HOME ≫ Entry no.820 「レイディ・メイディ 54-9」 ≫ [824] [826] [825] [823] [822] [820] [819] [817] [816] [815] [818]
レイディ・メイディ 54-9
2008.07.25 |Category …レイメイ 52-54話
2ヶ月近くも前から花嫁を片っ端からさらっていたのは、目的が一人ではなく、手当たり次第と思わせるため。
妾を間違ったようにしてさらったのもメイディアという個人などは知らない、ただ花嫁をさらっただけだと思わせるためである。
どこからたぐっても自分にたどりつかないように、目くらましのつもりであった。
怪盗に異形を選んだのも、例え布の下を目撃されても魔物として片付けさせるためだ。
ただし、捕まってマリオネットだと見破られてはならない。
人形というキーワードから人形師の名が浮上しては都合が悪いのだ。
人形師といえど、人形を作るだけでまさかこんなに離れた距離から繰っていようとは誰も思うまいが、公爵も魔術師だ。
万が一、人形を操る魔力の細い糸に気づかれないとも限らない。
それだけは避けなければならなかった。
まだ自分の平穏を維持するためには。
▽つづきはこちら
黒幕「さてさて。ごーるでんは、どこかなっと」
イタズラ小僧のような笑みを浮かべて、黒幕の青年は探した。
自分に助けを求めた少女を。
花嫁衣装を身に纏った少女は願った。得体の知れない花嫁怪盗とやらに。
正体がどんな人間でもいい。
あの化け物から救ってくれるのなら、自分をさらって殺してくれても構わない。
混乱に乗じて逃げて逃げて逃げて。
階段を下り、どこか隠れる場所がないかと辺りを見回す。
あまり人が多くなってくると、触手は追って来るのをやめたらしい。
目立つ白いドレスをやっと見咎めた兵士が、メイディアの肩をつかんだ。
兵士「こ、公妃!?」
メイディア「う……」
見つかってしまった! 体をこわばらせる。
兵士「ここは危険です。公妃を狙う者がいます」
メイディア「わ、わかりました。戻ります」
言って、またそこから逃げ出す。
彼女は城内の隅へ隅へ走って、やがて使われた形跡のほとんどない小さな木製扉を発見した。
急いで転がり込むと中から錠を下ろした。
メイディア「ふぅ」
乱れた息を整えて、扉に背をつける。
メイディア「……階段……」
狭い入り口から螺旋状の階段が見えた。
どこか物見塔の中なのだ。
吸い寄せられるように素足が動く。
一歩、また一歩。
3月の石の階段は冷たく氷のように柔らかい足を刺す。
けれど苦にはならなかった。
疲れ切った彼女の心には、もう一つのことしか浮かばない。
…………死。
頂上まで登り詰めて、古い扉を開いた。
途端に荒れた冷気がドレスのすそと髪を覆うヴェールを大きく踊らせる。
下界はまだ泥棒騒ぎで兵士たちが右往左往していたが、塔の上は別世界のように静かだった。
ごうごうと風の音だけが耳に心地よい。
家のために嫁ぐことを決心したが、もう無理だ。
役立たずの娘を許して欲しい。
ひび割れた心はすでに自尊心ごと折れて、運命に逆らい続ける気力も無くしていた。
メイディア「……………」
風に吹かれて物見台の窓に立ちすくんでいるのを兵士の一人が見つけた。
兵士「あんな所に……! 花嫁がッ!!」
メイディア「……女神ローゼリッタ」
兵士「お助けしろっ!!」
メイディア「……アナタの意志に逆らい、自ら命を断つことをどうぞお許し下さい」
どこに存在するのかわからない女神に向かって祈りを捧げた。
兵士「急げ」
メイディア「もし次に生まれ変わることができるとしたら、もし叶うならば……」
物見台の螺旋階段を誰かが駆け登ってくる音が近づいて来た。
兵士たちか、それとも公爵か。
メイディア「赤でも黒でもなく…………白い……汚れを知らない、純白の薔薇と咲きたい」
素足を窓から離す。
ドアが乱暴に開かれるのと、花嫁が飛び降りるのと、ほぼ同時だった。
現れたのは兵士でも公爵でもなく、待ち望んでいた花嫁怪盗だった。
だが。
黒幕『やべぇっ!! 届かないッ!!』
奇っ怪な腕を伸ばしたが、足りなかった。
白い花がふわり、闇夜に咲いた。
誰もが時を止めてその光景を目に映す。
16歳の花嫁が、身を投げた瞬間である。
PR
●Thanks Comments
●この記事にコメントする
●この記事へのトラックバック
TrackbackURL: