レイディ・メイディ ５８－３

リク「……………」

氷鎖女「とっ、とにかくダメ」

リク「……そんなに、ダメ？」

氷鎖女「ダメ」

リク「ひょっとして、俺がダメでそんなふうに言ってるの？」

氷鎖女「そ…そうではない……けど、人を連れてくるとあの生き物が容赦なく責め立ててくるので、拙者が可哀想なことに……」　ガタブル。

リク「可哀想って自分で言っちゃう」

氷鎖女「だって家主なのに何故か立場が弱っちぃのだもの」

 

　一体、何を飼っているのか、この先生。

 

リク「それって可愛い？」

氷鎖女「可愛くない」

リク「可愛くないのに、どうして飼ってるの？」

氷鎖女「あの、うっかり拾ったというか……持って来ちゃったというか……」

リク「捨てたらダメなの？」

氷鎖女「捨てるとたぶん餓死しちゃうから……」

リク「……………」

氷鎖女「で、でも、今、野生に帰す訓練しているから、そのうち何とか……」

リク「……猛獣だよね？　そんなの、野生に帰して大丈夫？　被害者出るんじゃないの？」

氷鎖女「被害者は可哀想だけど、まぁ仕方ないみたいな」

リク「人里から遠くに捨ててこないとダメだよ？」

氷鎖女「う、うん……まぁ、あの……」

 

　口ごもってから、何かに気が付いて手を打つ。

 

氷鎖女「おお、そうだ。リク、いらない？」

リク「だって今、内蔵がどーのって……」

氷鎖女「可愛いでござるぞ！」

リク「嘘だ！　可愛くないって言った！！」

氷鎖女「空耳アワーでござる！！」

リク「変なモノ押し付けようとしないでよ！」

氷鎖女「……ちぃっ」

リク「舌打ちした！　今、舌打ちしたっ！！」

氷鎖女「気のせいでござる」　ぷいっ。

リク「その動物、檻とかに入れてないの？」

氷鎖女「入れてない。でも家から出ない」

リク「先生は危険じゃないの？」

氷鎖女「しょっちゅう危険でござる」

リク「……俺が行って、捕まえててあげようか？」

氷鎖女「残念だが手前では無理だ。拙者と一緒で弱っちぃから」

 

　頭を振る。

 

リク「弱くないよ」

氷鎖女「うんにゃ。あの恐ろしい生物には到底、敵うまい。命が惜しければ、手出しはならぬ。飼うというなら大歓迎だが」

リク「や、飼うのはちょっと……」

氷鎖女「ならダメ」

リク「…むぅ」

氷鎖女「拙者だってあの生き物を早く他にやって、できればオコジョ飼いたい。……可愛いやつ」

リク「オコジョって……」

氷鎖女「だから危険生物もらってくれない？」

リク「……い、イヤだってば」

氷鎖女「……そか。非常に残念でござる」

リク「……………」

氷鎖女「んー……」

リク「いらないよ？」

氷鎖女「んー……」

 

　腕を組んで考えて、唐突に、

 

氷鎖女「そうだ。お前様はアレだ」

リク「はい？」

氷鎖女「危険生物ダメなら、カノジョ作れ、カノジョ」

リク「……………はい？」

 

　耳を疑って聞き返す。

　どうしてそこに話が飛んでしまったのか。

 

氷鎖女「カノジョ」

リク「………………」

氷鎖女「恋人」

リク「………………」

氷鎖女「らばぁめん。あ、ゴムの人ではなくて……」

リク「……いいよ、そんな色々言わなくても聞こえてる。そして余計な説明、要らない」

氷鎖女「では何故、黙る？」

リク「先生の口からそういう単語が出てくると思わなくてつい固まっちゃった」

氷鎖女「微妙に失敬でござるな」

リク「どうしてそんないきなり？」

氷鎖女「だってお前様……」

リク「何？」

氷鎖女「こうして毎日、拙者を構っておっても仕方あるまいが」

リク「仕方なくないよ。楽しいよ」

氷鎖女「手前は、多くの女子（おなご）に気に入られていよう。誰かおらぬのか」

リク「いないね」

 

　即答。

 

氷鎖女「……ハァ」

 

　がっくり。

 

リク「なんでそこでため息？」

氷鎖女「他に構う奴でも探し」

リク「ダメだよ……俺なんか」

氷鎖女「何で俺なんか？　何か悪いのか？　頭？　頭は確かにおかしいが……もうそれはあきらめるしか」

リク「いや、頭でなく……悪いのはえっと……」

　逆に質問を返されて困ってしまった。