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レイディ・メイディ 第56話

第56話:青髯屋敷(あおひげやしき)
 メイディアが氷鎖女宅に来て1ヶ月が経とうとしていた。
 養成所ではかつての同級生たちが3回生になる頃だ。
 ちょうどリクがメイディアからの手紙を受け取って打ちのめされた頃でもある。
自分を立て直すのに精一杯のメイディアは彼を気遣ってやれる余裕はなく、新しい事実はまだ伝えていない。
 氷鎖女の方はこの間、養成所と家を行き来して生活を送っている。
 
氷鎖女「そろそろ引きこもってないで、外に出てみてはどうでござる?」
メイディア「…………」
 
 お嬢様ではなくなったメイディアに料理を教えるためにジャガイモの皮むきを目の前で披露している氷鎖女が言った。

▽つづきはこちら

 屋敷のある町は薔薇の騎士団養成所にほど近く、けれど養成所からの馬車はもっと大きな町と行き来するのでこの小さな町に候補生の姿を見かけることはない。
 だから外に出てもいいのではないかと提案である。
 知り合いがいない上に、屋敷自体も町外れの森の中にひっそりとあって、人間の姿などメイディアと氷鎖女、お互いしか存在しない。
 時折、森に遊びに来た町の子供達が窓の外に見えることはあっても、「お化け屋敷だ」と言ってすぐに逃げて行ってしまう。
 そんな屋敷は昔、商人が愛人に買い与えていたものだったが、本妻がやって来て妾を殺傷する事件が起きてから、幽霊が出ると噂になり買い手がつかなくなった。
 破格の値がついて売り出されたところに氷鎖女が買い取ったのである。
 養成所にくる前の氷鎖女が暮らしていたが、現在は養成所の宿舎で寝起きしているものだからほとんど放置されて、荷物置き場のような状態である。
 メイディアが始めに目覚めた部屋は人形置き場で、人影というのはそのまんま。人形だったのだ。
 転がっていた丸い物は、作りかけの人形の首。
 あのとき確かめていたら、本物の生首だと思ってさらなるパニックを引き起こしただろう。
 事件があってお化け屋敷と名が付いている建物だが、中身もお化け屋敷と呼ばれるにふさわしい。
 何も知らずに踏み込んだ人間はまず悲鳴を上げてひっくりかえるに違いなかった。
 
氷鎖女「外に出るなら念のため、髪を染めたがようござるな」
メイディア「…………」
 
魔法の手の中で、ジャガイモはあっという間に裸になった。
メイディアはというと、やっぱり手に持っているだけでまだ1つも満足に剥けていない。
 
氷鎖女「ごーるでんという名も変えた方が良いやもしれぬ」
メイディア「先生……」
氷鎖女「うん?」 手を止める。
メイディア「ワタクシ、初めからゴールデンって名前じゃないんですけど……」
氷鎖女「………………」
メイディア「………………」
氷鎖女「………………」
 
 なんだかとうとう丸2年間、ゴールデンと呼ばれ続けているけれど。
 それでうっかりいつのまにか慣れて返事なんかしちゃっているけれど。
 よくよく思い出せば、コレ、フルネーム?はゴールデン巻グソ。
 入所早々、机の上に飛び乗って演説していたメイディアに向けて発せられた、世界で一番失礼極まりない教官・氷鎖女の一言だった。
 切る前の、見事な金髪縦ロールをこともあろうか、黄金の巻ぐそに例えたのである、この教官は。
 
氷鎖女「……じゃあ、ごーるでんでもいいか。本名じゃなかったし」
メイディア「………お断りします」
氷鎖女「……じゃあ、拙者が舌をかまずに言えそうなので」
 
 また止まっていた手を動かし始める。
 
メイディア「考えておきます……」
 
 ダンラック公爵のところに嫁いだメイディア伯爵令嬢がたった1日にして身投げしてから1ヶ月。
 現在、彼女はローゼリッタ中央部に近い小さな町の外れに佇む屋敷でジャガイモをにぎっている。
 3ヶ月前に嫁に行きたくない、助けて欲しいと無理を承知で養成所の教官に泣いてすがったことがあった。
 本当に助けてもらえるとまで期待してはいなかった。
 いや、全く期待していなかったかと問われれば、それは嘘になるが、ほとんど諦めてはいた。
 ならばどうして最後に彼の元へ足を運んだのかといえば、苦しい胸の内をぶつけて吐露したかっただけだ。
 結局、自分のために困らせたかっただけ。安っぽい慰めを欲していただけである。
 教官の方でも当然、断った。
 他人なのにどうしてそれほどの危険を冒さなければならないのか。
 それをする義理も得もないのに。
 ……その通りである。
 なのに今こうして、メイディアはここにいる。
 何の得もない、それどころか見つかれば確実に処断されることがわかっていながら、教官は助けに応じてくれたのだ。
 助けてもらっておいて何だが、どうしてここまでしてくれるのか不思議でならなかった。
 彼の言うように家族でも恋人でもないのに。
 疑問をぶつければ、彼は首をかしげてこう答えた。
 
氷鎖女「だって、助けに来いとゆったではないか」
 
 驚くほど単純に。
 

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●Thanks Comments

章題を見て…

章題の青髭屋敷はグリムの青髭であろうに…春日の頭を真っ先に駈け巡ったのは見たこともない鬼太郎の青坊主でした…青しか共通点ないよ…(-_-;)

自称グリムマニアなのに春日…!

From 【春日】2008.07.29 13:29編集

グリムマニア失格!

蒼兄さんちゃうで(笑)
しかも見たことないのに!

秘書検定受ける前にグリム検定受けなちゃい☆
……そんなんないけどな!

From 【ゼロ】2008.07.29 20:18編集

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