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レイディ・メイディ 57-4
2008.08.01 |Category …レイメイ 55-57話
ラビア「……貴女は……病んでいたのですね?」
あれほど軍隊を翻弄して暴れまわった魔女とは思えない、頼りない背中にそっと草を踏んで近寄る。
しかし彼女は振り返らずに湖の水面をただ目に映している。
シレネ「ラビア、私はこのまま平穏に生きていたとしても、もういくばくもない」
ラビア「戻って……医者に……」
シレネ「病じゃない。先祖から受け継がれた呪いが、私を内から壊しているんだ」
ラビア「……呪い……」
シレネ「私は所詮、氷鎖女の子……幸せなど求めても結局、このザマ。このようなことになるのなら、早く、早く、呪いに取り殺されてしまえばよかったのに」
苦しそうに笑う気配がした。
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ラビア「お願いだから、そんな悲しいことを言わないでちょうだい」
シレネ「悲しいのは私ではない」
シレネは首を振った。
シレネ「悲しいのは、私などという者から生まれてしまった、この子。何も殺されることなんてなかったのに」
放っておいてくれたら、田舎に引っ込んで、つつましく生きて行こうと思った矢先だったのに。
シレネ「だけどああ、私は術を施した。人生最大で最高の……二度とは使えまい魔法を。だから他でもないアナタに頼みがある。ラビア=ローレンシア」
ゆっくり立ち上がって、彼女は振り返った。
ラビア「何でも聞きましょう、死にゆく者よ」
ラビア=ローレンシアという12番目の魔女は、内容を聞く前から首を縦に振って見せた。
シレネ「……ありがとう」
シレネは子供をラビアに託した。
驚いたことに死んでいたと思っていた子供に体温が感じられた。
やがて胸が上下し始めて、柔らかい唇から息を吸い込んでは吐き出す行動を示す。
ラビア「生き……返った!?」
シレネ「いや、まだ死んでいる。この石を……」
二つの真っ赤な石榴石(ガーネット)をラビアに握らせる。
シレネ「私の全ての魔力と命を注ぎ込んだ。この石を片時もこの子から外さないで。やがてここに吹き込んだ私の命がこの子の体に定着し、自らの命とするまで」
ラビア「……………」
命を移し替える…………話に聞いたこともない魔法だった。
恐らくは彼女が先祖から受け継がれたという呪いから逃れるために、密かに研究し続けていたのだろう。
だが、命を左右するというこの行為は神に背く、重大な罪だ。
ラビア「こんなことをしては、貴女が天国へ導かれなくなってしまう」
シレネ「ふっ……どうせ私のような醜き者には、天国の扉など閉ざされたままでしょう。悪いことをしようがしまいが受け入れてくれるはずもない」
ラビア「捨て鉢にならないで。神は必ず……」
シレネ「神が手を差し伸べてくれるのなら、この子に。私はこの子が生きていてくれさえすればいい。それで私が地獄に堕ちようが、この世を永遠にさまようことになろうが……この子が………生きて笑ってくれさえすれば」
ラビア「…………」
シレネ「どうぞ、この子を守って、ラビア」
ラビア「…………」
シレネ「数百年ののち、この子は自分で目覚めます。そのときに独りぼっちじゃ生きて行けない」
ラビア「…………」
シレネ「だからどうぞお願い。貴女の一族に加えてやって。私が母であることなど教えなくていい。平穏に平凡に暮らしてくれれば」
ラビア「…………」
シレネ「図々しい願いだとわかっています。貴女には何の義理もないこともよく存じております。けれど私には他に頼る者がない。無理を承知でどうか、この通りに」
猛威をふるった魔女は両膝をついて懇願した。
言っている間にまた咳き込んで吐血する。
ラビア「……わかりました。引き受けましょう」
ラビアは13番目の魔女の息子を引き取った。
命が込められたガーネットと女性を模った魔法の杖とそれから彼女の故郷でよく知られた傷薬と共に。
追っ手が来ないうちにとラビアは仮死状態の王子をかくまうためにその場を立ち去った。
シレネも連れて行こうとしたが、彼女は首を横に振って言った。
命はその子に譲った。
逃げてもすぐに命の炎は消える。
それよりも自分に残された仕事は、追っ手に殺されて死を確かめてもらうことだと。
ここで自分が逃げて姿をくらませば、どこかにまだ生きていると疑われ、子供にまで手が及ぶと考えたのである。
ラビアは悲しみを振り切って、白い竜を飛ばした。
安全な場所に王子を寝かせるとブライア城に戻って、シレネの場所を知らせる。
頼まれた通りに。
それは残酷な願い事だったが、死を目の前に覚悟を決めた友人の心をラビアは裏切れなかったのである。
かくして美しい湖のほとりで、シレネは討たれる。
魔女シレネの死体は井戸に投げ込まれ、その上に巨大な城が建てられた。
恐るべき黒い魔女が復活しないように封をしたのだ。
それから400年。
どこから漏れ伝わったのか、一連の事件は物語として人々の口に上る。
ローゼリッタの人間ならば知らない者はいない、いばら姫の物語。
悪い魔女は王子に倒され、姫はその王子の口づけで呪いから解き放たれる。
しかし実際に城の地下で眠についているのは、悪い魔女の方だ。
呪いも解けてはいない。
口づけをしてくれる王子もいない。
桜小町という名の東国の少女だったシレネは、今も眠り続けている。
水の中で。
…………………………………。
その少年は、400年後の世界で、猫を構って平和に遊んでいた。
薔薇の騎士団養成所の敷地内。
校舎裏でいつものように。
春のやわらかな日差しを受けて、石榴石のイヤリングがきらめいた。
教官から配布された杖を拒否して、物心ついたときから携えていた女性を模った杖が傍らに置いてある。
ひとときたりとも手放したりしない、彼の宝物だ。
首からは、ナツメから渡された“ばあばの薬”と同じものが入った薬入れが下がっている。
クレス「ちょっとミハイルの奴をからかってやるか」
猫を抱き上げて、彼は保健室の先生の元へ向かった。
猫が大嫌いな保健医を遊び相手に選んで。
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●Thanks Comments
シレネの子!!
クレスくんの過去が本人の知らないところで明らかになってビックリしております!
メイメイとの別れの場面を思い出しちゃった。(クローバーのとこ…あの場面がすごい好きであります!)
幸せそうで良かったよ(・ω・)
お子さんです。
ちなみに「東から来た魔法使い」という小見出しは、クレス主人公の薔薇騎士のタイトルそのままです(笑)
ここでも物語リンク♪
今後はシレネの息子と言うことで、彼にも災いが降りかかります。
見ていて下さいニャー(^-^)
まだまだ先の話だけどね。
涙が・・・!
おばあちゃんすげぇ!!
もー、泣きました!!
てかクレスが・・・クレスが・・・!!
幸せになーれ、幸せになーれ!
コメントありまとう♪
幸せになりますとも!
皆で幸せ物語ですからね、レイメイ(笑)
まだ一波乱ありますけども。
まぁ、ラストは晴れやかにいきたいでごわす。
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