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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 63-8

偲「シズ、お前……誰にでもこうなのか?」
鎮「……ハイ?」
 
 目を瞬かせて見上げる。
 
偲「今になって聞くが……。お前、今までどうやって生きてきた?」
鎮「……………………」
偲「今はいいとして……子供の身で素直には渡ってこれなかったろう」
鎮「…………何をおっしゃりたいのでしょう」
 
 兄の、温度の低い目に対し、初めて怯えを見せて鎮は固まった。
 物を盗んで、人を殺して。それは当然あっただろう。
 それから?
 

▽つづきはこちら

偲「犬みたいだよ、……お前」
 
 凍る瞳で見下ろし、耳元に囁く。
 犬扱いされた鎮は見透かされたことに気がついたのだろう、恥じ入る表情を見せた。
 誰にでも尾を振る犬。
 優しくされれば誰にでも。
 偲でなくとも。
 生きていくためには、そうでなければならなかったのだろうと安易に想像はつく。
 言葉はわからない。力はない。生きる術も知らない。
 そうしたら、相手がどんな人間でも寄ってすがるしかない。
 そのつもりがなくとも、優しくされれば簡単に懐くのだ鎮は。
 優しくされた経験が少ないから。
 媚びへつらう駄犬のように。
 この1カ月過ぎ、離れていた12年間に何があったとは、お互い話さなかった。
 相手からは故郷がどうなったかを聞かれたが、偲の方は逆に尋ねるようなことはしなかった。
 聞いたところでどうせロクな生活ではなかったろうから。
 10歳が一人で生きていくのに身綺麗でいられたわけがない。
 手は血と罪で汚れきっていただろうし、身も汚されているだろう。
 汚れていない場所がないくらいに汚れきってているだろう。
 仕方のない流れだったにせよ、面白くない。
 この弟が、他人に卑屈に屈服するのが。
 ……自分以外の者にひざをつくのが。
 そこまで思いが及んで、長年、複雑にからんでいた感情の糸にふと出口が見えた気がした。
 いつでも一緒。
 いつも一緒。
 常に後ろから離れない影のような存在。
 呼べば嬉しそうに返事をする。
 偲だけの鎮。
 間にも周りにも他者が誰も入り込んでこない、完全に孤立した世界に二人きり。
 確かに。
確かに異常な状況にはあったと思う。
 二人でいるときは時間などいつも忘れてしまう。
普段は仲良しだった。
本当に。
 偲だけの鎮である代わりに、鎮の偲でもあったように思う。
手伝いも修行もほったらかしにし、暗くなっても帰らなくてよく叱られた。
叱られるのはいつも決まって鎮だけだったけど。
二人だけになるなと口うるさく言われてもいた。
そのときは意味がわからなかった。
 いつから建っているのか知れない、誰を祭っているのかも知れない、山の中の寂れた神社を二人だけの隠れ家とする。
妖怪が出るぞと大人たちから脅されて子供は誰も寄り付かない神社。
そこに身を潜めて語り明かす。
 鎮は絵を描いて楽しい空想の物語を。
 それに付き合って偲も思いを馳せた。
 死んで生まれ変わってもまた兄弟でいよう。
 肩を寄せ合って、そんな口約束もしたと記憶している。
 いつまでも親友でいようだとか、そのクセ、些細なことでケンカをするとすぐに絶交だと叫んだり。
どの子供もしたがる軽い約束。
けれど本人たちは神聖な気持ちで。
 義兄弟の契りとして互いの血を交わし飲むという話を聞いて、真似事をした。
 義兄弟の契り。それは倭国の男の子なら誰でも憧れそうな、武士の熱血友情物語といったところ。
 偲と鎮は義兄弟じゃなくて本当の兄弟で最も近い双子なのだから、この儀式をすればもっと強固なものになると信じていた。
 杯に血を溜めて一息に飲むという物語通りのカッコよいのがしたかったが、弱虫・鎮がそんなに血が出たら死んでしまうと弱気なこと言って駄々をこねたために少し傷をつけてそこから直接血を呑むことにした。
 これは我ながら名案だ。
どうせやるなら、より魂に近い場所。
つまり心の臓がある左胸だ。
神聖な魂の契りなのだから、それらしく。
胸元に少しの傷をつけ合って、互いの血を吸うのである。
誰もいない朽ちかけた神社で、蝉の声が煩いくらいに降ってきていて。
土砂降りの雨の音みたいだった。
時折、風が吹いては葉を揺らす音が混ざるだけ。
人の気配がどこにもなく、世界にただ二人きり、取り残されてしまったような不思議な錯覚に囚われる。
傷をつけるために着物の合わせを広げると痛いのが怖いのか、ぎゅっと鎮は目を瞑った。
露出した肌があまりにも白くて薄いので、傷をつけるのが躊躇(ためら)われた。
そっと傷つけたところから真っ赤な血の玉が膨れ上がり、やがて破れて滴る。
戸惑いを覚えつつ、舌先で舐めあげて平たく幼い胸に口付けると汗ばんだ夏の肌は少し塩気がした。
くすぐったいと鎮は笑って身をよじり、お返しに偲にも同じことをする。
ちくりと微かな痛みがあった。
 当人たちにとっての“神聖な儀式”が済むと、鎮はずっと永遠に大好きなあにさまと一緒にいられると無邪気に喜んだ。
一方で偲はこの“儀式”に別の意味合いも密かに感じていた。
 わずか10歳の子供だったから意識的に理解していたわけではなかったが、性的な興奮が少しあったのだと思われる。
 身体の芯が熱くなり頭がぼぅっとなって、なんだかおかしかった。
 心の臓の音が異常に高鳴って、蝉時雨をかき消してしまうのではないかと思われた。
 当時はこの不思議な現象こそが絆が結ばれた証拠なんだと真面目に思っていたけれど、後にして思えばとんでもないことだ。
 子供とはいえ、何をしでかすかわかったものではない。
 このとき口付けた場所は、血を強く吸ったためかアザになって数日間消えなかった。
 後日、二人して同じ場所についたアザを見つかって、両親にこっぴどく叱られる。
 特に母は「だから二人一緒にしたらいけないのに!」とひっくり返りそうなほどの金切り声を挙げていた。
 母に折檻(せっかん)を食らった鎮はお仕置き穴に突っ込まれてしばらくの間、会えなくなった。
 もちろん偲も父から大目玉だ。
 でもそれでよかった。
 あの日以来、鎮の側にいると心の臓がおかしな太鼓を叩き始めていたから。
 このままでは病気になって死んでしまうかもしれないとまで心配した。
 幼い弟は、可憐でたおやかな花のようだった。
 また、触れれば消える幻のようでもあった。
 同時に何故か恐ろしく、拒絶したくなるような。
弟は幼いながら、すでに魔性の片鱗が見えていたのかもしれない。
ほんの短い間だけの、しかし初……恋だったと思う。
酷く歪んだ形の。
 そして。

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