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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 61-9(改)

 “おシズ”または“シズカ”と現在名づけられて呼ばれるその人形は、別に自分をモデルにしたつもりはなかった。
 むしろ兄を想いながら10歳の自分が作った、たどたどしい技術のあにさま人形である。
 本当は家族の人形を全部作って、「なかよし」にして飾っておきたかった。
 しかし一体を作ったところで、死なねばならなくなり、結果、作った初めの人形だけが兄の手元に遺品として残ったというわけだ。
 見ての通り、自殺に失敗して今ものうのうと生きているのであるが。
 
鎮「シズの兄は変人だと思われたらいかがいたす!?」
偲「…………」
人形「変人じゃないモン。ぷいっ」
 

▽つづきはこちら

 そんな人形をまだ大事に持っていてくれたことは嬉しいが、自分が死んだと思われていた10年間、人形に弟の名をつけて呼び続けていた兄の罪悪感を思えば申し訳なくて胸が詰まる。
 きっと、自分の言葉のせいで弟を殺したと幼い兄は思っただろう。
 言葉を受取った自分よりも言葉を投げた兄の方が数倍も傷ついて苦しかったに違いない。
 せめて弟の遺した人形を大事にすることで、亡くなった魂に謝罪していたのかもしれない。
 だが、もうそんな必要はないのだ。
 ここにこうして生きているのだから。
 だからそんな人形は捨ててしまって欲しい。
 何一つ、兄のせいなどではないのだから。
 
鎮「鎮は世間体がとっても気になるのでござる。もー、そのような物は捨てて下され」
偲「…………」
人形「…………イジワル」
鎮「……あん?」
偲「…………」
人形「イジワル! 鎮のイジワル!!」
鎮「……イジワルったって……」
偲「…………」
人形「おシズを捨てよとは、いかな了見か! 鎮のオタンコナス! チビー! 双子のクセに一人でチビー!! 偲はおっきいのに鎮はドチビー! 小さくて見えないでござる! アレー? どこ行ったかな? 途中で落としてきたやもしれぬー。ワァ、大変だー」
 
 オーバーアクション気味に人形を動かしてキョロキョロさせる。
 
鎮「…………」
 
 ゆっくり部屋の端に立てかけてあるホウキに手を伸ばす鎮。
 
偲「…………」
人形「…………ゴメンナサイ」
 
 ぷしゅうぅ……
 やっぱり頭にタンコブ作って、倒れる兄・偲。
 
鎮「……ね? だからおとなしくって言ったでございましょ?」
 
 折れたホウキを放り投げて手を叩き、埃を払う仕草をする。
 
偲「…………」
 
 ガクブル。
 
人形「おシズ、変わったな。昔はもっとおとなしくて偲をぶったりなんてしなかったのにー」
鎮「10年も過ぎれば、変わりもしまする。だいたい、人前で妙な踊りを披露するあにさまも充分変わられたと思いますが?」
 
 無口なところは相変わらずで、あらゆる声色を操るのも変わっていない。
 この人形用の声もどこから出しているのか、素の低い声からはとても想像できない可愛らしい声だ。
 ただ、生真面目で控えめ、目立つことのあまり好まない性格だったと記憶していた彼が人前で次から次と奇行を披露してくれちゃって面食らってしまった。
 図々しくも自分こそが常識人だと思っている鎮にすれば、もう本当に信じられない、信じたくない気持ちである。
 身内が人前で変な踊りを踊っていたりするのが。
 ああ、こっぱずかしい!
 
鎮「あにさま、床の用意が出来ましてございます」
 
 兄が来たために部屋を占領していた多くの人形たちは…………嫌がるミハイルに無理やり預けていた。
 預けたというより、勝手に彼の部屋に置いてきたと言った方が早いか。物置のような扱いで。
広くなったスペースに二人分の布団を敷き、その前に正座して深々と頭を下げる。
思わぬ来客だったため、布団は学生宿舎のあまり物を借りてきた。
明日、日曜になったら兄の処遇を何とか考えねば。
自分が死ぬまでたぶんあと1~2年くらいだろう。
それまでずっと養成所に滞在などという許可はさすがに降りそうもない。
長くてせいぜい1カ月。
それまでに解決しなければ。
 
鎮『養成所を辞めるのが一番よかろうな……。さすれば、どこか借家でも借りてそこで死ぬまで共にいればよい。……もっとも、偲が真に今すぐ俺を殺すつもりなのでなければの話だけれども』
 
 ここへきて、まだ信用しきれていない。
 10%が20%、20%が30%と徐々に増えてきてはいるものの。
 信用したい気持ちの方が勝っていても、10年も離れていた弟にそれだけの愛情を傾けてもらえるとはにわかには信じられないのだった。
 長い年月の中で兄には兄の生活も事情も大事なものもあるハズなのだ。
 こちらの知らないあらゆる理由が。
 それさえも捨てて、弟側につくか?
 それほどの理由は、どこを探しても見当たらない。
 手酷い裏切りを受け続けてきた人生の経験が、信じるという行為自体を危険で恐ろしいことだと彼に訴えかけてきている。
 これから明かりを消して横になる。そこで寝首を掻かれるとも知れないぞと心の奥底で警告を発している。
 
鎮『それで……』
『信じるなんて浅はかな鎮……なんて、鼻で笑われたら嫌だなぁ。……恥ずかしいなぁ』
 
相手を信じるとはなんと難しく、怖いことなのだろうか。
信じたい心のままに寄り添えば、後で痛い痛いしっぺ返しが待っている。
手の平を返すくらいなら、初めから差し伸べてくれなければいいのに。
すがりつきたくて仕方がないから、すぐにでも期待を持ってしまうから。
結んでいた髪を解き、正座したひざの上に乗せた自らの両手を見つめる。
 
鎮『信じる奴がおかしいなんて笑われるのは嫌だ。恥ずかしいから嫌だ。みっともないのは嫌だ。惨めなのは嫌だ。信じてバカみたいと言われたくない。カンチガイするなと言われとぅない』
 
 まざまざと記憶の奥底から、浴びせられてきた言葉の数々が蘇る。

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