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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 54-2

メイド『お嬢様……』
 
 この瞬間、恐怖に引きつった少女は何を思っていただろう?
 両親のことだろうか。
 ただ助けてと声のない叫びを上げていただろうか。
 頭の中は真っ白に塗りつぶされて何もなかったかもしれない。
 それとも。
 好きな人のことでも考えていたかも。
 
メイド『私だったら……』
 
 とても耐えられないとメイドは思った。
 結婚を控えた身である彼女はもう、誓い未来に夫となる恋人以外など考えも及ばないからだ。
 もしメイディアが恋をしていたとしたら。
 いや、あの年で恋をしていないはずがない。
 人の良いメイドは他人事とは思えず、意地の悪かった令嬢ではあったが、ざまあみなさいと罵声を浴びせる気にはなれなかった。
 両親さえもいないここでは、ただ一人付き添ってきた自分が親族の代わりなのだ。
 ちゃんと見届けなくては。

▽つづきはこちら

 
メイド『私だったら……』
 
 とても耐えられないとメイドは思った。
 結婚を控えた身である彼女はもう、誓い未来に夫となる恋人以外など考えも及ばないからだ。
 もしメイディアが恋をしていたとしたら。
 いや、あの年で恋をしていないはずがない。
 人の良いメイドは他人事とは思えず、意地の悪かった令嬢ではあったが、ざまあみなさいと罵声を浴びせる気にはなれなかった。
 両親さえもいないここでは、ただ一人付き添ってきた自分が親族の代わりなのだ。
 ちゃんと見届けなくては。
 そしてこの式が終わったら、よくぞ耐えたと褒めてあげようと強く思うのだった。
 誓いの儀式が済むと、ようやく華やかに祝宴が催されたが、公爵の隣の席に座った花嫁はニコリともしない。
 ひじかけに置かれた白い手に公爵の厚ぼったい手が重ねられると、メイディアは身を固くした。
 
ダンラック「かーわいいお手々でしゅねぇ。メイちゃん」
メイディア「………公爵様こそ。可愛らしいお手でございますのね。まるで赤ん坊のような」
 
 宴が始まり、側に控えたメイドが肝を冷やした。
 やっぱり青ざめて倒れそうになってもこの令嬢は、まぎれもなくあの、メイディア=エマリィ=シャトーだった!
 無礼!
 花嫁になったその日からやらかした!
 しかし初老の公爵は笑ってすませてくれたので、メイドは肩を上下させて力を抜いた。
 
ダンラック「養成所に通っていたと聞きますけれど、どうしてどうして。白いキメ細やかな肌をして」
 
 赤ん坊と称されたその手が広く開いた胸元をなで、メイディアとメイドが同時に戦慄する。
 
メイド「公爵様! 恐れながら申し上げます。このような席でのご行為はお控え下さいませ。その場その場にあったふるまいをお願い申し上げます」
 
 思い余ったメイドが厳しい口調でたしなめる。
 
ダンラック「あーりゃりゃ。叱られちゃいましたねぇ。蜜月はまだお預けだぁ~」
メイディア「……………」
メイド「…………」
 
 重苦しい空気の中をダンスの曲が流れたが、ウェディングドレス姿のメイディアは踊ることはできず、ただ見ているだけだ。
 これが終わると雑技団がやってきて、様々な特技を披露した。
 この場面でだけは堅かったメイディアの表情も少しはほぐれたようである。
 だが、雑技団が去り、次の催しが用意されたとき、再び顔に雲がかかった。
 合唱団と称して現れたのが、大きな壷だったからである。
 5つ並んだ壷から女の顔が出ている。
 
メイド「!?」
 
 音楽に合わせて女たちが歌い出す。
 喘ぐようにして。
 
メイディア「? これは……どのように?」
 
 苦しそうに。
 けれど無理に微笑みを作って歌う女たちは、どう考えても壷に入る大きさであるワケがなかった。
 雑技団の大男のように小さな箱に入ってしまう体の柔らかさか?
 いや。違う!
 
メイディア「公爵様」
ダンラック「どうです? 小鳥たちの麗しい歌声は?」
 
 姫の脅えた表情を楽しみにダンラックが顔をのぞき込む。
 だが、予想外にもメイディアは微笑んでいた。
 この地に来て初めて。
 
メイディア「ワタクシにあの愛らしい小鳥、下さいな」
ダンラック「ひょ?」
メイディア「新妻に初めのプレゼントは、あの小鳥たちにして欲しいのです」
ダンラック「……………あのようなモノが?」
 
 訝しげに新妻を見る。
 
メイディア「ええ」
ダンラック「ほっほっほ! なんと姫しゃまは、あの小鳥たちがお気に召したと!」
メイディア「よろしいですね?」
ダンラック「よいですとも、よいですとも。あとで部屋に運ばせましょう」
メイディア「いいえ、今すぐに」
 
 メイディアは立ち上がると食事のためのナイフを手にして小鳥と呼ばれた女たちに近づいた。
 
メイディア「アナタ、お名前は?」
 
 女の耳に唇を近づけて囁いた。
 女が息苦しそうに名を告げると続けてどこの出身かも聞き出す。
 
メイディア「ご安心なさい。必ずアナタのご両親に真実をお知らせ致します」
女「……………」
メイディア「苦しみは今、終わりますからね」
女「ああ……、ありがとうございます」
 
 涙を流す女の額に軽いキスをした。
 5人の小鳥たちにそれぞれ同じことをすると、何を思ったのかメイディアは次々と首にナイフを突き立てていった。
 首の太い血管から血が噴き出して、純白のドレスを赤く染め上げる。
 会場は悲鳴と混乱の坩堝である。
 メイドは気を失って倒れ、ダンラックは思わず腰を浮かせた。
 
ダンラック「メイちゃん??」
メイディア「はい、何でございましょう?」
ダンラック「ナニって……エエッ!??」

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