レイディ・メイディ ５９－６

レイオット「主役にも容赦ないわね、このクラス」

フェイト「主役だから容赦ないの間違いだろ」

レイオット「うん、まっ。……そうかもね」

 

　くすっと笑みをこぼす。

 

氷鎖女「心配するでない。それは花火でござる。では拙者、用事があるゆえ、御免」

 

　それだけで氷鎖女は会場から姿を消した。

 

クロエ「リク、花火だって！」

 

　背後からクロエが顔を出す。

 

リク「へぇ。小さいけど、これが花火なんだぁ？」

 

　手の中の黒玉を見つめる。

　氷鎖女はすぐにいなくなって一緒に楽しんではくれなかったけれど、リクは満足だった。

　贅沢かも知れないが、あと一人、金髪巻き毛の少女がこの中にいてくれたらと思ってすぐに頭を振った。

　ダイヤの強度を誇る地獄クッキーの作り手がその本人であることはもちろん知らずに。

　夕方、薄暗くなってからクライマックスに校庭へ繰り出した。

　花火を見るためである。

　花火をよく知らない彼らは、この小さな玉で打ち上げ花火が見られるものと期待満々である。

 

クレス「ヒサメが作ったんだろ？　火を着けたら爆発っていうのもありえるぞ」

カイル「お約束かましそうだからな」

レイオット「皆ー！　クレスが火を着けるわよ、離れてー！！」

クレス「ぼ、僕！？」

レイオット「魔法使いでしょ？」

クレス「火は苦手なんだ、カイルやれよ」

カイル「爆発するかもしれないのに、俺やるの！？」

 

　押し付けあっている間に、レクが蝋燭で着火してしまった。

　全員が距離をとって、空を見上げる。

 

リク「………？」

クロエ「上がらないね？」

 

　しばらく待ってみたが、一向に打ち上がる気配がない。

フェイト「不発か？　それとも火が消えたかな？」

 

　フェイトがそろりと近寄ってみる。

 

レイオット「気をつけて。爆発するかもしれないって、黒薔薇の皆が……」

フェイト「……あの人、そーとー信頼薄いな、教え子に」

 

　黒い花火は、不発でもなく、また火が消えたワケでもなかった。

　玉からモリモリと黒くて太い何かが育っている。

　煙を上げながら。

 

フェイト「……………………………」

 

　固まってしまった、フェイトの様子を不審に思い、レクとレイオットも近寄ってみる。

 

レク「こっ、これは……！」

フェイト「うーん……花火、こうくるかぁ」

レイオット「どうする？　終わる前に一応、リクは呼ばないと」

 

　三人に手招かれて、逃げた連中が戻ってきた。

　黒々しいソレを囲んで、皆が黙る。

 

　しゅうぅ～。

　しゅうぅ～。

　しゅうぅ～。

 

　黒い玉は、煙をあげながら、黒いウンコのような長いモノをどんどこ生み出していく。

 

　しゅうぅ～。

　しゅうぅ～。

　しゅうぅ～。

　しゅうぅ～……

 

　どんどこ生み出して………………………………それだけ。

 

フェイト「終わった………」

レク「終わったね……」

リク「…………………………」

クレス「………さすが……ヒサメだ………」

 

　……受け取ったプレゼントの花火は。

　黒い物体をむぉりむぉり生み出すだけのおとなし～い、ヘビ花火と言われる地味なものだった……

　そうして、クライマックスのテンションを下げに下げた、ロマンチック……を期待された花火は火の花を咲かせる事なく、終わりを迎える。

　リク＝フリーデルス、１８歳の誕生日……から１週間目の出来事であった。