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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 64-4

 馬を駆った。
 夜も休まずにやがて次の日が昇っても。
 一方、偲の狂言に引っかかってしまったリクとクロエは縄で縛られ、その上、魔封じの術をかけられて馬車に揺られていた。
 二人とも、大事な話というエサと偲が弟に別れも告げずに去るというので引きとめるために、養成所を離れた城下町まで養成所から出発する馬車に乗り込んでしまったのである。
 城下町に到着し、偲に連れられて裏路地へ。
 そこで大量の蝶に襲われた。
 後の記憶はない。
 気がつけば、知らない荷馬車の中で揺られており、捉えられたのだと気がついたが後の祭り。
 黒髪の美女がそっと二人に水を差し出す。
 もちろん、手は縛られて動けないのでカップで少しずつ飲ませてくれている。
 

▽つづきはこちら

女「血が足りないから、二人とも顔が真っ白……大丈夫でしょうか」
 
 捕虜を気遣って美女は眉を下げた。
 それを受けて中年の、無精ひげの男が口を開く。
だが、異国の言葉でクロエには理解出来ない。
 
男「童(わっぱ)といえど、妖力使い。油断は禁物ぞ」
 
 言葉を途切れ途切れに理解したリクは会話から、血が抜き取られたことを知った。
 どうりで意識が朦朧とする。
 身体もだるく力が入らない。
 
女「おシズは来ましょうか」
男「偲のいうには、必ず来るという」
女「大群を引き連れてくるのではありますまいな」
男「それはない。一族のしでかしたこと。自分ひとりで始末をつけようとするであろう」
女「そうでしょうか。氷鎖女といえど、離れて12年も経っておりまする」
男「お初は心配性じゃな。偲が戻ったのだ、そちはそのことだけに浮かれておれ」
初「ごっ、悟六殿っ!」
悟六「ははははっ!」
 
 女がさっと顔を赤らめたので、偲のことが好きなのだとすぐにわかった。
 そして女はハツで、男はゴロク。
 中には見当たらないがシノブがいるはずで、これで敵は3名。
 リクは少しの情報でも聞き逃すまいと耳をそばだてる。
 
リク「クロエ、この人たち、全員、先生の親戚かなんかだよ」
 
 小さな声で囁く。
 
クロエ「えっ、じゃあ皆ニンジャ? どうしよう、ニンジャの世界に私たちも案内してもらえるんだわ」
リク「……なんでそこでわくわくし始めるの……頼むよ、クロエ」
 
 目を輝かせたクロエに絶望を感じるリク。
 なんとか隙を見て逃げ出さなければ。
 せめてクロエだけでも助けてあげたい。
 そんなリクの思いを表情から読み取ったクロエが意外にも落ち着いた口調で言った。
 
クロエ「おかしな真似はしない方がいいわ。流れに身を任せましょう。どうやら私たち、すぐに殺されるようなことはないみたいだし。その間に状況も変わると思うの。無理に動かない方が懸命だと思うわ」
リク「……しかし……状況がこれ以上悪くなる前に先に手を打たないと……」
クロエ「どうやって?」
リク「それはこれから考えるよ」
クロエ「いいけど、自分を犠牲にして私を助けようとかそういうのはダメだからね」
リク「! ……クロエは鋭いなぁ。ははっ」
クロエ「リクの考えそうなことだもん」
悟六「そこ、何を話している!」
 
 突然、男がこちらを睨みつけた。
 
初「猿ぐつわを噛ませましょう」
クロエ「ま、待って下さい。気分が悪いの……口をふさがれたら……」
 
 確かに息づかいが荒い。顔色もすこぶる悪い。
 オマケに粗末な荷馬車は揺れが激しい。
 偲の蝶に命の源である体液をかなり吸われており、これでは魔力を練り上げることもできまい。
 
初「……姫君? おかしなことは考えますな。おとなしくしておれば命までとらぬゆえ、ご心配めさるな」
 
 オハツという変わった名の女性は二人の少年少女を安心させるように微笑んでくれた。
 悪い人ではなさそうだと二人は思った。
 だとしても、敵であることは確かなのだから、気を緩めるわけにはいかない。
 
リク「教えて下さい。俺がどうして捕まったのか。もし、先生をおびき出すためだったら、無意味だと思いますよ。俺は先生の特別なんかじゃないですから」
初「……私は……知らぬ」
リク「シノブさんと話させてくれませんか」
初「話しても無意味じゃ。お前様方には一つの結末しか待っておらぬからな」
リク「それはわかってます。こんななりじゃどうすることもできないし……。ただ、納得いかなくて」
悟六「初、放っておけ」
初「あ、はい」
 
 結局、何も知ることは出来なかった。
 クロエの言うとおり、しばらくは様子を見た方がよさそうだ。
 夜になると彼らは野営の準備に取り掛かり、馬車の外はにわかに騒がしくなった。
 
リク「あのー……」
初「夕げはもうしばらく……」
リク「いえ、あの…………トイレ……行きたいんですけど……」
初「………………………………あ。」
 
 クロエは初が。
 リクには偲がついた。
側に他人がいる状態での用足しはあまり気持ちのいいものではなかったが、仕方がない。
手は自由にされたが、胴にはやっぱり縄がついている。
 ここで逃げ出してもすぐ捕まるだろう。逃亡のチャンスとはいえない。
 そもそも、自分で立って歩くのもやっとくらいに体に力が入らないのである。
 これでは本当に逃げようがない。
 だが話をするチャンスではある。しかも相手は運のいいことに偲だ。
 
リク「偲さん……先生をどうするつもりなんですか」
偲「…………」
人形「コロス」
リク「何故ですか」
偲「…………」
人形「答える義理はナイでござるよ、天才クン」
リク「先生は、貴方を本当に慕っていたのに」
偲「…………」
人形「知ってるでござるよー」
リク「……先生のこと、話してくれるって言うのも嘘だったんですか。どうせ俺は逃げられません。教えてくれてもいいんじゃないんですか?」
偲「…………」
人形「いいから、大事なモン、そろそろしまっておけや天才クン」
リク「…………あ」
 
 とっくに用は足したのに、話を聞きだす方に夢中で出しっぱなしだった。
 ……大事なモンを。

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