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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 54-8

 一方、その花嫁怪盗を待ち伏せていた5人の異邦人は、それぞれ刀を抜いて、静かな殺気をみなぎらせていた。
 兵士に追われた花嫁怪盗が中庭に逃げ込むと、まずは鉤爪(かぎづめ)を装着した冴牙(さえが)が襲いかかり、同時に紅一点の初(はつ)が楔形(くさびがた)の小形武器を投げ放った。
 
泥棒「…………」
 
 花嫁怪盗は剣を抜いて、鉤爪に応戦し、楔の武器は無視して刺さるに任せた。
 
初「くないが効いていない!?」
悟六「下に鎧を着ておるに違いないわ」
 
 続けて、悟六(ごろく)が振り回していた鎖鎌(くさりがま)の分銅(ぶんどう)を投げ付ける。
 自由を奪うつもりだったが、怪盗は上に飛んでこれを逃れた。
 
炎座「逃すか!」
 

▽つづきはこちら

 炎座(えんざ)が剛腕(ごうわん)を振ると出現した炎が標的に向かって、突き進んだ。
 だがこの攻撃も、離れたところに着地した敵を捕まえるには至らなかった。
 
炎座「ちぃ、すばしっこい奴め!」
悟六「偲(しのぶ)!」
 
 若い男は両の手を組み合わせて、何事か低い声で唱えていたがやおら、口にくわえていた半紙を破ると宙に放った。
 ひらりひらりと闇夜に舞った紙切れは、いつしか白い蝶に変わり、怪盗を追跡する。
 その様子を400キロも離れた場所から、見つめている者があった。
 黒幕である。
 
黒幕『くそ、コイツラ、何者だ!?』
 
 黒幕は机に脚を投げ出していた格好をやめ、本腰を入れて“花嫁怪盗”を操ることにした。
 敵の布陣に想像以上の腕利きが混ざってきたからだ。
 暗くて正体を確かめることはできなかったが、身のこなしからしてただ者でないことだけはハッキリした。
 机の上に広げた巻物に片手をかざす。
 巻物には奇っ怪な図形とローゼリッタでは見ることのない文字が列をなしている。
 黒幕がその上で指を軽やかに時に激しく動かすと、合わせて花嫁泥棒が剣を振るった。
 2対、併せて4本の腕で。
 走る怪盗。
 追う、5人の狩人。
 
偲「……………」
悟六「偲の蝶が反応を示さん! どういうことだ!?」
偲「…………人に、あらず」
炎座「なんじゃと!?」
偲「……………」
悟六「確かに人ならば、あの蝶に血を吸われておるところだが、はて」
 
 白い紙の蝶は、放てばどこまでも目標物を追跡し、体に貼り付いて真っ赤に染まる。
 無数の蝶が血を吸い尽くして相手の命を奪うのだ。
 
冴牙「バッケーロゥ!! 鎧着て、布を引っ被ってりゃ効くものか! 少しくらい顔が出てても払えるわ! 奴を仕留めるにゃ、やはり刃よ」
炎座「違いない」
初「でも今、チラリと見えました! 腕が4本!! アレは魔物では?!」
炎座「むぅ」
 
 怪盗は城内に侵入し、追った5人は味方に足止めを食らってしまった。
 城の兵士たちと鉢合わせてしまったのである。
 
炎座「ええいっ! 邪魔だ、どけぇい!!」
冴牙「奴を止めるのは、お前らじゃ役不足だ!!」
 
 巨漢・炎座が吼え、続けて小男の冴牙が噛み付く。
 
兵士たち「何だと、無礼な!」
    「貴様ら何様のつもりだ!?」
 
 兵士と先頭の炎座、冴牙がもみ合いになってしまった。
 
悟六「何をやっておるか!?」
 
 味方同士で衝突している間に、泥棒は姿を消してしまった。
 
初「悟六殿」
 
 初は母国語で目上の悟六に語りかけた。
 
悟六「どうした、お初?」
初「花嫁泥棒と言うからにはやはり目的はあの細君。そちらに先回りをした方がよいのでは?」
悟六「そうじゃな。城内に入る前に仕留めてくれようと思ったが、敵もやりおる」
 
 混雑を避けて、公爵の寝室へと回ることにした。
 
初「花嫁泥棒を名乗りながら、以前に公爵のご愛妾を連れ去ったのは何故でございましょう?」
 
 階段を駆け上る途中で初はまた疑問を口にした。
 
悟六「恐らく、公爵の下に花嫁が来ると情報をつかんで勇み足したのだろうな」
偲「………………」
初「つまり、間違えてさらったと?」
悟六「であろう。それまでの被害者は全て花嫁じゃ」
偲「………………」
初「大名の城にまで忍び込むなどと危険を犯してまで、いかな目的が……」
悟六「酔狂者の腕試しかもしれぬな。あやつ、とんでもない強さだわ。我らを同時に相手して凌ぐとは」
偲「………………」
 『間違いでさらった? ……どうかな。それこそが見せかけでは……』
 
 二人の会話から、後を走る偲は思った。
 が、口には出さなかった。
 敵の目的など、どうでもいいと考えたからだ。
 
初「私は…………あの姫君、さらわれてしまえば良いと思いまする」
 
 目を伏せて、忍びにあるまじき優しいことを、初は言った。
 あの公爵に弄ばれるのはあまりに不憫と同じ女として思ったのである。
 
悟六「……!」
  「言うな。それもまた定めじゃ」
 
 気持ちを汲んで、悟六が応える。
 東方より来る狩人たちをやり過ごした“花嫁怪盗”は、今宵の獲物……本来の目的は彼女一人だったのだが……を探して城内を騒がせていた。
 
黒幕『ふぅ…危ない、危ない。肉め、妙な輩を飼いおって……』
 
 猛攻を逃れた“怪盗”を操って、黒幕は一息ついた。
 彼の狙いは初めから公爵の花嫁。
 偲の想像通り、妾をさらったのは、見せかけるためだ。
 怪盗は大男だが、操る黒幕は小男。

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