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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 64-6

冴牙「アイツの顔、見たことあんのか?」
リク「……いや……」
クロエ「…………」
冴牙「醜いったらねーぜ? おシズ捕らえたら見せてやるよ。アレを見たら、引くだろうなぁ。引いたらシズはさぞ恥じるだろうなぁ。はははははっ」
リク・クロエ「…………」
 
 
遠くに、野営の火が見えた。
グランタイン公爵領に入る手前の険しい山中だ。
相手は自分が来ることをわかっている。
だからこそ火も平気で燃しているのだ。
人質は無事らしい。案内役の蝶を握りつぶして、ひとまずほっと息をつく。

▽つづきはこちら

自分の大切なものはどうしてこうも取り上げられるのだろう。
彼は苦々しく思った。
幼い頃、怪我をしたタヌキを介抱してやり、こっそり飼っていたことがあった。
慣れたタヌキは可愛くて、兄が修行で遊んでくれない間はもっぱらそのタヌキを構っていた。
ところが。
村の悪童どもに見つかり、目の前で惨殺される。
彼が泣くのを皆、楽しみにしているのだ。
タヌキを助けたかったら、土下座しろ。
助けたかったら、犬の真似をしろ。
助けたかったら、裸になれ。
最終的に皆に小便を頭からかけられたけれど、結局、タヌキは助からなかった。
反撃して噛み付いたから、怒りを買ってしまったのだ。
冴牙たちの。
首に縄をかけられて、蹴り殺され、最終的には高い木の枝に吊るされた。
自分は押さえつけられて何も出来なかった。
タヌキは怪我が治ったら開放してやるべきだった。
そしたら殺されずに済んだ。
自分のせいで殺されたのだ。
タヌキの遺骸はなかなか取れなくて、何日もそのままだった。
兄がヘタクソなクナイを投げて縄を断ち切ってくれるまで。
自分は、いつもいつもいつも、泣いてばかりいた。あの里では。
離れて12年。
今また、あのときと同じことが起ころうとしている。
飼っているタヌキが2匹、悪童の手元にある。
けれど大丈夫。
もう彼は12年前の弱虫ではないから。
彼は考えた。
どの順番で惨殺してやろうかと。
まずは魔法でご挨拶でもしてやろうか。
呪文を唱えかけて、ズキンと強い痛みが左胸に走った。
まさか……
すぐにその原因に突き当たって、着物の胸元を広げてみる。
そこには“血の契り”の跡がくっきりと残っていた。
ああ、そうか。
全て了解した。
何故、今頃になって兄が幼い日の血の契りを再現しようなどと言いだしたか。
それもこちらが杯を用意しようというのを押し留めて、あのときと同じ方法をとりたがったのか。
互いの胸に跡を残すなんてやり方、無知な子供だから許される行為だ。
今はその意味を充分に知っている年頃で、それを兄弟間でわざわざ悪戯に行おうとは思わない。
それでも兄がそうしたいというので、従った。
このとき兄が何を考えていたかなど、敢えて詮索しようとはしなかった。
つながりが感じられるなら、何でも良かったから。
もし勘ぐっていたとしても、まさか魔封じの術をかける気でいたとまでは見抜けなかったから結果は同じだったろう。
血の契りと称して胸につけた跡は、魔法を封じるための術だった。
まんまとだまされたわけである。
何もかも。
初めから全部。
味方についてくれたことも、懐かしがってくれたことも、抱きしめてくれたことも、なでてくれたことも、一緒に寝てくれたことも。
みんな。
けれど、彼は思った。
騙される方がどうかしていたんだと。
初めの予感は正しかったのに、情に溺れて見誤ってしまった。
いつもこうだ。
それで、今度も例外じゃなかったというだけの話。
よくわかった。
何度でも思ったことだけど。
やっぱり人は信用してはならないのだ。
最も信用したかった肉親が教えてくれた。
お前が他者から愛してもらえるわけがないだろうと。
思い上がりもいいところだと。
差し伸べられた手をとってはいけないのだと、思い出させる。
繰り返し、繰り返し。
そうしてまた心の壁が厚みを増した。
 
 
野営していた7人の、いや、5人の耳に何か大きなものが落ちる音が聞こえた。
タヌキ2匹の耳にもそれは届いた。
コロコロと山の斜面に従って、2つのそれが転がってくる。
 
クロエ「ひっ!?」
 
 転がってきた1つは偲の足元につっかえて止まり、もう片方は冴牙が踏んで止めた。
 
偲「…………」
冴牙「ようやくおでましか」
 
 それはつい数秒前まで人間だった者の頭部であった。
 彼らに協力していたローゼリッタの男2人の身体が崩れて地に伏せる。
 
リク「……せ……先生?」
 
 暗闇をまとって、待ち人が姿を現した。
 罠の中へ。
 
クロエ「先生、来ちゃダメ!!」
冴牙「よーう来たなァ、おシズ。待っていたぜぇ。キッヒヒヒヒ!」
鎮「お招き預かり、至極恐悦にござりまする」
 
 ニヤリと不敵に笑う。
 
リク「先生が…………………………来た……」
 
 クロエが自分に構わず逃げて、薔薇の騎士団を連れてきてくれと叫んでいるのに対し、リクはぼんやりと担任の教官の姿を見つめていた。
 食事のために自由にされていた手は、再び強く縛り付けられる。
 
クロエ「いっ……たい!」
リク『先生……先生……』
 
 じわりと胸の中心が熱くなった気がした。ずっと忘れていた感覚だ。
 自分たちのために、心の底の見えない鉄仮面の先生が来てくれた。
 
鎮「1年か2年……」
 
 額当てを直すしぐさをする。
 
鎮「待ってもらえれば、よかっただけなのに……何ゆえ引っ掻き回しますか。シズは……おとなしゅう暮らしていたかっただけでございますのに」
冴牙「ふざけんなよ。この世はな、お前の願いなんぞ何一つ敵わぬところなんだよ。ヒヒヒ」
 
 冴牙は足の下にある首を鎮に向けて蹴飛ばした。

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