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レイディ・メイディ 第64話

第64話:狂う刃
 図書室で勉強を教えてもらう、図書館デートが多い。
 好きな人に少しでも釣合いたいがためにアンは努力をしている……のが前向きで、実のところ優しく教えてもらうのが好きだった。
 目の前に座って、理解できないところを説明しくれるときには、少し前かがみになって顔が近くなる。
 ウットリできる瞬間である。
 長いまつげに縁取られたミステリアスな紅の瞳。
 はっきりとした目鼻立ち。
 さらりと流れる艶めく前髪……
 何て自分は幸せなのだろう。
 この世に数いる女の子の中で一番の幸福を手に入れた。
 天界から舞い降りた美の神のように美しいこの人が、自分だけの虜になってくれたら……
 私だけを見てくれたなら……
 

▽つづきはこちら

リク「ん? 何を見ているの?」
アン「あっ! ううんっ」
 
 視線を気取られた。
たちまち真っ赤になってかぶりをふる。
 
リク「アンの目はキレイだね」
 
 頬杖をついてリクがやんわりと微笑んだ。
 
アン「そ、そうかな……茶色い目なんて、いっ、いくらでもいるし……それに……」
リク「透き通ってて、キラキラ輝いていて……でも落ち着きがあって。優しい色してる」
 
 穏やかな口調はアンを酔わせて、さらに茹で上げる。
 ああ、この人が好きだ。
 この人のためなら、何でもできる。
 やっかみなんて目じゃない。
 私はこの人に守られている!
 だから私もこの人を守る!
 
アン「あっ、あのっ……!」
リク「なんだい?」
アン「交換日記……書き終わったから。はい」
 
 しばらく前から、もっと俺のことを知って欲しいからとリクから提案した交換日記。
 なんという甘い響きだろう。
 自分のことをもっと恋人に知ってもらいたいからだなんて。
 だけど。
 
リク「うん、じゃあ今回もハリキッて描くよ。……………………オムライス」
 
 にっこー!
 リクはキザだ。
 意識せずに普通の人が言ったらまず引かれる甘い甘い台詞を砂糖菓子のように吐き出す。
 それが彼の場合は似合っているからたまらない。
 恋愛小説の王子さながら。
 だ・け・ど。
 天然タラシのクセして、中身は意外とそうでもない。
 恋人同士の交換日記だというのに、何故か毎回、食べ物の絵を描いてくるのである。
 しかも無駄に上手い。そして日記なのに文章はない。
 おいしそうな食べ物がより目立つように集中線を入れてみたり、ドバーン☆とか漫画のような効果音つけてみたりなど、余計なところにだけ努力の跡が……。
 いらないのに。
 そんなモノ、いらないのに。
 一体、何をどうやったらそこに着地してしまうのか!?
 自分のことを知って欲しいって……彼の頭の中は食べ物だけなのか!?
 ……たぶん、その通り。
 外見立派で中身が大いにズレているハリボテ王子(!)は、食堂で食事をする前に真剣になってスケッチをしている。
 恋人アンのために。
 相手はそんなモノを望んでいないのに本人、大張り切り。
 そんな彼を咎める気にはなれず、苦笑いを浮かべて見守るしかない。
 それでも一生懸命、彼女のために?描いてくれているのだから(ご飯を)嬉しいことには変わりはない。
 欲を言えば、日記の中でも甘い言葉を聞きたかったのだけれども。
 普通に考えたらおかしい交換日記の内容だが、メリットがないわけではない。
 リクの好物がわかって、それを作ってあげれば喜ぶだろうということ。
 ただし、好物といっても口に入るものは何でも好きなのでよくわからないといえばわからない。
 
アン「リク君……あ、あの……」
リク「うん」
アン「わっ、私のこと……私のどこが……」
リク「好きかってこと?」
アン「う、うん」
リク「そうだね……。素朴で……素直なところかな。俺には持ってないものを持っているって言うか」
アン「……私にあってリク君にないものなんてないと思うけどな」
リク「そんなことないよ。俺はあんまり素直なんかじゃないから……」
 
 ふと寂しそうに笑う。
 それをアンは見逃さなかった。
 
アン『陰のあるリク君……ますます素敵……』
 
 何度でも自分が支えてあげようと誓いを改めるのであった。
 
リク「アンは真っ直ぐで本当にキレイ……」
アン「そっ、そんなっ」
  「きっ、キレイはリク君のためにある言葉だよ!」
 
あわててかぶりを振る。
可愛いと言われことはあっても、キレイだなんて未だかつて言われたことがなかったし、自分でもそのくらいは理解している。
キレイというのはレイオットやこの目の前の少年のためにあることばだということくらい。
 
リク「ははっ。俺はキレイなんかじゃないよ」
アン「……何か……ひょっとして……悩み事でもあるの?」
リク「どうして?」
アン「だってさっき、ちょっと悲しそうだったし、今も……」
リク「気のせいだよ」
アン「私に話して? 私に出来ることだったら何でもするからっ。ね? 私、人の悩み事とか、よく相談されるんだよ? 遠慮しないで」
 
 机の上に置かれたリクの手にアンの手が重った。
 
リク「大丈夫だよ、ありがとう。君は優しいんだね」
 
 気づいていないふりをして、リクはそっと手を引いた。
 
アン「……!」

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