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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 66-11

アン「わ、私も力になるよ、クロエ」
 
 すぐ隣にいたアンが会話に割って入ってきた。
当然、連れだっているであろうアンの姿が人波に隠れて見えなかったので、クロエはしまったと思った。
リク以外に聞かれたくない話しだったのに、アンにまで気を使わせてしまった。
 
クロエ「ありがとう、アン。そう言ってくれると心強いんだけど……」
アン「だけど?」
クロエ「ごめんね、ちょっとその……」
アン「私は聞いたらいけないの?」
クロエ「えっと……」
リク「ごめん、クロエ。じゃあ後で」

▽つづきはこちら

 
 言いよどんで困り顔のクロエに代わって強引にリクが打ち切る。
 アンには悪いけれど、リクとしても秘密を広めるわけにはいかなかったのだ。
 
クロエ「う、うん。ごめんね、アン。後でちょっとだけリクを借りるわね」
 
 せっかくのアンの好意に甘えられないことを謝って、とりあえず側を離れる。
 リクにも申し訳ないことをした。
 これから問い詰められて困ることになるだろう。
 なんて軽率な行動だっただろう。
 小さく後悔して後から入ってきた友人たちと合流する。
 アンの執拗な視線が追ってきていたが、敢えて鈍感を装って友人の輪に溶け込んだ。
 
アン「リク君……どうして私に隠し事するの?」
 
 クロエから目を離してテーブルの空きを見つけるとアンとリクの二人は向かい合って腰を下ろした。
 秘密の会話に加わらせてもらえなくて寂しくなったアンは上目遣いで控えめに不満を口にした。
 
リク「本当にごめん……これはえっと……ある人のプライベートのことで……それをたまたま俺らが知ってしまって……そのことでクロエが相談があるんだと思うんだ。だから」
アン「私もその人の力になる。リク君のことなら何でも知りたいの」
 
 身を乗り出す。
 けれどリクはお茶を濁して内容までは話してくれない。
 
リク「いや、だから俺のことじゃなくて……もちろん、クロエのことでもなくて」
アン「……ヒサメ先生?」
リク「あ、いや、その、まぁ……」
アン「………………」
『リク君を思い煩わすのって……あの人しかいないじゃない』
 
 いい加減に嫌になる。
 間に入ってこないで欲しいと思うのに。
 
リク「……ごめん」
アン「私……私ね、これでも結構、友達とかに相談されたりするんだよ?」
リク「アンは優しいし、聞き上手だから……皆に信頼されているんじゃないかな」
アン「……そ、そうでもないけどっ」
 
 褒められて急に顔の温度が上昇した。
 この笑顔はズルイ。
 アンは目を伏せて残り野菜をぶち込んだだけであろうコンソメスープをかき混ぜるのに一生懸命の振りをした。
 リクは知っているのだろうか。
 あの笑顔には魔力が備わっていることを。
 不機嫌をご機嫌に変えて不安の雨雲を払える力があることを。
 それでいて言いたかったことを封じてしまう封印の魔力も備わっていることを。
 
リク「だけど、今回だけは。……本当に悪いんだけど」
アン「先生は!」
 
 シャットアウトされる前に言葉を被せて阻止した。
顔を上げて同時にスープをかきまぜる手が止まる。
 
アン「ヒサメ先生は平気! 大人なんだからっ」
リク「……そう、だね」
アン「私たちがどうこうできる話じゃないと思うの。ね?」
 
 疎外感からくる苛立ちが含まれて、思ったよりも強い口調になってしまい自分でも驚いた。
これでは冷たい人だと思われかねない。そんなことはないのに誤解されては大変だ。
今度はなるべく優しくなるように気をつけて声量を下げた。
 
リク「うん……俺は……確かに俺は、何も出来ない子供だからね」
 
 視線を落として小さく息をつく。
 無力感と虚無感でいっぱいだ。
 
アン「……仕方ないわ。よくわかんないけど……リク君が悩むことはないと思うの」
リク「そうかも……そうかもしれないね。アンはよくわかってるんだなぁ。事情も知らないのにスゴイよ」
アン「え、えへっ。……えっと、だからね。あんまり気にしない方がいいと思うんだ」
リク「………………うん……」
 
 またリクの表情が沈んでしまいアンの胸がきゅっと締め付けられた。
 こんな顔をして欲しかったわけではないのに。
 事情も知らないのに当てずっぽうで言ったのが、的を射ていたのか。
 リクはヒサメ先生を何とか元気付けたがっているようだった。
 けれどアンが見た感じ、あの先生に何があったようにはとても思えない。
 怪我をして大変だったのは知っているけれど、もうそれも大まかには治ってしまっていた。
 まだ所々、包帯は目立つし足首も片方、固定されているようだけど松葉杖はすでに手放している。
 見た目よりも酷くなかったようで、復帰まで半年はかかると思っていたのに割と元気だ。
 その彼が今度は何だというのだろう。
 リクとクロエだけが知っていること。
 アンに内緒にされていること。
 ちょっとつまらない。
 食事が終わるとリクはアンにもう一度謝ってクロエとどこかへ消えてしまった。
 取り残されたアンは仕方なく元のグループ……ジェーンとモーリーの方へ戻るしかなかった。
 リクを連れたクロエは学舎の外に踏み出した。
 途端につむじ風が吹き、色素の薄い柔らかな金の髪をさらって舞い上げ、光の糸を宙にばら撒く。
 髪を押さえて目を細めるクロエの姿をリクは素直にキレイだなと思った。
 だがのどかな空気もすぐに壊れる。
 これから話すことはあまり微笑ましい内容ではなかったから。
 人に立ち聞きされるのを恐れ、特定の場所に腰を落ち着けるよりも歩きながらということになった。
 秋も深まって少し寂しくなったケヤキ並木の下をゆったりとした歩調で肩を並べる。
 
クロエ「もう、予想はついてると思うけど……」
リク「先生のこと?」
クロエ「うん」
リク「…………」
クロエ「さっき、先生と話をしたの。呪いのことを教えて欲しいって」
リク「そしたら?」
 
 期待せずに先を促す。
 
クロエ「やっぱり私たちには無理だってどんな呪いなのかも教えてもらえなかった」
 
 口だけで笑ってうつむく。

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