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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 54-4

メイド「私だって悔しいです。これでは正妻ではなく妾でも連れ込んだような扱い。とんでもないことですわ。でもお嬢様、これは家のための婚姻です。多少のことは我慢して下さらなければ、ここまで耐えてきた甲斐がないというものでは?」
メイディア「…………………」
 
 眉間にしわを寄せてメイディアはメイドに反論を試みようとしたが、あきらめて肩を落とした。
 非の打ち所がない正論に対しての言葉が見つからなかったのだ。
 
メイディア「貴女の言う通りですわね。……でも、フンッ、大丈夫。どうやら公爵様とワタクシは相性が良いようです。ワタクシの罪の一切をご存じのようですし、振る舞いにもお喜びの様子」
メイド「そんな、メイディア様……」
メイディア「お聞きなさい、ヴィオレッタ」
 
 メイドの両肩をつかんで正面から見据える。

▽つづきはこちら

 
メイディア「貴女はすぐに戻って。メイディアが不始末を起こして、恥ずかしくていられないと。もし公爵が気にしないように貴女を止めても、無理にでもお帰り」
メイド「そ、それは……?」
メイディア「まさかとは思うのですが………いえ」
 
 言いかけて首を横に振った。
 
メイド「お嬢様?」
メイディア「貴女は大事な身なのですからね。早く帰って安心させておやりなさい、フィアンセに」
メイド「は、はい」
メイディア「お母様たちには、メイは幸せそうにしていたと伝えて」
メイド「お嬢様……」
メイディア「行って!」
メイド「は、はい」
 
 メイドが忙しく立ち去るとひらり足元に何かが落ちた。
 彼女の忘れ物かと拾い上げると、それは自分がドレスの内側に忍ばせていた恩師からもらったお守りであった。
 
メイディア「縫い目から破けたのね。あら? これは……」
 
 人の形に切られた白い紙に黒い染みが広がっている。
 
メイディア「どこでこんな染み……?」
 
 インクなど使用していない。
 いや、確かにエマリィ=シャトーの人間から、ワイズマンの人間になることを誓う書類にサインはしたが、そのインクがスカートの内側に縫い付けたこの紙を汚すはずがない。
 一体、どこでつけたのだろう?
 考え込んでいるとノックの音が鳴った。
 
女の声「公妃様、ご容体はいかがでございますか?」
メイディア「気分が優れません。公爵様にはメイディアが申し訳なかったと謝っていた旨、お伝え下さいませ」
 
 そこへ男の声が割って入った。
 ダンラック当人である。
 
ダンラック「んーん。メイちゃん、具合が悪いのぉー? どうしちたんでちゅかーあ?」
メイディア「……ご心配なく。休めば戻りますわ」
ダンラック「ダンちゃんが介抱してあげましょうねぇ?」
 
 ドアが開きそうになり、メイディアはあわてて鍵をかけた。
 しかしそれは無駄な抵抗だったのである。
 丈夫なはずの扉が壊されたのだ。
 ミシミシと音を立ててドアがこじ開けられ、メイディアはさっと青ざめる。
 なんという怪力だ。
 けれど弱みを見せてなるものかと持ち前の気の強さで何とか悲鳴をこらえた。
 
メイディア「静かにして下さらないと治るものも治りませんのに。ああ、頭痛がして参りました」
ダンラック「それはごめんねぇ、メイちん」
メイディア「分かって下さったのでしたら、一人にして下さる?」
ダンラック「でも僕チャンたちは一心同体だから、二人でいても一人だから安心していいでしゅよぉ?」
メイディア「………」
 
 どうやら、何を言っても無駄らしい。
 公爵が人格者であることを期待して、もしそうならば年齢の垣根を越えて尽くし、愛するように努力しようと覚悟を決めていたメイディアだったが、こんな変態じみた男ではどうあっても愛しいと思えそうにない。
 それどころか身分の垣根さえなければ、今すぐにでも縛り首にしてやりたいところだ。
 
メイディア『いいえ。縛り首なんて生ぬるい。できるのなら、あの女たちと同じ目に遭わせてやるところ!』
 
 花嫁が何を考えているか想像もせずに公爵は粘りつく視線を這わせてきた。
 
ダンラック「メイちんは、養成所では誰と仲良しさんだったのですか?」
メイディア「…………各下の者たちと馴れ合いなんかしませんでしたわ」
 
 つんとはねつける。
 この男に自分のことを1つたりとも語りたくはなかった。
 相手とてきっとそう興味などないだろうが、会話のきっかけを探しているに違いない。
 だとしても、個人名が出てくる話題は避けようと思った。
 どうしてそう思ったのかはわからない。
 名前を出したからと言って、その人間に何があるというわけではなかったが、何故だろう。
危険だと直感的に感じたのだ。
 
ダンラック「そんなことナイでショ? クロエちゃんとかリクくんとか……知ってるよねぇ?」
メイディア「知っていますが、顔見知りというだけですわね」
ダンラック「あ、そーお? 残念」
メイディア「公爵様こそ、どうしてその2名をご存じなのです?」
ダンラック「いやいや。試験のときに見学に行ったら、カワイ子チャンがいたからね。興味あったの」
 
 妻となった少女の肩を抱き寄せる。
 が、新妻はくるりと身を反転させて束縛から逃れた。
 
メイディア「カワイイ子? ワタクシというものがありながら、公爵様ったら」
ダンラック「あらぁ? 焼き餅さんでしゅか? メイちんはいーい女ですねぇ。気位が高くて冷たくて、焼き餅の焼き具合もちゃーんと心得て」
メイディア「もちろんですわ。ワタクシ、怖い女ですから。公爵様もそのおつもりで」
 
 小悪魔を気取りながら、内心は恐ろしくて仕方がなかった。
 誰でもいいから助けて欲しい。
 だがいくら願ってもここには彼女の味方など、一人もいないのである。

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