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レイディ・メイディ 57-3
2008.08.01 |Category …レイメイ 55-57話
嘆きと怒りに猛り狂って王を責め立て、彼女は刃を向けられた。
「この醜悪な化け物め!」
王は知っていた。
彼女に取り憑いた人面瘡の存在を。
それを示して、化け物と呼んだ。
この国を滅ぼそうとする魔女を殺せと兵を差し向けたのである。
シレネの中で何か、大事なものが切れてしまった。
ぷっつりと。
それは奇しくも、何も知らされていない無垢な王妃から新たな生命が誕生した瞬間でもあった。
出産の場に王宮賢者たちが呼ばれていたが、招待されたのは12人。
13人目のシレネだけが呼ばれていなかった。
理由は明確にはされなかったが、要するに生まれてくる子に害をなす恐れがあると見なされたからである。
▽つづきはこちら
国で一番の優しい心の持ち主になりますように。
一人目の賢者が生まれたばかりの愛くるしい姫に向かって言い、
国で一番の美女になれるように。
次いで二人目がそう告げて、
国で一番の幸福がおとずれますように。
三人目、四人目と次々に贈り物と言葉が添えられてゆく。
国で一番の……
11人目が真の王位後継者である姫に、祝福の言葉を贈ったとき、立ち入り禁止のハズの扉が大きく開かれた。
毒針で一突きにされた幼児を抱いて、そこにぞっとするような冷たい表情のシレネが立っていた。
シレネ「美しく成長し、幸せの絶頂に至った姫様は、15の誕生日に針に突き刺さって……死ぬ。……この子と同じようにしてなァ」
ラビア「シレネ! 何ということを!!」
シレネ「アッハハハハッ!! それで王族の血は絶えるのだ! ざまぁ、みるがいい!!」
黒い魔力のこもった呪いの言葉に対抗し、12番目の白き賢者が防御の魔法を放つ。
しかし黒衣の魔女の力があまりに強すぎて、効果を薄れさせることはできたが完全に跳ね返すには至らなかった。
シレネはすぐさま黒竜にまたがって城から逃れた。
謀反者を追えとお触れが出され、今や国中が彼女の敵。
12番目の賢者は白い竜に乗って、彼女の後を追う。
今ならまだ間に合う。
姫にかけた呪いを解かせ、許しを請わせるのだ。
ラビア「早まっちゃいけない!」
だが子を失い、愛する人間に裏切りを受け続けたシレネに、もはや許しを請うつもりなど微塵もなかった。
東の果ての島国からやってきた魔女は、本性を現す。
おとなしく従順だった仮面を脱ぎ捨て、悪魔の顔を覗かせる。
シレネ「この国の者は一切が滅びてしまえ!!」
彼女の悪意が黒雲を呼び寄せたのか。
偶然だったのか。
それはわからない。
稲妻が空を引き裂いて、大雨を降らせる。
凶暴で決して人を背に乗せることのない、気位の高い黒い竜を手名付けていたシレネは、ブライア城、上空から魔力の冷気の渦を作り出した。
土砂降りの雨は、その瞬間に氷の槍となって地上に降り注ぐ。
阿鼻叫喚、地獄絵図の始まりである。
弓も投槍も黒き魔女には届かない。
ブライア城上空の攻防。
これを城の名前から「いばら戦争」と名づけられた惨劇の一幕である。
ラビア「シレネ! 無関係の人間を巻き込んではいけない!!」
気高き白い竜に乗った12番目の魔女がとうとう、シレネの魔力が作り出した鉄壁の防御壁を貫いて追いついた。
シレネ「無関係の人間が死ぬのは、王族が裏切り者だからと知れ!! 恨むなら、私の子を祭り上げてから踏み潰した王族に与する全てを恨むがいい!」
ラビア「シレネ!!」
攻撃などしてもいないのに、目の前で突然シレネは血反吐を吐いた。
ラビア「!?」
シレネ「くそっ……ここまでか……」
シレネは黒竜を操り、混乱に堕ちた城から遠ざかる。
ラビアが後を追う。
どのくらい飛んだのか。
朝が来て、夜が来て……
薔薇の騎士団など存在していなかったこの頃、まだ竜を操れるのは国内に数人の賢者だけだった。
だから彼女を追跡できたのは、12番目の魔女ただ一人。
それを知っていて、シレネは黒竜を人里離れた森に静かに降ろした。
12番目の魔女を待ったのである。
やがて12番目が同じように着地すると、湖のほとりにうずくまるシレネを見つけた。
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