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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 56-7

 ヒトサマの荷物を残虐にも荒らす暴君は、恋心を綴った何かブツを求めて別のものに行き当たった。
 また絵画だ。
 
メイディア「そうね。絵にしている可能性も高いですわね」
 
 謎の多い教官・氷鎖女の秘密を暴く誘惑に夢中になっているつかの間、メイディアは恐怖心を忘れられた。
 無意識に恐しい記憶から逃れようとしているのかもしれなかった。
 ……やっていることは、決して褒められたものではないが。
 絵はやはり他の部屋にあったものと変わらず、クロエらしき人物は見つからない。
 代わりにだまし絵などが登場して注意はあっと言う間にそちらに向いてしまった。
 続けて見つけたのは、
 
メイディア「家族……?」
 

▽つづきはこちら

 始めにメイディアが探していたものに近い絵をついに発見した。
 遠くから見つめるのではなく、ほんのすぐ側に家族の生活がある。
 普段の生活の一場面を切り取ったような絵が。
 
メイディア「コレ……先生のご家族では?」
 
 この辺では見かけない家の造り。
 登場人物は全部で3人。
 彼らは、床に直接腰を下ろしている。
 両親と10歳くらいの男の子。
 着ているものが氷鎖女やリクと似ていたから、すぐに思いついた。
 彼の実家ではないのかと。
 ゆうげの時間を描き表して、温かさがここまで伝わってきそうな。
 貧しくても幸せな家庭。
 そんな印象を受けた。
 
メイディア「この男の子が先生? ……でも…?」
 視点が外からであることに気が付いた。
 作者が見たように描き表しているのだから当然と言えば当然なのかもしれなかったが、メイディアは急にこの幸せな一枚が物悲しく思えてきた。
 かつて彼女がフリーデルス一家を“旅人の瞳”で覗いていたのと同じ気持ちに陥ってしまったのである。
 幸せな家族をうらやんで外からぽつんと見つめている、孤独な子供を連想してしまったのである。
 それはかつての自分であり、氷鎖女自身なのではないかと思った。
 氷鎖女の家族構成など知らない。
 東の海の小さな島国から来たことしか記憶にない。
 そこに彼を迎えてくれる家族があるのかないのか。
 そういえば、メイディアが嫁入り前に連れて行ってくれと頼んだ際には帰れないと言っていた気がする。
 何かきっとわけがあるのだ。
 
メイディア「この子が先生だといいけど……」
 
 両親に囲まれる少年が、鎮少年であればいいと思ったが、きっと違う。
 彼はこの家族を外から眺めているのだ。
 内側に入っていけないで。
 
メイディア「ヒサメ先生って……どういう方なのかしら?」
 
 今さらになって、考えた。
 ただ風変わりで背の低い教官。
 すぐにそっぽを向くが、最後には必ず手を差し伸べてくれる教官。
 顔のない教官。
 メイディアの中では「先生」であって、シズカ=ヒサメという「個人」ではなかった。
 恐らく、他の生徒達にしてもそうだろう。
 “ヒサメ先生”はただ自分たちに知識を与え、後押ししてくれ、相談すれば何かしら答えが返って来て、頼れば何かしら手を打ってくれる便利な存在であって、それ以上でもそれ以下でもない。
 友人でも家族でも恋人でもなくて、でも全くの他人でもない。
 さらには男でも女でもない。
 ただ、「先生」なのだ。
 多くいる生徒達の中で氷鎖女を個人だと認識しているのは、リクくらいなものかもしれない。
 リクが先生である以上の情を彼に求めているのは、外から見ていても一目瞭然だ。
 だが、メイディアはどうだろう?
 自分の意識について考えを巡らせてみたが、やはり先生は先生であって、他の枠に入らない。
 考えてみれば、この屋敷に二人きりなのだが、彼に男性を感じない。
 だから怖いと言って側にいてもらい、安心して寝てしまえるのだ。
 同じ教官でもヴァルトのように見るからに男性的で魅力的であったなら、もっと意識をしたであろうが、氷鎖女ときたら、こじんまりとしていて可もなく不可もなく……
 
メイディア「………………」
 
 じっと、絵を眺めているとふいに頭の中に声が割り込んで来た。
 
 「おいで」。
 
メイディア「……!」
 
 この感覚は知っている。
 メイディアは息をひそめた。
 女の優しい声が呼ぶ。
 
「おいで。そんなところに突っ立ってないで」
 
メイディア「絵だ……絵が……」
 
 絵の中の風景が目の前に広がった。
 突如、旅人の瞳が発動したのだ。
 子供のころは1年に1回、あるかないかの頻度で養成所に入ってからは一度もなかったのに。
 ニケの実験の被験者になって以来、度々この現象が起こる。
 ……ニケは、失敗をしていなかったのだ。
 だが、メイディアは旅人の瞳の知識はなく、ただ、昔から不思議に備わっている能力とだけ認識していた。
 
メイディア「……………」
 
 目を閉じて全身の力を抜き、どこから飛んでくるのかわからない映像を受け入れる準備をした。
 フリーデルス一家殺害事件のときもこうして、唐突に始まったのだ。
 部屋で一人きりのときに。
 頭に入り込んで来たヴィジョンの中で、黒髪豊かな美しい女は一家の母だった。
 
母「おいで。そんなところに突っ立っていないで」
 
 優しく手招きをした相手は、頭に雪を乗せたみすぼらしい少女だった。
 裸足で雪の中、棒のように立っている。
 
メイディア『女の子だわ……外から覗いていたのはヒサメ先生ではなかったのね』
母「こんなに雪だらけで可哀想にな。暗くなっているのに、いつまでも外で遊んでおるから」
 
 白い手で頭の雪を払ってやる。
 メイディアはこの少女を、いや、この場面を前に見たような気がするとぼんやり思った。

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