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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 54-3

メイディア「これはワタクシがいただきました、小鳥。よろしいのでしょう?」
 
 にっこりと、それは愛らしく血に濡れた少女は笑った。
 その無邪気さに人々は震え上がる。
 残虐の限りを尽くす公爵に悪魔のような姫君が嫁いで来たのだ。
 これはもうエグランタインの滅亡のときが近いかもしれない。
 
ダンラック「さすがは音に聞こえし、白刃の姫君! 触れたらタダでは済まなさそうです」
 
 驚愕から立ち直ったダンラックが手を叩いた。
 
ダンラック「12で初恋の君を殺したのは、伊達ではありませんな!」
 
 問題の発言に集まった人々が顔を見合わせる。
 今度はメイディアが硬直する番だった。

▽つづきはこちら

 ニケが逃げ出した心の鉄扉。
 そのまた向こうにあった真実。
 ニケがしたことは無駄ではなかった、本当は。
 本人が努めて忘れようとしていた記憶はしっかりと蘇っていたのである。
 ただ、黙っていただけで。
 それは12歳でヒトゴロシ。
 メイディアが幼き日に見た連続殺人事件の犯人は、彼女が密かに思いを寄せる家庭教師の青年だったのである。
 事件を目撃した彼女は、彼にこう告げられる。
 
「これは罰なんだよ、メイディ。罪には罰をもって抗しなければならない。だけど、これは内緒だよ? 約束だ。約束を破ったらいけないんだよね? 約束を破ったらメイディだって同じなんだよ? 罰を受けなければならない。あの人形のように。ジョン=カーターのように」
 
 この言葉に長年、メイディアは縛られてきた。
 言ったら同じ目に合わされてしまうという恐怖が根付いていたのだ。
 だけど。
彼女は思った。
 家庭教師はいけないことをしたんだ。
 そうでなければ、内緒にするはずがない。
 だって、メイディアがイタズラをしたときは内緒にして黙っている。
 教師もそうに違いない。
 だから、彼女は罰を与えた。
 遠乗りをしようと誘い、そこで馬から転落させたのだ。
 足を折った教師は我が身に何が起こったかわからずに助けを呼ぶようメイディアに指示をしたが、そのとき彼女は用意していた手斧を振りかざしていた。
 息がなくなるまで叩きつけて叩きつけて、遺体は谷に転がり落とす。
 その後、彼女は服のまま湖に飛び込み、血を洗い流して素知らぬ顔で家に戻る。
 血液の跡は服に残っていたが、薄くなって血だとは誰も思わなかった。
 落ちない汚れとして服は始末されただけだ。
 こうして連続殺人犯の遺体は町に流れ着き、被害者の一人として数えられ、真犯人は永久に見つからず、事件は迷宮入りという結末を迎える。
 だが、このことを知るのは自分以外にいるはずがないのだ。
 教師との約束を守って、まだあのことは口にしていない。
 自分が教師を殺めたこともだ。
 いずれ、赤目の少年に真実を書き記した手紙が届くまで、事件は彼女の胸の中だけにあるはずだった。
 それなのになぜこの公爵が知り得るか。
 しばしの間、固まっていたメイディアだったが、動揺を隠してドレスのすそを優雅にひるがえした。
 
メイディア「……まぁ、そんな些細で古いことを。罪を償っていただいただけですわ、公爵。それよりもよくご存じで」
 
 神聖なる婚姻の宴は、血みどろの祭典に変わっていた。
 人々は恐ろしい光景、おぞましい真実に動けないままでいる。
 
ダンラック「私はなんでもお見通しなんですよぉ?」
 
 両手の指をわきわきと動かしながら、ダンラックは舌なめずりをした。
 
メイディア「ま。さすがですのね。ところで公爵様」
ダンラック「なんでしゅか、紅の花嫁」
メイディア「ワタクシの付き人の具合がよろしくないの。ワタクシも疲れてしまったし、少々お休みをいただいてもよろしいかしら?」
ダンラック「…………どうぞ?」
メイディア「では、失礼致します」
 
 すそを持ち上げて、頭を下げる。
 
メイディア「誰か。彼女をワタクシの部屋に。それから、この小鳥たちを丁重に埋葬してあげてちょうだい。ワタクシの小鳥です。丁寧にね!」
 
 初披露されたときと人が変わったように、花嫁はしっかりした足取りで会場を立ち去った。
 純白のドレスに滲んだ血液は、赤黒い花びらを連想させた。
 この瞬間から、可憐で哀れと思われていた花嫁は、“血塗られた黒薔薇の貴婦人”と呼ばれることになる。
 実際にワイズマン公爵夫人として君臨しするのは、たったの1日となるのだが、いや、たったの1日だからこそ、この不名誉で鮮烈な記憶はいつまでも人々の中に毒々しさをはらんで鮮やかに咲き続けるのである。
 
 
 控室に戻ってしばらくすると気を失っていたメイドが目を覚ました。
 メイディアのドレスに散った赤黒い染みに先程の騒ぎが錯覚でないことを確認してメイドは絶望感に打ちひしがれた。
 
メイド「メイディア様、何ということ!!」
メイディア「ヴィオレッタ。アナタはもうここで出なさい。この城は異常です」
メイド「異常なのは、お嬢様です!!」
 
 せっかく成長したと思ったのに、やはり人間の根本は変わらないものなのか。
 ヴィオレッタは悲鳴に近い叫びを挙げた。
 これでは犬を鳥を殺して喜んでいた幼少と何一つ変化がないではないかと。
 
メイディア「あの小鳥たちは、手足を切り取られた上で壷に詰め込まれた女です」
メイド「ええっ!?」
 
 その通り。
 公爵の思いつきで肩から腕を、腿の付け根から足を切り取られた、哀れな犠牲者たちだったのである。
 死んだほうがマシだという残虐な行いを好むのが、ダンラック=フォン=ワイズマンという男だった。
 
メイディア「あのようなものを見せて、ワタクシの反応を楽しみたかったのでしょうが、そうはいくものですか」
 
 レベルの差こそあれ、同じように残虐性を内に秘めた少女は歯軋りをした。
 
メイド「…………」
メイディア「アレはワタクシへの宣戦布告と受け取ってよろしいわね」
メイド「お、お待ち下さい、メイディア様! ここで騒ぎを起こされますと、シャトー家が……」
メイディア「うっ……ですが……ワタクシは悔しい!!」
 
 添えつけのテーブルに両手を打ちつける。

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