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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 53-4

氷鎖女「今日は魔法の合わせ技についてもう少し深くやろうと思う」
 
 いつも通りの退屈な授業が展開される。
 
カイル「この合わせ技ってさ、他のクラスはやってないみたいだぞ?」
クレス「またハミ出し授業か、ヒサメは」
リク「でも楽しいよ、俺、この授業好きかも」
 
 基本的にどのクラスでも最低限、これだけは教えないとならない魔法はある。
 軍隊となったときに一斉に同じ魔法を使わなければならない場面で、別々のことをしていたら、効果が薄れてしまうからだ。
 基本があれば、授業展開も当然、決まってくる。
 その他に余裕があれば、教官がそれぞれ自分の持つ知識を分け与えていくのである。
 魔法を教える教官たちは、当然といえば当然だが、そろいもそろって知識の虫。
 彼らが魔法の多彩さに固執する習性があることは否めない。
 より強力な魔法を知っている方が強いに決まっているからである。

▽つづきはこちら

 ところがこのチビ教官。
 あまり魔法を知らないのかどうなのか、教えた魔法の種類は基本の基本、最低限。
 それ以上は教えてくれず、代わりに「魔法の使い方」に重点を置いている。
 応用編である。
 魔法はただぶっ放せばいいというだけでは、この教官は満足しないらしい。
 
ジェーン「ハイ、先生! もっと魔法の種類教えてよ、種類。こんなんじゃ、他のクラスに追いつけなくなるんじゃないの?」
氷鎖女「うん? ……平気じゃない?」
ジェーン「疑問系やめてよ。先生のやり方で私たち、ちゃんとやってこれてるし、それはわかってるんだけど、4月からは3回生だし、そろそろ……」
 
 ジェーンの最もな意見に、他の生徒たちもちらほちうなずいている。
 魔力、魔法の効果的な使い方は充分にやった。
 自信も出てきた。
 だから次の段階に移行して、もっと力を試したいのである。
 
氷鎖女「魔法の種類か……よかろ。次からな」
ジェーン「ホント?! 約束ね!」
氷鎖女「ん」
ジェーン「皆、聞いたぁ?」
クラスメイトたち「きーた、きーた♪」
        「やったぁ!」
 
 クラス中がようやく新しい魔法だと沸きたった。
 
氷鎖女『そろそろ時間もないしな』
 
 幾重にも魔法のかけられた養成所でも自分にかけられた呪いの進行を止められなかった。
 氷鎖女は生活の中で視界の端に濡れた女が映る機会が増えたことを意識していたが、無視を決め込んでいた。
 他の人間には見えていないであろうあの女が距離を詰め、すぐ側まで到達したときに、自分は死ぬのだ。
 そうなってしまうまで、もうさほど時間がないことを彼は知っていた。
 自分は関係ないはずなのに。
 一族にかけられた呪いのせいで理不尽に死ななければならない。
講義が50分を過ぎたところで急に氷鎖女がよろめいた。
 倒れる前にたたらを踏んで何とか持ちこたえたが、教室内はどよめきに包まれた。
 
リク「先生!?」
クレス「……!!」
氷鎖女「うん、大丈夫。少し、眩暈がしただけ。……続ける」
ジェーン「休んだほうがいいわよ」
氷鎖女「寝不足だったから、ちょびっと貧血起こしただけ」
ステラ「……近頃、そんなこと言ってばっかりだよね? どこか悪いんじゃないの?」
氷鎖女「大事無い」
アン「……でも……」
氷鎖女「続ける」
 
 ここのところ、氷鎖女の体調不良が続いていた。
 それは確かに寝不足のせいでもあったが、呪いの進行を示す意味合いが強かった。
 額当てで隠したもう一つの顔……“氷鎖女の女”が望む一族の滅亡。その使命を果たさなかった罰によって、体が、内側から壊されていく。
 それはまだ深刻ではなく、倒れるまではいかないが、よろめいて手をついたりしゃがみこんでしまうことは確かに増えた。
 だからといっていつも辛いのかといえば、そんなことはなく、普段は変わりないのであった。
 ただ唐突にそれはやってきた。
 時と場所を選ばないので、学問の授業でも野外授業でももちろん同じことは起こる。
 授業が終ると騒がれたくない氷鎖女は、さっさと教室を出て行く。
しかしやっぱりリクが後ろを追いかけてきていた。
 
リク「本当にただの貧血?」
氷鎖女「くどい」
 
 相手にせずに足を運ぶ。
 今日は特に気分が悪い、気を抜くと今にも倒れてしまいそうだ。
そうなればまた騒がれる。
リクの相手をするより一刻も早く部屋に行って休みたい気持ちが先行していた。
 
リク「先生……何か隠しているんじゃない?」
氷鎖女「何かとは?」
リク「えと……本当は重大な病気だったり……」
氷鎖女「もしそうならどうだと?」
リク「医者に診てもらわなきゃ」
氷鎖女「診てもらって治るのなら、重大じゃない」
 
 執務室まで来て、扉を回転させる。
 
リク「え、それってまさか……」
氷鎖女「そちらの言いように例えて言っただけ。拙者がそうなどとは一言も」
リク「なんだ」
氷鎖女「そ。なんだというようなことでござるよ」
 
 肩をすくめる。
 
氷鎖女「では御免」
 
 ぱたん。
 
 ドアが閉まった。
 
リク「あっ。……先生? 入っていい?」
氷鎖女「……なんで?」
リク「なんでって……なんとなく……」
氷鎖女「じゃあ、ダメ。うるさいから」
リク「うるさくしないよ」
氷鎖女「用件は? あるならそこから言え」
リク「用は……わからないけど……」
 
 リクは言いよどんで言葉を失くした。
 氷鎖女がいつにも増して釣れない。
 それどころか壁を作られている気がする。
 しつこく構い過ぎて本当にスネさせてしまったのだろうか。
 子供っぽいところを多分に残している人だから、あんまり構いすぎると怒り出したりスネてしまったりするのだ。
 怒らせる分にはそれがまた楽しいからいいのだけど、スネられてしまうとちょっと困ってしまう。

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