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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 61-18

ジェーン「とにかく、アンはまず第1段階で手を握ること! そして先生から引き剥がすのよ」
ステラ「先生は、お兄さんと今はベッタリだからいいんじゃないの?」
アン「まぁ……そうなんだけど……先生が呼ぶとすぐそっちに行っちゃうんだもん、リク君って」
『つまんないな……』
モーリー「なんか犬っぽいもんねぇ」
 
 稀有な美貌の持ち主であるリクと地味な少女アンのアンバランスな組み合わせは、少女向け恋愛小説の主人公のようで周りに夢を見させた。
 天才で美形で優しいと全て兼ねそろえたリクのハートを射止めるのは、同じレベルを有するレイオットしかいないと思われていた。
 あの二人がくっつくのであれば、誰も文句はない。

▽つづきはこちら

 神々しいほど美しい二人ならば、もう住む世界が違う。
 絵画の中の男女に嫉妬しないのと同じように周囲は見ただろう。
 ところが射止めたのは現実によくいるタイプの少女だった。
 顔は悪くない。
 けど、誰も振り向かない。
 成績も悪くない。
 けど、誰も驚かない。
 そんな彼女の長所といえば、おとなしくて出しゃばりでないこと。
 我慢強く、努力家であること。
 他人の不快を買わないし、傷つけることもない。
 性格の良い、優しい子。
 ……といえば、聞こえはいいが、つまり、要するに。……普通の子である。
 それがあの皆の王子様リクを引き当てたのだから、大金星だ。
 アンの役を自分に重ね合わせてウットリする女の子、勇気が出た女の子、逆に何であんなのがと納得いかない女の子、嫉妬の渦に巻き込まれる女の子。
 今や彼女はあらゆる少女たちの羨望の眼差しを一身に受けていた。
 気持ちが良かった。
 メイディアと違って、ご存知アンは周りに敵を作るような性格ではない。
 味方して応援してくれる仲間も沢山いる。
 欠点としておとなし過ぎるがために軽んじられて、いわゆるイジメのようなものを受けることはしばしばあったが、必ずリクが間に入って守ってくれた。
 鈍感ダメ男のレッテルを貼られようとリクはリク。
 優し過ぎるくらいにアンに優しく甘く、夢を見せてくれている。
 少なくとも朴念仁代表選手・フェイトよりはレベルがだいぶ上である。
 リクは思ったことを周りにはばかることなく口にするので、アンを可愛いと平気で言う。
 その度にアンは赤くなって顔を伏せ、これまでにない幸運を感じるのだった。
 図書室に行けば、自分でもちょっと手を伸ばせば取れる本もリクがすぐに取ってくれる。
 人にぶつかってよろめけば、身体を支えてくれる。
 完全にお姫様扱いである。
 初めはあまり良い顔をしていなかったリクの友人カイルも今では逆に応援してくれている。
 
カイル「リクは多少おかしい奴だけど、アンタのこと、気に入ってるみたいだし……頑張れな」
 
……などと声をかけてくるくらいだ。
 ちょっと邪魔っ気なヒサメ先生もアンなら安心だと言ってくれている。
 祝福されたベストカップルなのだ、二人は。
 あとはメイディアという名前が彼の口に登らなくなり、先生のことを気にしなくなってくれれば文句はないのだけれど。
 女の子会議の後で、一番マトモな精神構造のステラが時間が解決してくれるとそっと耳打ちしてくれた。
 急がずあせらず。
 リクがメイディアを本当に忘れてしまうまで、先生よりもアンに夢中になるまで待てばいい。
 それはそんなに遠い話ではない。
 恋人らしい雰囲気が1ヶ月でちゃんと出てきたのだから。
 初めは別々で行動しては周りからいちいち注意されていたけれど、近頃はリクはいつもアンの側にいる。それが自然であるように。
 ただ……
 
アン『手くらいはつなぎたいな』
 
 リクは恥ずかしがり屋なのだろうか?
 その割には聞いてて恥ずかしい台詞を堂々笑顔で放ってくる。
 アンがあわてて周りを見回してしまうくらいの攻撃力のある台詞を。
 
リク「どうしたの?」
 
 休み時間、一緒の時間を過ごしていたアンが急に黙ってしまったので、リクが問いかけた。
 
アン「えっ、あっ、あの……」
リク「うん?」
アン「リク君は、退屈じゃない? その……私なんかといて」
リク「? 楽しいよ?」
アン「そ、そう……ならよかった」
リク「うん、君といられて俺は嬉しいんだ」
アン「う、うん……」
 
 初めはぎこちなかったリクも今では自然体でいてくれる……と思う。
 愛されてはいるハズなのだ。
 その実感はある。
 こんなにも男性から優しく扱われたことはない。
 背が高くて頼りがいあって、女の子の理想を詰めたような美少年。
 でもできればもう少し、近づきたい。
 手をつないだり、キスをしたり。
 卒業して正騎士になったら、両親に紹介して、すぐに結婚して家庭を持つ。
 故郷の両親や兄弟姉妹たちはきっと驚くだろう。
 こんなキレイな人を連れてきたら。
 
リク「また……黙って……もしかして、君を退屈させちゃってるのって……俺?」
アン「ちっ、違うの! そうじゃないの。えっと……つい、その、リク君のコト考えちゃって、私……」
リク「俺のこと?」
アン「えっと、ホ、ホラ、その……将来のこととか……」
リク「あ。先生」
アン「エ?」
 
 山ほどの教材を持って廊下をよたよた歩いているヒサメの姿を見つけた。
 
リク「うわわ、危ない、危ない」
アン「お兄さんいるんだから……」
  『放っておけばいいのに……』
 
 よせばいいのに前が見えなくなるほど重ねて持って歩くから、予想通りに先生は。
…………つまづいた。

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