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レイディ・メイディ 63-6
2008.09.02 |Category …レイメイ 62・63話
彼は幸せだった。
彼は油断していた。
彼は信じきっていた。
いつだってその心は裏切られてきたのに。
ここにきてまだ愚かしくも信じようとしていた。
これを愚者と呼ばずして何と呼べばよいか。
彼は信じないと言いながら、何度でも信じ、その度に手を振り払われていた。
手は、握ってはいけないものだということをすぐに忘れてしまうのだ。
彼は知らない。
人形を渡すために家に寄ったとき、そこに間借りさせている少女目当てのロクデナシを家まで届けた兄弟が、一族に手紙を送っていたことを。
彼は目を離すべきではなかった。
自分の片割れから。
▽つづきはこちら
ローゼリッタ城下町。
悟六「ふん。どうりでおかしいと思ったのだ」
炎座「どうした、悟六」
悟六「喜べ、お初」
初「?」
悟六「偲はやはり偲だった」
開け放った窓から大量の蝶が舞い込み、床に止まってただの紙切れに戻った。
紙切れをつなぎ合わせると文字が現れる。
彼ら特有の文字。しかも血で書かれている。
血の持ち主は現在、とある小さな町で日曜日から行方知れずとなっている青年のものだ。
青年は後日、血を抜かれた遺体となって見つかることになり、吸血鬼の仕業と騒がれるハメとなる。
さて、その血で何が書かれていたか。
誉れ高き薔薇の騎士団養成所の見取り図である。
それに日時と場所の指定。
姫君と日の王子、それに一番の標的を連れて行く旨が伝えられている。
悟六「腑に落ちぬと思っておった。あやつがそう甘いわけがないからな」
冴牙「……サイアクだな、アイツ」
初「……それも罠ということは?」
不安げに瞳を揺らし初が問う。
炎座「さすがにそれはあるまいよ。ここまで手を込むことをする意味がない」
初「そう……でございますね」
『よかった……偲!』
公爵の花嫁のことは書かれていなかった。
偲は場所を知ったが、見逃して欲しいという初の願いそのままに報告をしなかったのだ。
標的は初めの警戒を解いている。
幸い、日の王子も姫君も標的と懇意にしている。
材料はそろった。
全てを手に入れる。
決戦は3日後。
送った手紙が届く頃だと偲は思った。
弟は甘い。
別れていた12年。どうせどこへゆこうと人間の原始的な恐怖を駆り立てずにはいられない醜さを抱いた鎮が幸せであったハズはない。
だからいくら心に壁を作ろうと、踏み込むのは簡単だ。
踏み込んで利用するなど他愛ない。
誰にでもできる芸当である。
少しこちらが彼のために傷ついてやれば、簡単に墜ちる。
偲『…………愚か者。二度も好機を与えてやったのに』
初めは顔を合わせたとき。
確かに斬りかかられたが、傷は浅く、また姫君の強力な白魔法のお陰ですっかり傷はふさがっている。
もう一度のチャンスはついこの間。
メイディアの暮らす家でのことだ。
一族を倒せば呪いが解けるかもしれない。試してみるかと自分の命をさらけ出してみたが、弟は冗談をと言って本気にとらなかった。
これが兄の与えた生きる最後の望みと気づきもせずに。
偲『それとも……気づいているのか? 気づいていて、知らぬ顔か?』
夜中になっても一向に睡魔は訪れてくれず、ずっと窓から見える蒼い月だけを漆黒の両眼に映している。
弟とこうして兄弟ゴッコをしていられるのもあとわずか。
同じ布団で転がるなんてこと、今度こそもう二度となくなる。
何も知らずに眠る弟の顔を改めてじっと見つめた。
どうしてコイツは生きていたのだろう。
あのとき素直に死んでいてくれていれば、二度も殺さずにすんだのにと身勝手なことを考えてみる。
すぐ隣で寝息を立てているのが、あの小さな弟だと今も半信半疑なくらいである。
忍術を父に叩き込まれていた偲と15になったら死ぬ運命にあるために忍術を教わらなかった鎮。
厳しい訓練を傍でボンヤリ見ていた弟は、絵を描くことと、木を削って人形を作ることが大好き。
訓練に当てられないたっぷりある時間は、家の手伝いとそれが済むと好きなことのために時間を費やしていた。
両親は次男にはあまり干渉せず、好きなようにさせていた。
まだ同じように幼かった偲には、それが羨ましくて仕方がなかった。
弟は遊んでいるのにどうして自分ばかり辛い修行に明け暮れなくてはならないのだろう?
また双子で同い年なのに、兄だ兄だと言って偲ばかりが厳しく躾けられている気がしてならなかったのだ。
今にして思えば、15で死ぬ鎮に何をしてやっても同じだから、彼は放っておかれていただけなのだ。
そのことを当時もわかっていたハズなのに、それでもやっぱり偲は弟がうらやましくて、自分が呪われていたらもっと優しくしてもらえるのになどと見当違いなやっかみをしていた。
弟は兄の後をいつも追いかけて、真似ばかりしたがる。
双子なのだから、何でも一緒が良かったに違いない。
修行の辛さも知らないで、鎮もやると言って聞かなかった。
うるさく思った父が試しにやらせてみると、術は見事に発動した。
偲がいくらやってもできなかったものを。
褒めてもらえると期待して寄ってくる弟をこの上なく図々しく感じた偲は、言ってはいけない一言を放ってしまったのである。
「うざったい。ついてくるな。お前など、いらない。死んでしまえ」
……と。
意味をすぐには飲み込めなくて鎮はぽかんとしていたが、やがて痛々しく微笑んで、「はい、あにさま」と素直に答える。
これまでのように。
そうして身を投げたのだ。
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●Thanks Comments
裏切り御免!
とうとう偲サンが行動に出ましたYO~!
(関係ないけど、お兄さんの術がかなりスキ☆蝶がビジュアル的にキレイでたまらぬ!)
兄弟の家族愛やら、嫉妬心やら、複雑な思いがとらせる行動に、読んでいて翻弄される……実際にP、騙されたし(笑)なんだよう、アホ読者ですんません…いいや違うね、純粋なんだ、そうに違いない!
蝶、春日さんには大不評(笑)
蝶々恐怖症の春日さんには大不評の偲兄さん、行動に出ました(笑)
だますつもりで書いてなかったから、ビックリしましたが、他にもちらほらいましたので、早めに偲の正体?バラしました。ハイ。
裏切り御免で思い出したけど、お芝居観にいきたいね~。
そういえば、まだ詳しいこと決まってませんが、冬に春日さんがお芝居やります。
一緒に見に行きませんかー?
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