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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 56-3

カイル「リクー」
リク「なに?」
カイル「あんまりしつこく先生イジメてると嫌われっぞー?」
 
 見かねてカイルが声をかける。
 
リク「平気だよ」
 
 軽く応えて、
 
リク「はい、お手」
氷鎖女「!?」
 

▽つづきはこちら

 さっ!
 リクの手に右手を乗せる。
 
リク「おかわり」
氷鎖女「ッ!!」
 
 ささっ!
 リクの手に左手を乗せる。
 
氷鎖女「…………」
 
 シーン……
 
 思わずやってしまってから、動きを止める。
 
リク「あははー。よーしよし♪」
氷鎖女「キシャー!!!!」
 
 撫でられた手を乱暴に払う。
 
氷鎖女「まったくまったく! 拙者をなんと心得るっ!? 年上をからかって遊ぶでないわっ!!」
 
 膨れて背を向け、ガニ股でずんずん離れていく。
 リクは遊べて満足そうだ。
 
ジェーン「見てると私もやりたくなるわ、アレ」
アン「ダ、ダメだよぅ」
ステラ「リク君、アレよね。おっきいテディベアの耳を引っ張ったり、叩いたりして遊ぶ子供みたい」
アン「テディベア?」
ステラ「それで、そのぬいぐるみ取られそうになると怒る、みたいな」
ジェーン「ああ、イジメて遊んでるけど、でも好きーみたいな、ね」
ステラ「そうそう」
アン「テディベアっていうイメージじゃないけどね、先生」
ステラ「まぁね」
 
 女の子たちが呆れたように同時に肩をすくめる。
 
カイル「おい、リクー。いいのかー? 最近、成績も下がってるし、マジに嫌われても知らないぞ」
クレス「ヤル気なしって見られるかもねー。それともお前ってそんなモン?」
リク「……マ、マズイかな、やっぱり?」
 
 友人たちに言われて振り返る。
 
カイル「マズイだろ。レヴィアス先生とは違うけど、結構怖いって前に言ってたの、リクだぜー?」
リク「…………そうだね……」
 
 小さく息をつく。
 最近、何もヤル気が起こらない。
 毎日が惰性で生きているような気がする。
 吸っている空気が重くてだるい。
 ただ、氷鎖女をいじって遊んでいるときだけは少し気が晴れる。
 だからついつい過剰に構ってしまうのだ。
 
クレス「なんだか知らないけどさ。甘えてんの?」
リク「あ、甘え?」
クレス「構って構ってってそんなカンジじゃん」
リク「……そ、そうかな?」
 
 自分の方こそが構っているつもりだったリクはきょとんとして赤い目を瞬かせた。
 
 
 青葉が美しい5月。
氷鎖女屋敷で暮らすようになって2ヶ月。
メイディアは短く髪を切り、黒く染め、名をリディアと改めた。
 覚えの悪い教官のためにわざと似た名前を選んだのだが、何度、新しい名を教えても彼は“ゴールデン”から離れられない。
 変えた意味があるのかないのか。
 屋敷のある町は薔薇の騎士団養成所にほど近く、けれど養成所からの馬車はもっと大きな町と行き来するのでこの小さな町に候補生がくることはない。
 知り合いがいない上に、屋敷自体も町外れの森の中にひっそりとあって、人間の姿などメイディアと氷鎖女、お互いしか存在しない。
 時折、森に遊びに来た町の子供達が窓の外に見えることはあっても、「お化け屋敷だ」と言ってすぐに逃げて行ってしまう。
 そんな屋敷は昔、商人が愛人に買い与えていたものだったが、本妻がやって来て妾を殺傷する事件が起きてから、幽霊が出ると噂になり買い手がつかなくなった。
 破格の値がついて売り出されたところに氷鎖女が買い取ったのである。
 養成所にくる前の氷鎖女が暮らしていたが、現在は養成所の宿舎で寝起きしているものだからほとんど放置されて、荷物置き場のような状態である。
 メイディアが始めに目覚めた部屋は人形置き場で、人影というのはそのまんま。人形だったのだ。
 転がっていた丸い物は、作りかけの人形の首。
 あのとき確かめていたら、本物の生首だと思ってさらなるパニックを引き起こしただろう。
 事件があってお化け屋敷と名が付いている建物だが、中身もお化け屋敷と呼ばれるにふさわしい。
 何も知らずに踏み込んだ人間はまず悲鳴を上げてひっくりかえるに違いなかった。
 氷鎖女は最初の1ヶ月は夕方になると養成所から戻り、朝になるとまた出掛けて行ったが、2ヶ月目にはメイディアに生活費を渡してしばらくは戻らないと告げた。
 
メイディア「どっ! どうしてですの!?」
氷鎖女「面倒臭いもん。いちいち行ったり来り。宿舎で寝泊まりした方が遅刻しないし、楽ちんだし」
メイディア「面倒臭いもんって言われても……ワタクシはどうすればいいの?」
氷鎖女「だから、生活費を渡したでござろう。また時々来るから心配はいらぬ」
メイディア「ワタクシ、料理なんてしたことありません」
氷鎖女「……しろよ。教えたじゃん」
メイディア「独りは嫌です」
氷鎖女「拙者は独りじゃないと困ります」
メイディア「どうしてですの?」
氷鎖女「……コレがどこにいても取れぬではないか」
 
 額当てを触る。
 
メイディア「取ればよろしいではございませんか」
氷鎖女「ダメ」
メイディア「嫌です、嫌です。行かないで、怖い怖い怖いぃ~っ!!」
 
 泣き出してその場にしゃがみこんでしまう。
 
氷鎖女「ああ~、また泣くぅ~」

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