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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 61-11

 翌朝。
 偲は鎮を連れ立って、養成所の外に出ようとしていた。
 それを見かけたリクが呼び止め、後ろでアンがつまらなさそうな顔をしている。
 
リク「先生! どこに行くの?」
 
 問いかけに双子が同時に同じ動作で振り向く。
 
鎮「……良い処。あるいは、その逆になることも」
リク「……は?」
偲「まだ信じぬか。用心深い奴」
鎮「どうもヒネてしまいまして」
 
 ジロリと体温のない目で見下ろす兄とニヤリと不敵な笑みで返す弟。
 

▽つづきはこちら

リク『…………様子が……?』
アン「ねぇ、リク君ったら……先生なんて放っておこう? 何か用があるのよ。邪魔したらダメよ」
 
 アンが不満そうに袖を引く。
 
リク「う、うん……」
 
 後ろ髪引かれる思いでアンに連れられてゆくリクの心に一抹の不安がよぎった。
 双子から放たれていた殺気という気配を感じてであったが、実戦経験を積んでいないリクにはその正体を見破るまでは出来なかったのだ。
 共にいたアンなどは殺気すら感じることはなく、担任を疎ましく思っているだけである。
 
鎮「あ」
 
 その疎ましく思っていた担任が何か思い出したらしく、こちらに走ってきた。
 アンは自分の心が読まれて叱られるのかとありえない想像をして思わず身をすくめた。
 だがもちろん、そんなことはない。
 
鎮「リク。頼みがある」
リク「俺に?」
アン「?」
 
 鎮は懐から一通の手紙を取り出してリクの胸に押し付けた。
 
リク「!」
鎮「ひょっとして、俺が2日経って戻らぬときは、それを開けて見よ」
リク「……え?」
アン「?」
鎮「それまでに戻ったら、中は見ずにこの俺に返しておくれ?」
リク『…また…“俺”…?』
  「わ、わかりました」
アン「…………」
鎮「約束をして。その間は決して見ないと」
リク「するよ。先生が戻ったら、見ないで返す。遅れたら、中を開く。……それでいいんだね?」
鎮「面倒を頼んですまぬな」
アン『ホントに……』
リク「コレが何だかわからないけど……なんだか……帰らなかったらって言い方……嫌だな。ちゃんと帰ってきてよ?」
鎮「……うん」
リク「約束してくれるよね?」
鎮「……もし、それを見て迷えることあらば、まずはミハイル殿を頼り。あのお方は賢く、また人物として信用に足る。間違いはあるまい」
 
 一方的に押し付けて約束まで取り付けておきながら、問いかけには答えない。
 
リク「せ、先生…? …ホントに……ねぇ。急に……」
鎮「……戻るよ。ただ……授業までに戻れないと無断欠勤になってまたレヴィアス殿に叱られるから……」
リク「そ、そう?」
鎮「リク」
 
 ちょいちょいと手を招く。
 
リク「?」
 
 内緒話かと身をかがめて相手の背に合わせると頭に手が乗せられた。
 
鎮「良い子良い子」
リク「え……ちょっと……あのー……」
 
 何事かと思えば、グシャグシャと頭をかき混ぜられた。
 意味がわからない。
 アンも隣で呆然としている。
 
鎮「よいか。お前様は力持ちだ。あらゆる意味で」
リク「??」
鎮「アンもいてくれるしな。……なぁ?」
 
 急に振られて、アンが姿勢を正す。
 
アン「は、はい!」
鎮「……ではまた明日……」
 
 手と一緒に身も翻す。
 長い袖がひらりと舞った。
 
リク「あ、うん、明日。……きっと」
 
 かがむのを止めたリクがふと顔を上げれば、先生の兄というのがじっとこちらを見ているのに気づく。
 
偲『…………………』
リク「!」
  『…………なんて……』
 
 冷たい目をした人だろう。
 目が合っただけで相手を凍てつかせるという、氷の精霊のようだ。
 何を言われたわけでもないのに、眼差しだけで気圧されて一歩引く。
 
アン「何だったの、リクくん?」
 
 ヒサメ兄弟が門から完全に出て行ってしまってから、アンがリクの手元を覗いた。
 
リク「……わからない。気になるけど……」
 
 手紙を懐にしまって乱れた髪を整える。
 
リク『2日経って帰らなかったら……?』
 
 手紙の内容は、鎮が帰らなくなるであろう理由……つまり、兄に殺されているであろうこと、自分が帰ってこない後にもし兄が尋ねてきたら、とりあわないこと、ニケに報告して逮捕してもらうこと。
そしてメイディアが生きていることと、その処遇をやはりニケに頼んで欲しいことが書かれていた。
他には所長のカツラを取ったのはワザとじゃありませんだとか。
叱られた腹いせにカツラであることをバラして回ったこと。
秘密を漏らしたのは、フェイトだと嘘をついたけど本当は自分ですとか。
レヴィアスの大事にしていた壷をうっかり割ってしまったのは、フェイトだと嘘をついてしまったけど、実は自分でしたとか。
どうでもいい告白文も長々綴っているのでやたらと分厚い。
 結果としてこの手紙が開封されることはなく、本人の手元に戻ることになるのでリクはここでは知らないままになるのだが。

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