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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 65-4

鎮「別になりたくありませぬが」
 
 何かに引っかかったような動きで首をかしげる。
 
ニケ「……嘘……」
鎮「?」
ニケ「………………」
 
 咳払いして、改めて問い返す。
 
ニケ「なんで?」
鎮「だって別にいいもん。……あ。ござる」
ニケ「ヒサメは欲がないんだね?」
鎮「とんでもござらぬ。拙者は業突く張りでござるよ」
ニケ「それが地位や名誉ではないだけで?」
鎮「まぁ……」
 

▽つづきはこちら

 地位や名誉など、手に入れようと思えば簡単に手が届くと実力に見合った自信を彼は持っていた。
 欲しいのはそんなモノではないのだ。
 彼にとってこの世で最も手に入りづらいモノ……。
 唯一無二の愛。
 それただ一つだ。
 それがどこかに落ちているのだとしたら、拾えるものだとしたら、あとの世の中のものは何も要らない。
 けれど実際には落ちてはいないし、この世には存在しないものと諦めてしまった。
 アレは想像の産物なのだ。幻をつかむに似ている。
 そうやって先日のことも自らの中で片付けようとしている最中である。
 幻を手に入れるなどと欲張り以外の何であろう。
 彼は口元を歪ませて笑った。
 
ニケ「だったら欲しい物はなんだい?」
鎮「子供の夢のような荒唐無稽なものでございます」
ニケ「言ってごらん? 叶えてあげられるかもしれないよ?」
 
 鎮は黙って首を横に振った。
 
ニケ「……そう。では今から言うことを聞いて、その後で考えてくれてもいい。とても大事なことなんだ」
鎮「……はい」
 
咳払いをして覚悟を決め、ニケは話し出した。
まずはクロエがこの国の姫君であること。
狙われるのを回避するために別の家庭に預けて姫だということを本人にも伏せてあったこと。
どこからその秘密が漏洩したかは現在も引き続き調査中であるが、今までさらわれる事件が起きたのもこのためであった。
それから、リク=フリーデルスについても驚くべき真実が隠されていた。
彼は姫君を守護するための魔石を2つ、所有していたのである。
魔石の名は「ジュール(日の王子)」と「オーロール(暁姫)」。
 
鎮「ちょっ……ちょっとお待ち下され。ニケ殿」
 
 話の途中で鎮がストップをかけた。
 
ニケ「なんだい?」
鎮「そのような重大な内容を申されますと、拙者は……何やら物凄い嫌な予感の渦に……」
ニケ「わぁ、よく気づいたねぇ」
鎮「先は聞かずに、今のことも聞かなかったことにしてもよろしいか?」
ニケ「ダメー♪」
 
にっこりと無邪気な笑顔で圧迫。
 
鎮「うわぁ~……」
 
 てっきり首の通達かと思いきや。
 とんでもない展開に……
 
鎮「よそ者の拙者に言っては、都合が悪いでござろう。忘れます、今すぐに!!」
ニケ「うん、だからさ。よそ者じゃなくそうって言ってるんじゃない? 貴族と養子縁組をしてだね、君はあの二人を災厄から守る盾となるんだよ。悪い話じゃないだろ?」
 
 ずけずけとよく言う。
 とんでもないタヌキジジィだ。
 鎮は内心舌打ちをした。
 要するに今度の身内の不始末の責任を問わない代わりに、二人の護衛役を正式に務めよというのである。
 
鎮「他の者であるならばいざ知らず! クロエとリクですぞ!? あの地獄よりの使者! クロエとリクですぞ!?」
ニケ「二人を怖がっているのって世界広しといえどたぶん君だけじゃないかな」
 
 だいたい、地獄の使者どころかクローディア姫とリクの属性は聖であり、光である。
 
鎮「ようやくクロエ人形を納品して変態の汚名を逃れたところであったのに、何ゆえまたヤツラに必要以上に側におらねばならぬのでござるか。拙者、イヤン」
ニケ「ワガママだな、君は。今回、君の身内のせいで二人が危険にさらされたんだよ。わかってる?」
鎮「責任は果たしたつもりでござる。それでもとおっしゃるならば、どうぞ、解雇なり何なりして下さいませ」
ニケ「この話の内容も聞いている。解雇じゃ済まないって。アハハ」
鎮「済まないとは?」
ニケ「決まっているじゃないか。文字通り、首だよ。ク・ビ♪」
 
 自らの首に指を一本当てて、横に引く。
 解雇ではなく首。そして文字通り……
 
鎮「それって……胴体と頭が別れを告げるアレデスカ?」
ニケ「ソウデス」
鎮「………………」
 
 どーん。心に闇のカーテン。
 
鎮「そっ…………そんなのズルイ!! 秘密は勝手にニケ殿がゆったのに!!」 がびんっ!?
ニケ「そりゃあ、逃げ道塞ぐために決まってるじゃない」 しれっと。
鎮「たっ……タヌキじっじぃぃぃぃぃぃ!!!! キシャー!!」
ニケ「たかだか20年ちょっと生きたお前さんと一緒にするでないぞ、小僧♪」
鎮「ぐああっ!!」
 
 鎮、完敗。
 亀の甲より年の功。涼しげな顔をしたニケにまったく歯が立たず。
 
鎮「しかしニケ殿。拙者が裏切らぬとは限らないのでござるぞ」
ニケ「肉親と殺しあって、行く当てもない君に裏切る必要性を見出せないね」
鎮「血縁者がいる者にその任は当たらせるべきでは? 身一つしかない身軽な者は、気分次第でどうとでも転びまする」
 
 素直に白状する彼にニケは苦笑した。
 裏切ろうという人間はそんなことを口にしないよ、と。
 けれど鎮は真面目にどうだろうと首をすくめている。
 彼は自分がそういう人間だと知っているからだ。
 全ては気の向きよう。
 だからこうしてあまり信頼されると困ってしまうのだ。
 そこすらニケは見通して利用しようとしているのかもしれなかったが。

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