HOME ≫ Entry no.1053 「レイディ・メイディ 65-3」 ≫ [1058] [1057] [1056] [1055] [1054] [1053] [1052] [1051] [1050] [1049] [1048]
レイディ・メイディ 65-3
2008.09.19 |Category …レイメイ 65話
この1カ月、兄に寄り添ってあれほど幸せそうにしている姿を見たことがなかった。
ニケ「……で? お兄さんは?」
鎮「死にました」
即答だったので、一瞬言葉に詰まったが質問を続ける。
ニケ「死んだ? 殺した?」
鎮「……殺しました」
ニケ「彼がクロエとリクをさらった動機は?」
鎮「ひとつは拙者を遠くへおびき出すこと」
ニケ「何故?」
鎮「この近くで戦いが起これば、邪魔が入りますゆえ」
ニケ「ナルホド、理に適っている」
▽つづきはこちら
鎮「もう一つは、彼らが公爵より命を受けていたからでござる」
思ってもいなかった情報にニケが思わず立ち上がった。
ニケ「なんだって!? もう一度、申してみよ!」
険しい顔つきになって睨みつける。
鎮「わいずまん公がそう望まれたと言ぅたのでござりまする」
ニケ「………ばかな……」
いわかに血の色が引いてどこか遠くに目線を漂わせていたが、やがて疲れたように再びソファーにもたれかかった。
ニケ「その話……まだ誰にも言ってないだろうね?」
鎮「はい」
昂った気分を落ち着かせながら、息を吐き出してニケは相手に確認を求めた。
ニケ「ワイズマン公といったら、女王さえ手出しはそう簡単にできないほどの有力者だということは知っているね?」
鎮「……あの……いえ、あんまし」
ニケ「えっ!?」
鎮「あ、いや、その……あまり……世の中の情勢に詳しくなく……」
何かしくじったらしい。
あわてて取繕い、詳しくないと格好をつけて言ってみたものだが、要するに世間に疎い。
とにかく世の中に興味がない引きこもり体質である。
ニケ「…………」
ぽかんと口をだらしなく開けていたニケは、髪をくしゃりとひとつかみして呆れと驚きをどこかに追いやると表情を引き締めた。
ニケ「で? そのワイズマン公爵が何ゆえ、彼らを?」
鎮「その辺りの事情は兄も聞かされていなかった様子。ただ、路銀と拙者の行方の情報を条件に引き受けただけかと存知まする」
ニケ「ナルホドね」
鎮「しかし拙者が思いますに……」
ニケ「……申してみよ」
鎮「クロエはまた姫君と間違われたとして」
ニケ「…………」
鎮「リクは………」
一本指を得意げに立てる。
鎮「リクは…………………食い逃げが原因なのではないか…………と」
ニケ「…………」
ひく…。
あまりのトンチンカンな迷推理にニケは一瞬、真っ白になって固まってしまった。
どこの公爵様がたかが食い逃げしただけの少年を薔薇の騎士団養成所からわざわざ連れ出すものか!
代償に高いリスクを支払ってまで。
いくら本当の事情を知らないとはいえ、導き出した答えがソレか!?
フリーズが解けると今度はふつふつと無知に対する怒りが湧き上がってきた。
それはもう、マグマのように。
手近にあった愛用の杖を引き寄せると、ソファーの上に立ち上がり怪我人に向かって振り下ろす。
鎮「アイッター!」
ニケ「こーの、トンチキがぁーっ!!!」
鎮「っきゃー!?」
首をくすめて縮こまる。
ニケ「よいかヒサメ! このことは絶対に内密である!! その兄とやらが嘘をついた可能性も否定できぬのでな! 軽々しく公爵の名を出すでないぞ、今後もな」
鎮「……御意」
ニケ「………………」
なんということだ。ニケは唇を噛んだ。
こうあっさりと黒幕の名が挙がってしまうとは。
しかし証拠がなければ、詰め寄ることも出来ない。
ニケは鎮が。またその兄が嘘をついているとは思えなかった。
公爵の名を出す必要性がどこにも見当たらないからだ。
忠誠心などカケラもない異国民だからこそ気の咎めもなく口にしたに違いない。
これは却って信憑性が高まってしまった。
だが、公爵を挫くには証人に力がない。知らないと言われたらそれまでだ。
失敗を考えていたからこそ、素性の知れぬ異国の民を利用したのだろう。
けれど。と、ニケ=アルカイックは考えた。
黒幕がわかったことで防衛策は取りやすくなったではないか。
ここまで正直に話してくれたヒサメにはそれなりに報いてやらなければならない。
そう。結局のところ敵だったとはいえ、その一族争いに巻き込んだとはいえ、彼は姫と姫を守護する宝石を守ったのだ。
それにだ。
最も重大な秘密の一つに彼は触れてしまった。
このまま野放しにすることはできない。
首に鎖をつけておかなくては。
そこで前々から考えていたプランを口にする機会が巡ってきたのだと彼は思うことにした。
ニケ「唐突だけど、ヒサメ」
鎮「はい」
ニケ「貴族に……貴族にはなりたくはないかい?」
鎮「いえ、別に」
ニケ「……そうか。そうだよね。外国人のしかも流れ者の君にとっては過ぎた話だ。これを断わるなんてこと……………エ?」
重々しくうなずいていたニケがピタリと動きを止める。
PR
●Thanks Comments
クロエは姫だけど..
リクは食い逃げ....(笑)ヒサメ先生の思考回路笑えるっ!!!
偲兄さんも死んじゃったんだ...(T_T)残念です。
鎮の発想は、
乏しいのでそんなコトに(笑)
リクが聞いたらビックリですよ!
彼はリクをそんな眼で見ています(笑)
●この記事にコメントする
●この記事へのトラックバック
TrackbackURL: