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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 64-3

人形「来ておくれか?」
リク「は、はい!」
アン「リッ……」
リク「ごめんね、アン。すぐに戻るから!」
アン「リク君!」
偲「…………」
 
 冷めた目でアンを一瞥すると偲はリクを連れ去った。
 ……クロエを連れ去ったように。
 
 

▽つづきはこちら

 鎮は寝坊していた。
 起きたら夕方だったなんて、今までなかった。
 乱れた着物を直して、鈍い頭で考えた。
 夕べの記憶があまりない、と。
 少しの眩暈と吐き気がした。
 それから兄が側にいなくてうろたえた。
 でもトイレだと思って待った。
 衣服を着替えて髪を整えて、座って待つ。
 夕日を白い首筋に受けながら。
 それから30分。
 彼は思った。
 長いウンコだな、と。
 さらに30分。
 いくらなんでも長すぎるだろう、そのウンコは。と思った。
 さらにさらに30分。
 一体、何メートルのウンコだよ、と思った。
 いやいや、待て待て。そんなに長いわけがない。
 ひょっとして、宿舎内で迷っているのではないかとここでようやく思い直す。
 誰とは言わないけど、某、口うるさいアゴのしゃくれた人に捕まっている可能性もあると思い立ち、ようやく腰を浮かせた。額当てを装着して。
 宿舎内を探して回って、それでも見当たらない。
 
鎮「あにさまー? あにさまぁ? 一人でウロついては、叱られまするー。あにさまぁー」
 
 外から宿舎に戻ったミハイルと鉢合わせ、
 
鎮「ミハイル殿、ウチのあにさまを知りませぬか?」
ミハイル「迷子か? 敷地内はやたら広いからな」
鎮「宿舎におるハズなのでござるが……」
ミハイル「その前にちょっと。女子生徒がお前のこと探してたぞ」
鎮「?」
 
 宿舎を出てみると言われたとおり、女子生徒のアンが立っていた。
 恨みがましい顔をして。
 
アン「先生! お兄さんは!? 戻ってます?」
鎮「それを探しておるのよ。見たか、アン」
アン「見たも何も………………お兄さんがリク君、連れて行っちゃったんじゃない!!」
鎮「…………どこへ?」
アン「どこへって…………そんなの、知らないから先生のところに来たのに! お兄さん、先生のことでリク君に相談があるとか」
鎮「それは何時ごろ?」
アン「えと……お昼。12時は回ってたわ」
鎮「…………………………そう……」
 
 やっと。
 鎮はだまされたのだと言うことを、理解した。
 
 アンがまだ何か言っていたが、もう耳には入らなかった。
 一度、自分の部屋に戻る。
 刀を手にとって、小さな巻物を数本、懐と袖にしまい込む。
 ふと視界の端に白いものが見えて顔を向けた。
紙で折ったやっこさん、2つ。
それが壁にクナイで突き刺してあった。
 
鎮「…………………………」
 
 2つ。
 リクが偲といなくなった。
 それが一人目。
 2つを意味するものは、おそらく。
 
鎮「…………姫……?」
 
 兄はダンラックの配下にいたことも刺客のことも話して味方についてくれたから、素直に信じてしまったけれど。
 この養成所からまんまと連れ出すための布石だったとは。
 先生の肉親と言う人に、二人は疑いも持たなかったに違いない。
 ……自分の責任だ。
 部屋を出て行こうとして、もう一度きびすを返した。
 足早に壁のクナイを抜き、やっこさんを開く。
 中に何かメッセージがあるかもしれないと思ったのだ。
 
鎮「……………………」
 
 文字はなかった。
 その代わりに、白い蝶がひとひら、桜の花びらのように風に舞った。
 そのまま窓から飛び立ってゆく。
 
鎮「……ついてこいと?」
 
 鎮は窓に足をかけて飛び降りた。
 馬小屋に寄って、1頭借り受ける。
 本来なら、しかるべき手続きを踏んでから借り出さなければならなかったが、そんなことは言っていられなかった。
 白い蝶を見失うわけには行かない。
 行き先は大体見当はつくのだが。
 雲行きが怪しいなと空を仰ぎ見た。
 紙でできた蝶が少し心配になった。
 裏切られてことに対しての涙は出ない。
 それよりも、リクとクロエの身が案じられた。
 自分のうかつさが招いたことが、二人に申し訳なかった。
 責任だけは果たさなければ。
 一族間の問題は一族の中で処理をしなければならない。
 そのために無関係な二人を巻き込むのは嫌だった。
 
鎮『ここまでして……。姫を狙っていたのは、やはりだんらっく公爵か。クロエは…………本当に姫君だとでもいうのか? まぁ……リクはたぶん、食い逃げだとして……ん? 待て。あにさまが雇われている本当の主は、飲食店経営者?! だからだんらっく公爵のことは口にしても、飲食店のことは会話の端にも上らなかった……! よく考えてみれば、あのイジワルクロエが姫君だなんて……きっとリクと共謀して食い逃げを図ったに相違ない! 飲食店はあの馬鹿食いのために傾き、倒産。家族は首をつり、一家心中。だが死に切れなかった一族の誰かが復讐のために殺し屋を雇った。家族の仇を討つために!』
 
 なんということだ!
 つじつまが合ってしまった!
 しかもちょっと感動的だ。
 これが本当だとすると、二人は罰を受けるのが当然の成り行きであり、助けなくてもいいような気がしてきた。
 頑張れ、飲食店経営者。
 血も涙もない大食漢食い逃げ犯人に罪を償いさせるんだ。
 そして家族の墓前に報告を………………
 
鎮「いや、だとしてもダメだ。こちらの落ち度で二人を死なせるのは目覚めが悪い」

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