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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 63-7

 鎮は偲に逆らった試しがなかった。
 歩くときも食事をするときも一歩後ろをゆく。
 家で躾けられた通りに。
 例え双子であっても、兄と弟では天地の差がある。
 兄はあくまで跡継ぎ。一番であり、並び立つ者などない。また、あってはならないのだった。
 決して、下の者が領分を越えることは許されない。厳しいしきたり。
 それを守って鎮はいつも後ろにつく。
 兄の偲は自分が常に一番とされてきたゆえに、このとき、弟が自分以上の力を発揮したのが悔しくてならなかったのである。
 力があるのに後ろにいる。
 いつでもお前を追い抜けるのだとせせら笑いながら。

▽つづきはこちら

 ……いや。
 鎮はそんなことを思ってなどいない。
 ただ一言褒めてもらいたかっただけだったのだ。
 わかっていた。
 偲だって、ちょっと気が立っただけだ。
 本気で、死ねだなんて……
 
偲『………………』
 
 本気で、死ねだなんて…………………時々、思っていたことは否めないが、いつも思っていたワケではなかった。
 普段は本当に仲が良かった。
 身にかかった呪いのせいで弟は村の爪弾き。
 誰も遊んではくれなかったし、浴びる言葉といえば、罵声ばかり。
 同じくらいの年頃の子供を持つよその母親に、たまに優しい言葉をかけてもらえると哀れな弟は過剰に反応していたくらいだ。
 それを連れ歩く偲にも忍耐が要求されたが、彼は弟の手をしっかり握って放さなかった。
 同い年の弟は食が細く、成長が遅い。
 実際には食が細かったのではなく、母に疎まれてあまり満足な食事が与えられていなかったのだが、そのために体も弱い。
 少し吊り気味の目は大きくて、醜いもう一つの顔さえなければ、愛らしい顔立ちといえた。
 子供の頃は特に少女にしか見えず、これが本当に妹ならどれだけ良かったかと何度も思った。
 だが残念ながら同性。男同士なのだ。
 同性で特に男同士はいけない。
 素直に護る者と護られる者ではなく、意識下でまず好敵手となってしまうからだ。
 同い年で互いに男子ならば、どうしてもかち合う。
 弟は穏やかで弱虫で競争意識もなかっただろうが、偲の方がそうはいかなかった。
 自分の後ろをついて回る弟に劣るのが許せなかったのである。
 これが普段から弟が逆らっていればまだ良かったのに、従順だから余計に頭に来る。
 かんしゃくを起こし、蹴飛ばして田んぼに落としたことが何度あったか。
 それでも卑屈な薄ら笑いを浮かべて離れようとしない弟に虫唾が走る。
 やり返してくればいいと何度思ったか。
 妹であったなら、きっとこんな風には思わずにもっと大事にしてやれたはずなのだ。
 ずっと偲は優しい兄だと言われ続けてきた。
 本当はそんなことはなかった。
 しょっちゅう泣かせていたし、道理に合わないことを押し付けてもいた。
 悪い兄だといつも思っていた。
 だから良い兄だ、我慢強い子だと褒められたくはなかった。胸が痛むから。
 ライバルでありながら、憎んでいながら、一方でやはり一番近い肉親。
 兄弟愛が溢れていたのも事実。
 今ではどちらが本当だったかわからない。
 常に自分が守ってやらなくてはという責任感に駆られていた気がする。
 また、守ってやることに喜びも見出していた。
 当時から同年代の子供たちの中では成長の早かった偲に対して、鎮は小さくて体も弱いから。
 自分がいなくてはダメなのだという優越感があったように思う。
 おいでと言えば犬コロのように走ってきた。
 名を呼んでもらえるのを待っている、偲の一番忠実な子分。
 それが周りから虐待を受けていれば嬉しかった。
 否定されればされるほど、拒絶されればされるほど、薄暗い悦びがあった。
 おシズにはこの偲しかいないのだと思うことが出来たから。
 自分の存在意義が強くなるから。
 弟にとって兄は唯一絶対のものであり、支配下に置いていることが楽しかった。
 我ながらおかしいと思う。
 鎮が呪われていなければ、あるいはいなくなってくれれば、初めからいなければこんな苦労をせずに済んだ。
 他の子供たちの輪に入れてもらって、普通に暮らせたはず。
 父も母も辛い目に遭わずに済んだ。
 村八分にされた母が時々泣いているのを見なくて済む。
 全ては鎮のせい。
 なのに、呪われて爪弾きにされる弟を見て嬉しく思うなんて。
 歪んでいるとしか思えない。
 矛盾だらけだ。
 それは周りのせいだ、周りがそうさせたのだと初はいつも言ってくれていたが、果たして本当にそうなのだろうか。
 偲にはわからなかった。
 可愛くないと言えば嘘になる。
 憎くないといえば嘘になる。
 
偲「………………」
 
 眠る弟の髪に指を通し、人面瘡のある場所までかきあげる。
 気味の悪い人面瘡が反応してまぶたを上げそうになったので、そっと元通りに直した。
 これさえなかったら…。
 何もかもが違っていたはずなのに。
 
偲「………………」
 「……シズ……おシズ……」
 
 頭をなでる。
 哀れで愛しく、そして憎い。
 母が言っていたのと同じ気持ちだ。
 母は自分の産んだ醜い子とどう向き合ってゆけばいいのか、思いあぐねていた。
 自分は母似だなと偲は思った。
 
鎮「……はぁ? 何でございましょう、あにさま」
 
 起こしてしまった。
 鎮が目をこすりながらこちらを向く。
 
偲「シズ」
鎮「はい」
偲「鎮」
鎮「はい」
偲「おシズ」
鎮「……はい?」
偲「シズ…………おいで?」
鎮「はい!」
 
 嬉しそうに。
 犬コロのように。
 同じ布団に転がり込んでピッタリとくっつく。
 偲の胸に頭をこすりつけて、ほとんど母親に甘える子供である。いい年をして。

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