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レイディ・メイディ 65-5
2008.09.21 |Category …レイメイ 65話
ニケ「君は」
鎮「……はい」
ニケ「何故、二人を救った?」
鎮「救ったのではございませぬ。一族問題に巻き込んだ責任と、年長者の責務と、教官というお仕事上、仕方なくでございまする」
ニケ「あははっ。うん、そっか。そうだね。それでいいんだ」
鎮「そこに情があったと、お考えになりますとこのヒサメを見誤ることになりますゆえ。お気をつけ下され」
ニケ「……君は素直なんだね」
鎮「………………」
▽つづきはこちら
今回の会談はこれまでだった。
鎮が考えさせて欲しいと慎重に切り上げたせいだ。
これだけの大役となれば当然の反応だろう。
今後どう変わるかわからないが、現時点では想像以上に素朴で無欲なこの青年の他に適任者はいない。改めてその答えにたどり着いた。
確かに謎の点は多い。身元も不確かで異国民。けれど、だからこそということもある。
少なくともしがらみに囚われて身動き取れない人間をつけるよりはいいのではないかと思った。
相手が消えたドアを見つめていたニケは自らも次の講義のために腰を浮かせる。
話題に上がった「ジュール(日の王子)」「オーロール(暁姫)」を所持したリクは只今、馬に乗る訓練中であった。
3回生にもなると教養と学科の授業が極端に少なくなり、代わりに乗馬と軍隊として機能するための演習が入ってくる。
その授業に関して、学科・理学及び黒魔法の教官である鎮はノータッチのため、自由な時間が増えることになる。
先ほどのニケからの話を思い浮かべて、鎮は魔石を宿したリクを見に行くことにした。
松葉杖をついてえっちらおっちら。養成所の外まで。
門を出るとすでにほとんどの生徒は馬を自由に扱って訓練をしているというのに、一人だけまだ門の側から離れられない者がいた。
噂の天才少年・リク=フリーデルスである。
馬に触れたこともなかったクレスは去年、クロエがさらわれた事件の際にレクの後ろに乗っていたが、早くも慣れて皆と同じように操っている。
ところが。
同じく当時、レイオットの後ろに乗っていたリクはというと、今もやっぱりあのときのままで……
リク「ハッ!」
「それっ!」
長い足を高々と後ろに振り上げて、鞍にまたがるも勢いつけすぎなのか、反対側に落ちてしまう。
華麗に飛び乗るのを諦めてよじよじ這い上がってみたなら……
リク「馬の首が!?」
……尾を手にとってあわてる始末。
じたばた暴れてようやく乗ってみたら、反対向きだったのである。
意外なことに天才少年クンの弱点は、馬だった。
出だしの一歩で乗馬の教官を困らせている。
門からひょっこり顔を覗かせた鎮に気がつくと一生懸命手を振って、教官に苦い顔をされている。
鎮『アレが“じゅうる”と“おおろおる”か』
彼の美しさをいっそう際立たせるのに一役買っている、左右の紅い瞳が魔石の正体だ。
もしも姫が窮地に陥ったときに自動的に発動する仕組みとなっているらしい。
それを何故、リクが生まれ持ってしまったのかはわからないという。
伝説の12賢者が力を合わせて作ったのが、眠り姫を起こすことの出来る奇跡の石「ジュール」と「オーロール」。
なるほど、眠りから目覚めさせるのは、暁と太陽である。
役目を終えると石は溶けて霧散し、また必要になればどこからか現れるというのだ。
近く不吉なことが起ころうとしている。
だからある少年の身体を借りて石の力が目覚めた。
力を持つ少年は守るべき対象に惹かれる。ただ、理由もなく無性に守りたいという精神の作用が働くのだ。
鎮『当人にとってはいい迷惑だな』
ニケの言うには、リクもクロエも本人たちはあずかり知らぬところで、この養成所にかくまわれているのだそうだ。
クロエは姫で幼い頃にグラディウス家に預けられており、王宮にいて式典の際に顔を出している現在の姫は影武者である。
本来ならばシレネの呪いは「15歳までに」災厄が訪れるのであって、それを回避するために外に預けた。
それが済めば王宮に連れ戻されるのが代々の決まりだったが、今、巷ではシレネの復活がささやかれている。
そこでもっと力が身につくまでは養成所にとなったらしい。
クロエはそれでいい。
リクはといえば、保護されるのが遅かった。
魔石がどこに現れるか予測が難しいために、国からの保護が遅れてしまったのである。
この守護する両眼をいち早く見つけた輩が彼の家庭に押し入り、一家殺害に及んだ。
フリーデルス一家の中の誰かの体内にあるという情報を受けて、家族の身体を探ったのである。
肉を引き裂き、臓物を引きずり出して。
結局、紅い宝石は見つからなかった。
それもそのはず、この時間帯に丁度、外出していた男の子の両眼に宿っていたのだから。
男の子の愛する家族は幸せと共に無残な形で消えた。
彼の宿す魔石のために。
13歳にして最大の不幸に見舞われた彼はその後、病院に収容され、貴族に2週間ほど引き取られたが、そこの貴族というのが色のために見栄えの良かった彼を手にしたかっただけだったのであわてて逃げ出した。
後は日雇いの仕事をして食いつなぎ、それでも心もとなくなると悪い仲間と盗みを働くことで日々の糧を手にする生活に身を堕とした。
だが幸運なことにそんなどん底生活も長くは続かない。
早々に恩人である神父に見つけ出されて、生きていくためのいろはをたったの2年半程度だが学び、養成所に入所することになる。
これは仕組まれたことであった。
リクが恩人と固く信じて疑っていない神父は国から派遣された者だったのだ。
リク=フリーデルス保護のために。
養成所にゆくように指示したのも、彼の身を守るため、そして彼がその類稀な才能を花開かせて姫を守るべく修行させるためだ。
運命に翻弄され続ける。それがリク=フリーデルスという少年である。
魔石の力を受け継いだために家族を失い、行く末も姫のためにと決まっている。
当人の知らないところで、だ。
クロエにしてもリクにしても、国の都合で勝手に人生のレールを引かされ、その上を無理に歩かされているに過ぎない。
全て自分の意志で決めて動いていたと思っている二人が真実を知ったら、どのような顔をするだろうか。
村のために命を捧げよと強要される立場にいる鎮は、やり切れない思いで首を横に振った。
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●Thanks Comments
日の王子、暁姫。
がリクの眼に?
氷鎖女編でクロエを守ろうとしたのも、このせいだったのかな?それともやっぱりリクの意思だったのかな....。
今まで日の王子、暁姫の石の事は文章ででてきてても意味がさっぱりわからなかったけど....。
でも、これで謎がついに解けた♪(^-^)
と、いうことはリクがクロエを守るべき存在だとすると.....アンっ!もっと頑張れ☆(笑)←ぉぃ。
やっと、
日の王子、暁姫の意味がドバーンと書けました。
ええ、そういうことです。
今後もちょこちょこ説明入っていくと思いますが。
クロエを守ろうとしたのは、このせいです。
そして妹に似ているから。
相乗効果。
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