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レイディ・メイディ 56-12
2008.07.31 |Category …レイメイ 55-57話
メイディア「ダメなのに鍵を渡すなんて………ワタクシを試しましたのね、お人が悪い」
氷鎖女「そうではない。別々にしておくと拙者、忘れてなくしてしまうからでござる」
メイディア「一緒にくっついていたら、退屈だし見たくなってしまいますわ」
氷鎖女「うーむ。別々にして渡せばよかったか」
メイディア「……いえ……渡されてしまいますと別々にしてあっても同じなんですけど……」
氷鎖女「拙者、自分で管理できないもん」
メイディア「…………」
わかる気がする。
何しろ、大事な試験の知らせも生徒に伝え忘れてしまう困った先生なのだ。
メイディア「そもそも、どうして入ってはいけない部屋ですの?」
氷鎖女「さっきのように槍が飛び出す仕掛けになっているから」
メイディア「この部屋は平気でした」
氷鎖女「ここは完成間近のあの人形に悪さされると困るから」
メイディア「しっ、しませんわよ!」
▽つづきはこちら
氷鎖女「もう一つの部屋は……危険だからダメ」
メイディア「……………」
侵入者がいたと思われる部屋を思い浮かべた。
危険というからにはまたも妙な仕掛けがあるのだろう。
やはり開けなくてよかったのだ。
危ない、危ない。
メイディア「でも先生の気持ちはわかりました。そういうことでしたらワタクシ、協力を惜しみません」
氷鎖女「何が“でも”で、何“わかって”、どれが“そういうこと”なのだ。余計なことはせんでよい。コレは頼まれものでござる。そちらが喜んで協力してくれるような内容ではないわ」
メイディア「頼まれもの?」
氷鎖女「さよう。さる筋から依頼されたのでござる」
メイディア「……さる筋……ね」 にこっ。
氷鎖女「?」
メイディア「よろしいのです。そんな言い訳など。メイにはわかっておりますわ」
モジモジ。そわそわ。
氷鎖女「…………わかってナイナイ」
手をフリフリ。
氷鎖女「ん?」
メイディア「はい?」
家族を描いた絵が手前に立て掛けてあり、氷鎖女はそれを手に取った。
氷鎖女「なんだこれは」
メイディア「なんだって先生がお描きになったものではないの?」
絵画の山から見つけだしたものである。
氷鎖女「そのようだが忘れていた」
おもむろに腰の短剣を抜いて、何を思ったのかせっかくの絵を引き裂いてしまう。
メイディア「! な、何をなさるのっ!?」
氷鎖女「気に入らない。だから途中でやめて放置しておったのだな」
その辺に放る。
メイディア「完成ではないのですか、それ。ワタクシにはそれで充分、完成されたものに見えましたけど?」
氷鎖女「出来が悪いのを見せるは少し気恥ずかしいわ」
メイディア「悪くなんて全然なかったのに……」
引き裂かれて捨てられた家庭の絵を手に取った。
メイディア「先生には…………妹さんがおりました?」
氷鎖女「妹? いや?」
メイディア「幼い頃に亡くなったのでは?」
氷鎖女「何故そのような?」
逆に問い返す。
メイディア「……いえ……余計なことでしたね……」
氷鎖女「?? 本当におらぬぞ。何を勘違いしておる?」
彼の癖である、ぎこちない首のかしげかたを見たときに、メイディアはあっとなった。
メイディア「それ……」
氷鎖女「それ?」
メイディア「妹さんもそうやって……」
氷鎖女「いやだから、妹などホントに……」
メイディア『…………まさか……』
自然と額当てに視線が止まり、無意識に手を伸ばした。
氷鎖女「……………」
メイディア「!?」
がくんっ!
ビッターンッ☆
額当てに触れようとした次の瞬間、メイディアは足払いをくらって床とキスするハメになっていた。
メイディア「何をなさいます!?」
したたかに打った顔面を押えて、イキオイ良く立ち上がる。
氷鎖女「何をなさるはこちらの台詞。いやん、えっち」
メイディア「えっ……えっちではございませんっ!!」
スケベ呼ばわりをされて、今度は真っ赤になった。
氷鎖女「ほれ、飯を作るでござるぞ。明日から本当の本当に来ないからな。ちゃんと覚えておけ」
質問と反論を許さず、氷鎖女は先に部屋を出て行ってしまう。
メイディアは一度、結局、開かなかった部屋を振り返ってからあわてて階段を降りた。
……開かずの間には、無数の人形がいた。
他の部屋とは比較にならない数の、小ぶりのものが。
鎮の、あふれ出してどうにもならない黒い魔力を吹き込んだ人形たちが。
部屋の中に所狭しと詰め込まれた濃厚な負の力は、沈殿し濁って部屋の中をさまよい続ける。
普通の人間が踏み込めば、気が遠のいてしまうであろう毒々しい空気がそこには渦巻いていた。
ドアに貼ってあった紙はそれらを外に出さないための札である。
外観を見回っていないメイディアはまだ知らないが、窓にも板が打ち付けてあって、泥棒など入る余地もない。
メイディアが化け物の手を逃れてかくまわれたその場所も、実は、怪物の住処だったのである。
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