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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 54-5

メイディア「ワタクシからも質問です、よろしいですか?」
ダンラック「なんでしょう?」
メイディア「公爵様の先程のご冗談、どこで仕入れましたの?」
ダンラック「それはねぇ。ムフフッ。本当は内緒なんだけど、メイちゃんはもうここから出られないから教えてあげてもいいなぁ?」
メイディア「…………」
 
 メイディアが5年前に犯した犯行をなぜ知り得たか。
 真実が語られようとしたそのとき、公爵を家臣が呼びにやってきた。
 
家臣「公爵。祝辞を述べにお客様が」
ダンラック「断ってって言ったのに。これからメイちんと楽しい一時だったのですよ」
家臣「申し訳ございません、女王からの使者ですのでお断りするわけにも……」
ダンラック「ちっ。あの女か」
 
 怪物のような夫が出て行って、メイディアは床にへたりこんだ。
 今回はこれで済んだが、用が終わればまた来るだろう。

▽つづきはこちら

 そうでなくとも夜には勤めとして彼のベッドにはべらなければならないのだ。
 いつまでも逃げ切れるものではない。
 すぐにくじけそうになる覚悟をまた新たにして、夜を待つ。
 
女「御召し替えの用意を」
 
 今後は公妃の従者として仕えることになる女たちが入れ替わりに入室して来た。
 替え衣装を確認したメイディアは眉を引き上げる。
 
メイディア「衣裳替えといって、何故また花嫁衣装なの? ワタクシ、もう疲れました。もっと楽なのがいいわ」
女「公爵様が初夜はウェディングドレスでと」
メイディア「ならば着替えなくてもよろしいでしょう」
女「ですが……そのドレスは血に染まって……」
 
 女は言いにくそうに純白のドレスに染み付いた赤黒い血痕に視線を写す。
 気狂いの姫が恐ろしいと見えて、表情が硬い。
 
メイディア「ワタクシは着替えません」
 
 確かに汚れたドレスではいけないとは思ったが、これは公爵のせいだ。
 メイディアは精一杯の抵抗として、着替えを拒否した。
 
メイディア『ワタクシをどこの誰だと思っているの! ワタクシはメイディア……メイディア=エマリィ……』
 
 自分が本当はメイディアではなく、どこの馬の骨とも知れない女であることが頭の端に思い出されて首を横に振る。
 
メイディア『……………………』
     「着替えは要りません! 一人にして! 出て行って!!」
 
 女たちを追い出して、ソファーにうずくまる。
 
メイディア「ああ、女神ローゼリッタ。これが罪深いワタクシに与えられた罰だとでもおっしゃるのですか?」
 
 残された時間を祈り捧げて、気持ちを落ち着かせようと努めた。
 長く続いた宴。緊張と衝撃の連続。
 夜遅いこともあって、疲れきった花嫁はいつしか眠りの谷に転げ落ちていた。
 やがて死刑宣告に等しい言葉を携えて、新たな女官が一人、呼びに訪れるまで。
 
女官「メイディア公爵夫人。ダンラック公がお待ちでございます。儀式の間へどうぞ」
 
 母が迎えに来て抱きしめてくれる夢を見ていたメイディアは自分が泣いていることに気づき、あわてて涙をふき取った。
 
メイディア「寝室を儀式の間とお呼びになるのですか」
女官「公妃様が名実ともに妻になられる儀式にございます」
メイディア「……フン」
     『妻になられる……ね。……なってあげましょう、なってあげようじゃありませんの! 犬に鳥を食わせて、その犬を殺して、ああ、そして初恋の人さえも殺めた、気の狂った姫を娶って後悔するがいいんだわ。ワタクシに想いを残して下さる方なんてどこにもいないのですから、どなたのものになっても同じこと。そうだわ。ワタクシは者ではなく、物。貴族の姫は人間じゃない。物なの。物は何も感じない。痛みも恐怖も悲しみも』
 
 女官の案内に従って、死刑台に向かうメイディアはあらゆる強がりを総動員して、くじけそうになる心を抑え付けようとしていた。
 それなのに横から別の気弱なメイディアがこっそり耳打ちして、悲しみを煽る。
 これが好きな人との結婚式だったら、どんなにか幸せだったでしょう。
 結ばれないまでも、優しく微笑みかけてもらえたら、苦しみも半分になったかもしれない。
 
メイディア『ううん。仕方ないのよ、あきらめてメイディ。血みどろの手をした女の子に誰が恋してくれるでしょう。遅かれ早かれ、荷物としてどこかにやられる運命なのだから。さぁ、泣かないで』
 
 心の片隅で無茶なワガママを言っては泣きじゃくる、小さな少女にそっと語りかけた。
 
メイディア『いいこと、メイディ? 平穏の日々は終わったの。これから始まるのは、一切が戦い。公爵にひざをついてなるものか。味方は貴女だけなの。しっかりしてね、メイディ』
 
 とうとう着いた扉の前でメイディアは両足をそろえた。
 口を一文字に結んで、きっと表情を引き締める。
 そうして扉が開らかれた、その瞬間。
 決意はもろくも崩れ去った。
 
メイディア「……………!!」
 
 青い瞳が大きく、大きく見開かれる。
 人身御供であるメイディアを部屋に引き入れた女官たちは、頭を下げて逃げるように出て行ってしまった。
 部屋に残されたのは、公爵と公爵夫人となったメイディアしかいてはいけないハズなのに、違った。
 違った。
 違ったのである。
 
メイディア「………これは………」
 
 広く簡素な部屋の中央に天井つきの寝台が一つ。
 そこに巨大な肉塊が座しており、にたりと笑っている。
 周囲には何故か、裸体の男たちがいく人も。
 
メイディア「……………」
ダンラック「ようこそ、花嫁」
 
 言葉を失った花嫁に醜悪な肉塊が陽気に語りかけてきた。
 
ダンラック「さぁ、いらっしゃい。今宵は最高の歓びをその、青い果実の体に。教えてあげちゃうからね~え」
メイディア「……………」
ダンラック「僕チャンのためにウェディングドレスで来てくれたチミに、たくさんご褒美を用意しておいたよ」
 
 初めて目の当たりにする男性の裸体に、嫌悪感が全身を駆け抜けた。

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