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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 56-6

青いリボン「先生のこと、知りたくない? 一緒に暮らしているのに顔も見せてくれないなんてヒドイよ。メイディアはもう先生しか頼れる人がいないのに他人行儀で」
 
 これを聞いたら、氷鎖女は間違いなくこう言うだろう。
 行儀じゃなくて他人なのだと。
 けれどメイディアは面白くなかった。
 2年間、顔を1度も見たことがない。
 365日×2回もいて。
 今なんか、同じ屋根の下なのに養成所にいるときと態度が一緒だ。
 メイディアちゃんは可哀想なのだから、もっともっと優しくしてくれてもいいのに。
 またまた身勝手な理屈が沸いて出た。
 
メイディア「そうだわ! ヒサメ先生の秘密を握ってやるっ!!」
 
 ヒトサマにやっかいになっておいて、地位をなくした令嬢はとんでもないことを思い立った。
 

▽つづきはこちら

メイディア「見てはいけない部屋にはきっと、ヒサメ先生の秘密があるハズ!」
 
 とうとう青いリボンの鍵を鍵穴に突っ込んで回してしまった。
 画家は練習で一番身近なモデル……自分の肖像画を必ず描くに違いないと考えたのだ。
 素顔を見られたくない恥ずかしがり屋の氷鎖女がそれを隠しているのがあの部屋に決まっている。
 
メイディア「薔薇騎士レンジャー、見参!! とうっ!!」
 
 掛け声と共にドアを開ける。
 
メイディア「……………」
 
 中は、他となんら変わりはなかった。
 乱雑なだけの部屋。
 
メイディア「なーんだ」
 
 踏み込んでからメイディアは息を呑んだ。
 人がいたからだ。
 それも、
 
メイディア「クッ……! クロエ、どうしてここに!?」
 
 驚いて駆け寄って、それが生きていないことに気が付いた。
 
メイディア「…………………人形……?」
 
 口元に柔らかく微笑みをたたえ、慈愛に満ちあふれた瞳がこちらを見ている。
 けれど、メイディアを映していないのか反応がない。
 当然だ。
 人形だったから。
 
メイディア「ウソ……」
 
 触って確かめて、蝋でできた人形であるのは確認したのに一歩離れて見るとやはり生きているようにしか思えない。
 愛の女神のように、彼女は椅子に腰を下ろしていた。
 
メイディア「………………」
 
 メイディアはコツコツと靴音を立てて、しばらく人形の周囲を歩き回った。
 人形がメイディアの行動を追って腰をひねり、「メイディったら、何をやっているの?」と語りかけてくるかと思ったが、そんな出来事は起こらず、“彼女”はただ同じ方向を向いて微笑んでいる。
 部屋の窓にはカーテンが閉め切られて薄暗いのに、光が差しているように感じられた。
 あまりに出来過ぎた芸術作品はそれ自体が光を放って見えるのだと聞いたことがあるが、目の前にある物がまさにそれなのだとメイディアはひどく興奮した。
 
メイディア「素晴らしいわ! ヒサメ先生は天才よ!! ただの変な人だとばっかり思っていたのに!」
 
 肝胆の声を上げて、汗ばむ両手を握り締めた。
 
メイディア「スゴイわ、スゴイわ、スゴイわ! どうしてこれが、この傑作が見てはいけない部屋にあるの? 自慢すればいいのに!」
 
 言って、はたと気が付いた。
 
メイディア「ひょっとして………」
 
 ひょっとして、もしかして。
 彼はクロエに恋をしているのではないか?
 だからこれを作り、誰にも見せないようにこの部屋へ。
 メイディアの頭の中にめくるめく恋物語が発展していった。
 
メイディア「猟奇的に追い回されているうちに、とうとうクロエに目覚めたのね、先生!」
     「人知れず想いを焦がして、言えない胸の情熱をこの人形に込めて作り上げたのだわ! そうでなければこんなに愛に満ちた表情の優しげなクロエが出来上がるはずないもの!! んま~っ! どうしましょう、どうしましょう、どうしましょう~っ!!」
 
 その場で足踏み。
 
メイディア「そうでしたの、そうでしたの。それでこの部屋は禁断の扉に……!」
 
 感動した大傑作・クロエ人形の側にある、発注日と製作費用見積りの紙にまだメイディアは気づかない。
 恋愛物語を台なしにする、現実味溢れる領収書とか。
 
メイディア「一人、この部屋に入ってきたときに、“ただいま、クロエ”。とか語りかけてしまったりするのかしらっ!? 人形にキスをしてしまったり!? ……んまっ!? そう考えるとちょっとイケナイ気がしてきましたわ。ダメよ、先生! ちゃんと本人に言わなくちゃ!!」
 
 大変不名誉な誤解である。
 
メイディア「どどどど……どうしましょう、ワタクシ、大変なものを見つけてしまいました、どうしたら……」
 
 どうもこうもない。
 氷鎖女が帰って来たら血祭り決定だ。
 しかしメイディアは一人、身もだえ。
 気をまぎらわすには幸いの衝撃ゴシップである。
 他にもしかしたら、クロエに関するものがあるかもしれないと部屋を漁り始める。
 
メイディア「ノノノノノノートに日記とかラブポエムとかあったらどうしたらいいの!? そうですわ。養成所にクロエ宛で送れば……! 待って下さいましね、先生。恋のキューピッド・メイディアがそのシャイな恋心を叶えてご覧に入れますわ!! ハッ!? でも待って? 彼女にはお兄様が……それにフェイトが好きだって……どうしよう、だから先生は言えないのだわ。クロエったら……気を持たせるだけ持たせて、イケナイ子。ワタクシはできれば、恩人である先生にこの恋を獲得して欲しいのに。だってフェイトのことを好きな女の子は他にもきっと沢山いるだろうけど、先生を好きになる女の子はハッキリ言っていないもの!!」
 
 クロエばりに妄想の一人歩きが始まってしまった。
 全てはあの完成度の高過ぎる人形のせいだ。
 これを見てしまったら、愛ゆえにと思い違いするのはメイディアだけではないはず。

 夢をブチ壊す、見積書と領収書を見つけない限り……。

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