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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 56-5

 赤いリボンの鍵が合う部屋だけ見て回った。
 この屋敷に来て2カ月が経ったが、自分にあてがわれた部屋と台所、風呂場、トイレ。
 その4カ所の行き来しかしていない。
 他の部屋にもそろそろ興味が向いて来たところだ。
 思い切って一つ目の扉を開くと、人形と絵とが乱雑に置かれていた。
 
メイディア「……なんてキレイ…」
 
 描かれた森の中の風景を手に取り、メイディアはうっとりと眺め入った。
 森の開けた場所に湖。水面に映り込むもう一つの涼しげな風景。
 葉の間から木漏れ日がやわらかく、絵を見ているだけで森の薫りが漂ってきそうだ。
 こんな風景の中を裸足で駆け回って遊びたい。
 そんな気持ちに応えるかのように小さく風景に溶け込んで人も描かれている。
 手をつないだ幼い兄妹だ。
 兄は籠に木の実を摘んで、妹は花を束ねて持っている。
 彼らはメイディアの希望を絵の中で叶えてくれていた。
 

▽つづきはこちら

メイディア「……見たこともないのに懐かしいみたい」
 
 どの絵を見ても必ず小さく温かい家族の絆が添えられており、視る者の心の奥底に訴えかけてくる。
 ささくれた心が鎮まって、久しく家庭に戻っていない者はきっと家が恋しくなるだろう。
 そんな魅力がこの絵にはあった。
 
メイディア「だけどどうしてかしら?」
 
 遠くから見た構図でしかないのは。
 もっと近くで、家族がそろった絵がないのは。
 見ている側が家族の一員であるように錯覚させてくれる絵がいいとメイディアは唐突に、そして切実に思った。
 そう。
 彼女は今、寂しかった。
 自分が家に戻りたいのだ。
 この絵を眺めて、余計に帰りたい気持ちを駆り立てられてしまったのである。
 辛くて怖い思いをした。
 母親に、ばあやに抱き締めてもらいたい。
 可哀想にね。もうどこにも行かなくていいんだよ。おウチに帰っておいでと優しく語り掛けてもらいたい。
 望郷の念を幻影に求めて、メイディアは必死になって絵を漁った。
 風景画ではなく、愛らしい犬猫をモチーフにした絵ではなく、家族の一員になれる絵が見たい。
 
メイディア「これじゃない……これでもない……ない、ない……!」
 
 そんなに広い屋敷ではなく、咎められた部屋がある以上、探せるのはいくらもない。
 結局、残念なことに求めていた類いの絵は見つからず、午後の3時になると全ての部屋を見終わってしまった。
 氷鎖女が朝多めに作って行ってくれた食事を遅まきながら、口に放り込んでメイディアは考えた。
 
メイディア「……やることがなくなってしまいました……」
 
 自分のものは自分のもの。氷鎖女のものも自分のもの。
 そんな彼女は、教官の寝室まで荒らしていた。
 洋服ダンスを開けて、いつも彼が着ている例の不思議真っ黒衣装がズラリと並んでいて度肝を抜かれ、とりあえず捜索は一時打ち切り。
 遅い昼食としたのだった。
 
メイディア「いつも同じ服を着ていると思ったら、あんなにストックが……。他にも普通の服が置いてあったけど、あの黒服以外に着たのを見たことありませんわ」
 
 もう、無意味に文句を言いたくて仕方がない。
 戻って来たら、まず始めにそれを責め立ててやろうと思ったが、そうだ。
彼はしばらく帰っては来ないのだった。
 
メイディア「……つまらないの」
 
 部屋は人形と絵以外にちょっと風変わりなアクセサリーやカラクリ玩具などがあり、メイディアを夢中にさせた。
 不思議の国の玩具箱の中のようだった。
 これをレイオットやクロエが見たらどれだけ目を輝かせて喜ぶだろう。
 一緒になって遊びたい。
 けれど汚れてしまった自分を見せたくはない。
 もし万が一、前のメイディアと違うなんて言われたら、どう申し開きすれば良いのだろう。
 それに、それにだ。
 リクに手紙を送ってしまった。
 自分は人殺しですと。
 もう友人たちと顔を合わせることはできない。
 そう思ったら、また悲しくなってきた。
 養成所にくるまではいつもいつも独りだった。
 けれど養成所で沢山の友達ができた。
 沢山と言っても嫌われ者のメイディアだったから、本当はたかが知れているけれど、彼女は沢山だと思っていた。
 自分は威張り散らしてばかりだったけれど、そんな彼女を平気で叱ってくる、上も下もなかった友達が確かに存在していた。
 それまで心の中を打ち明けられる友人を持たなかった彼女にとってどれだけ大切だったか。
 思い出せば無性に会いたくてたまらなくなる。
 レイオットはどうしているだろう?
 レクは自分が死んで悲しんでくれているだろうか。
 リクは自分を恨んでいるに違いない。
 クロエは? クレスは? 義妹は? アンは? ダレスは? 黒猫チェリーは?
 レヴィアス先生は?
 ……フェイトは?
 
メイディア「……………つまーんなぁーい!」
 
 一人の時間を持て余し、目の前で鍵の束を振ってみる。
 青いリボンが「いいよ、少しくらい」そう語りかけてくるように思えた。
 
メイディア「……いいえ。ダメよ。ヒサメ先生が今度こそ怒るわ」
青いリボン「そんなことないよ。どうせ1週間戻って来ないんだから」
 
 また青いリボンが囁いた。
 
メイディア「……むぅ」
青いリボン「鍵を渡したんだから、見てもいいって事じゃないの?」
メイディア「ワ、ワタクシは信用されているの」
青いリボン「後で謝ればいいよ」
メイディア「……………」
 
 後で謝ってしまえばいい。
 何だか名案のように思われた。
 
メイディア「……ハッ!? いけない、いけない」
 
 誘惑に頭を振る。

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