レイディ・メイディ ６０－２

リク「あのすみませんけど……家は誰も知らないんです。明日には戻りますので、御足労ですけど、また出直してもらえませんか？」

氷鎖女・兄「……………」

 

　紅い瞳と黒い瞳が一瞬、かち合った。

 

リク『これが………先生の……素顔？』

 

　無表情で感情の読み取れない、温かみの感じられない顔立ち。

　背から声からこれだけ違うのだから、素顔もきっと違うだろう。

　しかし似てはいるはずだ。何せ双子なのだから。

　鎮の額あての下にこの顔を当てはめて、想像してみた。

 

リク『……もっと可愛いかと思っていたけど……』

 

　リクの中で、オコジョな鎮の顔にバッテンがつけられる。

 

リク『こうじゃなかったのかなぁ……』

 

想像の中の鎮（動物系）「拙者、オコジョ先生でござるジョ☆　ヨロシクジョ♪　いつもアナタのポケットに。可愛がってジョ☆」

想像の中の鎮（兄と瓜二つ系）「違うでござる。拙者、イケメンニンジャ。ヨロシクベイベー☆　俺に惚れたらケガするゼ」

 

　もやもやと浮かんだ想像の緒はクロエからも発せられて二人の間でつながっている。

　どうやら、リクとクロエは同じ想像をしているらしい。

 

クロエ「……オコジョってジョって鳴くのかなぁ。実際には見たことないんだけど」

リク「オコジョっていうくらいだから、きっとそうだよ。オコって鳴いたら変じゃん……本でしか見たことないけど」

二人「………………」

クロエ「……今、必殺イケメンウインクバッチン☆されて、クラクラきた」

リク「……俺は今、悩殺しっぽフリフリ攻撃ジョをされてフラフラきた」

　　「毛先が……毛先が……ふふふふふ……」

 

　もやもやぁ～ん。

 

ステラ「妄想世界を共有しないように、そこの二人」

 

　冷静にステラがツッコミを入れる。

 

カイル「うをー！　俺のクロエさんとシンクロすんなァー。おろろーんっ」

クレス「誰が俺のクロエさんなんだよ？　フラレたクセに」

カイル「うっ！　言葉の定規でメッタ打ち！！」

 

　胸を押さえて、がくりとひざをつく。

 

ステラ「言葉の刃でメッタ刺しじゃないんだ？　弱そ……」

 

　あちこちバカばかりでツッコミに忙しいステラ。

 

？「おなか減ってござる」

 

　突然、人形が可愛い声でしゃべって、その場にいた全員が目を丸くした。

 

氷鎖女・兄「……………」

人形「おなか減った、おなか減った」

氷鎖女・兄「……………」

クロエ「にっ、人形がしゃべった！？」

シラー「バカね、腹話術よ」

クロエ「スゴイわ、ニンジャ！」

カイル「クロエさん、俺だって福笑いできますよっ」

クレス「福笑いじゃすごくも何ともないだろ」

 

　対抗しようとするカイルにクレスがトドメを刺す。

 

人形「せっかく町から歩いてきたのに。飲まず食わずでまた来た道戻れだなんてヒドイでござる」

氷鎖女・兄「………………」

ジェーン「ゴザル言ったァ！！」

シラー「っていうか、すんごい催促しているよね、この人……」

全員「………………」

アン「で、でも関係者以外入所禁止だし……」

氷鎖女・兄「……………」

 

　ぐぅ～ぎゅるぎゅるぎゅるぎゅる……ズゴゴゴゴゴ。

　ゴリュリュリュリュリュリュ。

　ズギャーン。

　バキューン、バキューン。

　ピーポーピーポー。

 

人形「腹減ってひもじいでござるよ、偲」

リク「…………あの………一応、先生のお兄さんで関係者ってことで………」

全員「………………」

　　『　　　　　　おかしい！！　音がおかしいから！！』

 

　冷や汗、だらだら。

 

 

　……そして、食堂。

 

氷鎖女・兄「………………」

人形「生徒さんたちが良い奴らで助かったな、偲」

 

　リクたちに連れられて、食堂に来た自称・氷鎖女兄は、遠慮もへったくれもなく、モリモリと出されたものをたいらげていく。

 

ジェーン「カッコイイと思ったけど、変だわ。思いっっ切り」

アン「う、うん……」

シラー「何か急に似ているような気がしてきた」

ステラ「アレはカンッッッペキ、お兄さんだわね」

クロエ「ステキ……ニンジャが増えたわ、とうとう。図書館にあった“ニンジャの全て”に載ってた細胞分裂は嘘じゃなかったのね！」

モーリー「あの人形の服装はヒサッちと同じだよねぇ、黒だし」

カイル「ホントだ」

クレス「また変なの増えたよ」

リク「…………」

 

　全員で遠巻きに見守る。

 

リク「あのぅ……」

氷鎖女・兄「……………」

人形「何だ、言ってみよ」

 

　兄の代わりに生意気そうな人形が返事をする。

 

リク「お名前は……？」

人形「拙者、シズカでござる。こちら、兄の偲」

リク「シ、シノブさん？」

人形「さよう。何用か」

リク「何用っていうか……これからどうします？　さっきも言ったけど、先生、今日は戻らないんですよ」