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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 61-20

 放課後、図書室でリクに勉強を習っていたアンが思い切って聞いてみた。
 
アン「リク君は先生のどこがいいの?」
リク「え?」
アン「ミジンコだから?」
リク「いや……そういうワケじゃ……」
アン「変な生き物だから?」
リク「まぁ……変な生き物だよね。面白いけど……でもそういうことじゃ……」
 
 困って頭をかく。
 

▽つづきはこちら

アン「ミジンコで変な生き物でニンジャじゃなくてもいいの?」
リク「ミジンコで変な生き物でニンジャはまぁ、別に関係ない……かな。ミジンコで変な生き物でニンジャだからもっと面白いというのはあるけど、別に面白いから好きってワケでもないし……うーん?」
 
 考えて、手にしているペンを指で回す。
 
リク「でも尊敬はしているよ? あの人、あんなだけど、頭がすごくいいんだ。言っていることがいちいちもっともでさ、考え方とかちょっと変わってて面白いし。俺がつついても困るようなこともないし。……うるさがられてはいるけどね。実戦訓練にしたって、未だ追いつける気がしないんだよな。あの人の天辺がどこにあるのが見えやしないよ」
 
 肩をすくめて、けれど嬉しそうに、だけど苦笑いを浮かべている。
 矛盾したような行動を示しながら、それは全面的な好意と敬意を現していた。
 
アン「………………」
リク「ヒサメ先生の授業をやめて、同じ学科の他の教官の授業も試しに受けたことあったけど、やっぱりヒサメ先生が一番面白かったから」
アン「そうかな……先生の授業、退屈だよ」
リク「うん、まぁ、ユーモアには欠けてるね」
アン「なんかゆらゆら揺れながら話してるし。声小さいし」
リク「あー……揺れてるねぇ。無意味に」
アン『話しているだけで楽しそう……』
リク「でもアンも先生の授業好きなんだよね? 何だかんだ言って、欠かしてないもんね」
アン「そ、それは……」
 
 先生を気に入っているのではなく、リクが彼の授業を受けるからである。
 リクと接点を持っていたいから同じ授業を選択していただけだ。
 多くの女の子達と同じように。
 
アン「先生は……」
リク「ん?」
アン「お兄さん大好きだよね……」
リク「そうだね。10年以上ぶりだっていうから、嬉しいんだね、ホントに」
 
 ふいに窓の外に目をやる。
 
アン「お兄さん……いつまでいるのかな? 先生、どこかに行っちゃうって、本当かな?」
リク「それについては聞いてみたけど、どこにも行かないって言ってたから、良かった」
 
 視線をまた戻してにこりと笑う。
 
リク「俺、先生がいなくなったら、誰についていいるかわかんなくなっちゃうから。行かないでくれてよかったよ」
アン「でも、距離は遠くなっちゃったよね」
リク「え……?」
アン「リク君と先生の距離」
リク「………………」
アン「お兄さん来ちゃったら、先生、リク君のことなんて……」
リク「ち、違うよ、それは。俺が一方的に追いかけてるだけで、先生は何も変わってないから……」
 
 本当は最近、少し避けられている気がしていたのだがそれは言わなかった。
 兄弟あんまり仲がいいから、いくら求めても他人でしかない自分がはじき出されてしまったような子供っぽい寂しさのせいだと思ったからだ。
 先生は何も変わってないのに、自分がちょっとした焼き餅を焼いているのだろうと。
 
アン「でもお兄さんにベッタリだよね」
リク「仕方ないよ。嬉しくてしょうがないんだから。先生が幸せなら……俺も嬉しいし」
アン「先生が幸せなら、リク君も嬉しいの?」
リク「そりゃあね。好きな人が幸せにしてたらやっぱり嬉しいじゃない」
アン「エ? 好きな人?」
リク「アンだって、ジェーンやモーリーが幸せだったら嬉しいでしょ?」
アン「う、うん、そうだね!」
  『あーっ、ビックリしたっ! リク君、もっと言葉選んでよ~!』
 
 リクの言葉は直球ストレート過ぎて、ドッキリすることが多い。
 アンに対する甘い言葉ならいいが、そうでないときもこの通り。
 意味が同じでも、好きな人じゃなくてせめて親しい人とかそんな表現にして欲しい。
 キレイなリクが言うとなんでも「それっぽく」聞こえるから困る。
 これは彼を手放すわけにはいかないと戦々恐々しているアンの意識がそのように聞こえさせているだけなのかもしれないけれど。
 
アン「リク君は……まず人のことなんだね」
リク「そんなこと……」
アン「わっ、私もそんなタイプなのっ! あっ、えっと、……そう、よく人から言われるから……」
リク「うん、そうだね。そんなカンジするよ。自分より他人優先みたいな」
アン「エ……エヘ……」
 
 引っ込み思案なアンは例え希望があってもなかなか通せない。
 相手を先にと譲ってしまう場面が多いのである。
 だから優しい子、相手の気持ちになれる子だという定評がついて回る。
 特にちゃっかり屋のモーリーと押しの強いジェーンといるせいでそんな風に周りからは思われていた。
 実際に兄弟姉妹の中でも長女ゆえに我慢することも多く、時折、目立ちたがり願望や感情的になった末の自己中心的な顔が覗かなければ、基本的には世間で言われている通りの性格だった。
 
リク「でも……俺の場合は違うかな……まず人のことっていうか……」
  『先生が俺だから………………先生が幸せだと嬉しいのは、俺と先生が似ているからなんだ……』
 
 心に壁を作っておいそれと踏み込ませない。
 先生の過去なんて聞いたことはなかったが、あまり幸福だったようには思えなかった。
 どうしてかと聞かれると困るのだが、自分と同じ匂いがする。
 孤独の中に身を置いて、痛みにじっと耐えている……そんな風に見えて仕方がなかった。
 それは家族を最も残酷な形で失い、短い間ではあったけれども貴族に辱めを受けて自尊心を傷つけられて内にこもった自分自身と重なって、嫌だった一方で手を差し伸べなければいけないという使命感も同時に沸き起こっていた。
 彼を救いたい。
 暗闇から救い出してあげたい。
 無意識のうちにそんな思いがあって、執拗にシズカ=ヒサメを構うようになっていたのだ。
 寂しい人間に敏感だから。
 クレスにも、メイディアにも、そうやって。
 だから、クレスが。メイディアが。シズカが幸せになってくれれば、リクは嬉しい。
 例えそれで自分が傷ついたとしても。
 
リク『……傷ついて? 傷ついてなんかいない……。俺は……俺は喜んでいるんだから……』
 
 先生が幸せで。

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