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レイディ・メイディ 56-2
2008.07.28 |Category …レイメイ 55-57話
メイディア「お断りになったのに?」
氷鎖女「気が変わった」
メイディア「……気が変わったって……。でも……もし先生が捕まったら……どうなさるおつもりだったの?」
氷鎖女「どうするって………どうもこうも。捕まれば終わりでござろうな」
メイディア「……………それなのに?」
氷鎖女「ん? うん」
メイディア「頼まれたから?」
氷鎖女「頼まれなければやらないよ。それよりイモの皮むきやるつもりがあるのか。こちらは終ってござるぞ」
ジャガイモひとつ握ったままで、ちっとも動かないメイディアの手。
言われてようやく少し動いた。
メイディア「頼まれたら何でもするの?」
氷鎖女「さて。気が向いたらな」
首をかしげる。
▽つづきはこちら
メイディア「……………」
氷鎖女 鎮の基本は、生まれながらの呪いに苦しみ解きたいと強く願う以外は、絵筆と人形作りさえできれば満足の、損得にあまりこだわらない気のいい素朴な青年である。
ところがこの気の良さというのがクセ者で、世間一般とはるかに掛け離れている。
頼まれごとは大抵、引き受けてしまう性分だが、その内容が人助けであっても人殺しであっても同じレベルで請け負ってしまうのである。
それが彼の本性。
正義もなく、悪もない。
そこにはただ、「頼まれた」という事実があるだけだ。
“頼まれごと”を引き受けるかどうかを決断するのは、残念なことに「良心」ではなく、「気まぐれ」。
そこに「好意」などが加われば、割合がぐっと増すが、それでも気が向かなければそれまでだ。
今回はメイディアに助けを求められたことを前提として、彼女に哀れを誘われたこと、公爵という権力者の目の前から花嫁を鮮やかにかっさらってやるのも愉快とイタズラ心を刺激されたからに過ぎない。
この内、どの要素が欠けていても鎮は動かなかったであろう。
本音を知らず、救われたメイディアは、彼をこの上もなく勇敢で慈愛に満ちた正義の使者だと深く感激してしまった。
救っただけでなく、後の生活もこうして面倒を見てくれているのだから、そう思うなという方が無理な話。
迷惑だと口で言いながらも、追い出そうという気配は感じられない。
ところで同じ勘違いをローゼリッタの女王も犯してしまっている。
女王が賊の手から救われて彼を信用をし、今の位置を授けた。
彼女たちが思っているほど、鎮は立派な人間ではなかったが、同じような間違いをしてしまうのは無理からぬことだった。
確かに彼は親切心に富んだ気のいい性格であるし、時には身を省みずに人助けもする。
他人が見れば、なんと人間のできた好青年だろうと拍手を送るだろう。
だが、氷鎖女 鎮のどこか壊れた精神状態は、静かに、けれど確実に常軌を逸している。
普段は表面化しない、隠された危険。
彼に対する頼みごとには注意が必要なのである。
気まぐれを起こせば、何でも聞いてしまうから。
人を救うことも、命を奪うことも。何でも。
メイディア「先生」
氷鎖女「今度は何ぞ?」
メイディア「手が……………………切れました」
ボタボタ……
ジャガイモは剥かれずに、メイディアの白い手が鮮血に染まっていた。
氷鎖女「……どんだけ不器用なのだ、貴様……」
『こんなんでこの先、独りで生きていけるのかこいつは……』
翌日、養成所では……
クレス・カイル「……………………」
リク「アハハ、アハハ」
氷鎖女「うぉう……頼む……頼むからしばらく放っておいてくれたり精神的に休ませてくれたりはせぬのだろうか?」
リクが氷鎖女の胴に腕を通して、ぶんぐる振り回して遊んでいる。
前触れもなく突然、謎の行動は始まる。
意味なんて全くない。
やりたいからやるのだ、彼は。
カイル「やっぱ最近、リクおかしーよな」
クレス「前からあんなだった気はするんだけど」
リク「あ、手が外れ……」
ごっしゃあぁっ!!
振り回していたリクの手が外れて、氷鎖女、廊下の壁に激突。
氷鎖女「………………」 ガクブル。
リク「……あー……痛いの、痛いの、とんでけ~」
ズルズルと壁から剥がれて落ちた教官の傍にしゃがみ、頭をなでる。
氷鎖女「………………」
リク「あれ。死んじゃったかな」
氷鎖女「………………」
ゆっくり手をついて起き上がり、
氷鎖女「シャーッ!!」
……怒ってリクの頭にかじりついた。
リク「あっ!? イタタタタッ!! あはは、イタタ。イタ、あは」
氷鎖女「シャーッ!! シャーッ!! シャーッ!!」
噛み付かれながら笑うリクに、見ていた生徒たちは心の距離を取った。
カイル「怖い……リクが壊れた……」
クレス「前からあんなんだった気がするけど」
アン「リ……リク君が変になっちゃった……」
ジェーン「元から変は変よ?」
クレス「な?」
ジェーン「うん」
家では暴君メイディアが。
職場ではバイオレンス・リクと狩人クロエが。
このままでは逃げ回って過労死してしまう。
氷鎖女は本気で考えていた。
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