロエ「どーいたしまして」
 
 にっこりと微笑むとつられてリクも笑い返した。
 クロエはとりあえず身を引いてリクに全面的に任せることにした。
 二人で追っては確かに逆効果かもしれないと考えたのだ。
 残念ながら、クロエと鎮の間には絆が存在しない。
 クロエは鎮を面白い先生だから遊び半分に追っていただけで、教え子には違いないが多くの生徒の一人でしかなく、それ以上の特別な思いなど向けていない。
 好きな先生のトップクラスに入れてはいたけど、人間というよりはやっぱり面白い生き物でしかなかった。
 むしろ、今回初めて相手を人として意識したかもしれないくらいだ。
 初めてのきっかけというのがあまりに衝撃的で重いものだったから、苦しくて悲しくて、可哀想で……お陰でこの1カ月は彼のことで常に頭がいっぱいである。
 気がつけば彼のことばかりを案じている。
 満身創痍の姿を見れば、ぎゅっと抱きしめてあげたい衝動に駆られることもある。
 一人の人間についてこれほど意識を向け続けたのもまた初めてであったと思う。
 ただし、それがシズカ=ヒサメだからではない。
 同じ状況なら、相手が誰でも同じような気持ちになるのがクロエだ。
 本音で言えば、やっぱり自分だって助けてあげたいと切実に思うのだけど、ここは心底、ヒサメ先生個人を慕うリクの方が適役に違いないと判断したのだった。
 
クロエ「でももしまだ力が必要だったらいつでも言って?」
リク「わかってる。クロエも先生を心配してくれているんだもんね」
クロエ「うん。私、先生、大好きだから」
リク「そうだね。その気持ちが届くように俺も頑張ってみるよ」

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