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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 56-4

 公爵の元から助け出されたメイディアは2ヶ月経った今もあの夜の恐怖から逃れられていなかった。
 夜中に幾度となくうなされては騒ぎ、怖いと言っては氷鎖女の部屋のドアを叩く。
 さすがにドアの前でというのはなくなったが、ロープは二人の部屋をつないでいる。
 お陰で氷鎖女は休まる暇が無い。
 朝は休んでくれと袖を引く。無理に振り払って養成所にいき、夕方戻ってみれば、やはり独りが怖いと泣いている。
 よくもまぁ体内の水分が涸れないものだと妙な感心をしてしまうほどだ。
 
氷鎖女「寂しければ、部屋の人形で遊んでおれ」
メイディア「その人形が怖い!」
氷鎖女「だからそちらの部屋は片付けたじゃん」
メイディア「ううう~っ」
 
 下唇を噛んで徹底抗戦の構えだ。
 

▽つづきはこちら

氷鎖女「わかった。では今日は帰りに誰か連れて来よ。仲の良いのは誰か? リク? クレス?」
メイディア「イヤッ!!」
氷鎖女「……はぁ? 何がぁ?」
メイディア「イヤなのっ!」
氷鎖女「むー…リクとクレスはダメでござったか。じゃあ、あとは誰だ。ごぉるでんの交友関係など知らぬでござるよぅ」
 
 同居人のワガママにほとほと困り果てる。
 
メイディア「だってワタクシは死人でバレたら困るのでしょ? 連れ戻されてしまうかもしれないのでしょ? そんなの困ります」
氷鎖女「さすがに家に戻ったりはできぬが、無関係の人間ならばきっと……多少なら平気でござろ」
メイディア「でもイヤ」
氷鎖女「何故? いつも養成所におる者たちの様子を聞きたがるのに」
 
 レイオットはどうした、レクは何をしている、クロエは元気か、クレスは、リクは?
それはもう、うるさいくらいに。
 
メイディア「軽蔑されるかもしれないもの」
 
 自分を抱くように腕を回す。
 
氷鎖女「なんでやねん」
メイディア「……だって……だって……」
 
 公爵の股間から伸びた無数の触手が直接肌を這いずった感触が思い出され、身をすくめた。
 
メイディア「だって……ワタクシ…………」
 
 あれほど氷鎖女が大丈夫だと言い含めても、すぐに心の傷は癒えない。
 会って友人たちに、初夜を迎えたのだと思われるのが、とてつもなく辛く思えた。
 
氷鎖女『はぁ、困ったものだ』
メイディア「……嫌なの……絶対に嫌! 誰にも見られてくないの!!」
氷鎖女「わーかった、わかった。わっかりましたぁ」
   『んもー。めんどっちぃなぁ』
メイディア「先生はちゃんと帰って来て、ここにっ!!」
 
 床板を両手で叩き鳴らす。
 
氷鎖女「嫌でござるよー。疲れるもの」
メイディア「疲れない!」
氷鎖女「疲れるのは拙者だ」
メイディア「ヤーダヤーダヤァーダァァッ!!」
 
 転がって暴れる。
 
氷鎖女「うるっしゃー! ……ではこうしよう、1週間に1回。日曜だけ戻るというのは?」
メイディア「どうしてそんなにワタクシがお嫌なのぉっ!?」
氷鎖女「言ったでござろ? 養成所の行き来が面倒だし、ゴールデンうるさいし、夜泣きするし、額当て取れないし、拙者だってイヤだもん」
 
 ぷいっ。
 
メイディア「養成所なんて、目と鼻の先です! 見えてます!!」
 
 起き上がって、窓を指さす。
 
氷鎖女「建物が巨大ビックだから近く見えるだけで、馬で2時間以上かかってるの! 朝と帰りで往復4時間あれば、寝たり転がったり転がったり転がったりできるのでござるぞ」
メイディア「転がり過ぎです!!」
氷鎖女「俺の勝手だろ! いくら転がったっていいじゃん! 転がるさ!! ああ、転がりますとも!!」
メイディア「……“俺”?」
氷鎖女「……のあっ!? 言い合いしておる場合ではなかった! それ見ぃ、遅刻ではないか。レヴィアス殿にまた叱られるでござるよ。うわんっ」
 
 時間に気が付いてあたふた。言い争いをしている場合ではない。
 氷鎖女はとうとうメイディアを振り切って行ってしまった。
 生活費を持たされたメイディアはしばらく玄関の前でべそをかいていたが、やがて疲れたのかあてがわれた部屋に戻っていった。
 眠ればまた裸体の男たちが迫ってくる夢を見てしまう。
 今までは泣きわめけば、氷鎖女が文句を言いながらも来てくれて、独りでは怖くて眠れないと駄々をこねればメイディアが眠りに落ちるまでドア前で座っていてくれた。
 なのに今日からは本当に独りになってしまった。
 まだ恐怖の夜からの傷が癒えていないというのに。
 なんて薄情な先生だろう!
 責めるのはお門違いとわかっていつつも、他に相手がいないものだから、ついやり場のない憤りをぶつけてしまう。
 本当は解っているのに。
 これだけ親切にする義理もないのに付き合ってくれているのだと。
 音もない部屋でじっとしているといつ公爵が追って来るだろう、実はもうそこにいて覗いているのではないかと思えて気が狂ってしまいそうになる。
 ガーディアンとして侵入者を拒む人形を設置してくれていて、メイディアに何かあれば養成所の氷鎖女にも知らせが行くように準備はして行ってくれたのだが、それでも不安はぬぐいきれない。
 別のことで気をまぎらわせなくては。
 そこで彼女は氷鎖女屋敷探検に乗り出すことにした。
 メイディアが自由にしていいと許可された部屋は限られている。
 他にいくつか絶対に開けてはいけないと念を押された部屋があるのだ。
 けれど、鍵の束は渡されている。
 これで全て開いてしまうのだ。
 
メイディア「なんて不用心なのかしら」
 
 青いリボンをつけたのが開けてはいけない扉の鍵。
 赤いリボンが勝手にしてもいい部屋の鍵。
 開けてはいけないと言われれば、開けたくなるのが人情ではないか。
 
メイディア「でも待って?」
 
 彼は自分を信用して、この鍵を預けたのである。
 信頼を裏切ってもいいものだろうか?
 
メイディア「……やめましょう」
 
 午前中はこれでよかった。

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