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レイディ・メイディ 第54話

第54話:血染めの花嫁
 貴族の姫君は高価な贈り物である。
 そう表現したのは、メイディア=エマリィ=シャトー自身である。
 豪華な馬車は贈り物を運ぶための荷馬車。
 みるみる遠くなってゆく故郷を青い瞳に映した。
 二度と見ることは叶わないであろう故郷の風景を忘れないために。
 白い馬で駆けた丘。
 木苺を摘んだ森。
 その全てが今は愛しい。
 メイディアがこれから暮らすようになる城には友人となれる人はいるだろうか。
 夫となる初老の公爵はよい人だろうか。
 考えても栓のないことばかりに思いを巡らせてしまう。

▽つづきはこちら

 結婚式には両親と義妹が来てくれるものだと思っていた。
 それはメイディア側の両親も一緒だったが、どうやら、相手方から断られたとのことだ。
 花嫁一人で来るようにと。
 式が終わって公爵夫人になってからの謁見ならば許すというのだ。
 こんな話があるだろうかとシャトー伯爵夫人が怒りを露にしたのは言うまでもない。
 しかし2年も待たせてしまったのだから、仕方がないと伯爵が承諾してしまった。
 馬車も伯爵家のものでなく、公爵から遣わされた馬車だ。
 よって、御者も共の者も全て見知らぬ顔である。
 世話役として伯爵家に仕えている若い使用人がたった一人だけ同行を許された。
 こうして孤独の花嫁は旅立ったのである。
 数日間かけてようやくエグランタインの領内に入った。
 
メイド「見事な花畑でございますねぇ、お嬢様」
メイディア「…………」
メイド「ほら、ずーっと続いて。花の絨毯(じゅうたん)ですわ」
メイディア「…………」
メイド「これだけの花が咲き乱れる場所は、花の都と呼ばれるローゼリッタの中でもきっと随一です。花を愛でるお方に悪い人はいないと申しますし……」
 
 暗く沈んだ姫君を慰めようと道中、一生懸命にメイドは話続けていた。
 
メイディア「……ええ、そうね。ありがとうヴィオレッタ」
メイド「……………」
 
 義務的に礼の言葉が発せられて、メイドは押し黙った。
 心を晴らしてあげられる術はないと悟ったのである。
 
メイド『嫌な子だとしか思ってなかったけど……こうなると哀れなものね』
メイディア「アナタは……」
メイド「は、はい?」
メイディア「アナタはご結婚は?」
 
 自分よりも3つ年上の使用人にメイディアが尋ねた。
 
メイド「あ、はい。実は来月2週目に……」
 はにかんで答えたところをみると意中の相手とゴールインするようだ。
メイディア「まぁ。そうでしたの? おめでとう」
メイド「ありがとうございます」
 相手というのは、同じく伯爵家に親の代から仕えている使用人の男だった。
メイディア「そうだったの。ワタクシ、全然知らなくて……彼にも祝福を送ってあげたかったわ」
メイド「いいえ。お気持ちだけで十分。今のお言葉は彼にも伝えておきます」
メイディア「……幸せになって」
メイド「…あ、ありがとう……ございます」
 
 イジワルで性根の腐った姫君に何度、泣かされたことか。
 その姫君が今はこうして温かい言葉をかけてくれている。
 やはり養成所でもまれてきたおかげなのか、それとも別れに当たって、ようやく優しい気持ちになれたのか。
 どちらにせよ、この変わりようにメイドは驚かずにいられなかった。
 エグランタイン城に到着すると休む間もなく、貸し与えられた部屋で衣装の支度である。
 シャトー家の使用人を手伝うために、城の使用人がわらわらと入り込んできた。
 短く切ってしまった髪を見て、エグランタイン側の女たちが驚いたのは言うまでもない。
 貴族の姫の髪が短いなど、聞いたこともなかったからだ。
 こんなところまできて恥をかくはめになろうとは。
 シャトー家のメイドは頬に熱が帯びるのを感じていた。
 最後の最後までおとなしくしていてくれないのが、シャトー令嬢である。
 これについては用意してきたカツラを装着するようになっていたので、問題はないのだが、エグライタインの女たちのせせら笑いが気に食わなかった。
 ローゼリッタ国内でも有数の権力者であるダンラック=ワイズマン公の城は実に見事で、女王のいるローゼリッタ城と遜色ない作りにメイドはあっと息を呑む。
 しかし、儀式をするための大広間にはほとんど人影はない。
 公爵の初めての結婚のときは華やかであったろうが、今度来るのは後妻である。
 60を過ぎてから、ただ若い後添えが欲しいというだけなので、結婚式は簡素に済まそうというのだ。
 それを花嫁側の親類に見せないために断ったのだとメイドは気が付いて憤慨した。
 公爵は伯爵令嬢を間違いなく軽んじている。
 それどころか人として見ていないかもしれない。
 遥々、遠くから見ず知らずの夫に嫁ぐために来たというのにこの仕打ちはどうだろう。
 やがて式のために来場したメイディアは、今にも倒れそうなくらい青ざめて足元が震えていた。
 まるでこれからギロチン台に登ろうとする罪人のように。
 赤い絨毯の上を付き添いの者に手を引かれて一歩一歩、確かめるようにして歩いてくる。
 純白のウェディングドレスに身を包んだ金髪青目の少女はため息が出るほど美しかったが、その表情には幸せのカケラも滲み出てはいない。
 左右に参列するエグランタイン配下の貴族たちは、哀れんだ目でこの生け贄となる子羊を見送った。
 続いて花婿の登場だ。
 開かれた扉から初老の花婿が登場すると、メイドはあまりの衝撃に危うく悲鳴を挙げそうになってしまった。
 肉ダルマ!
 それがまず第一の感想である。
 
メイド『それに、なぁに? あのいやらしそうな顔! あんなのに姫様が……?』
 
 考えただけでおぞけが走る。
 誰もが表情を殺している中で驚いた顔が目立ってしまったのか、列の中にいるメイドに向かって公爵が笑いかけてきた。
 金歯が光る。
 メイドはあわてて気づかないふりをし、目をそらしてうつむいた。
 巨体を揺らし年老いた花婿は、まだあどけなさを残した頼りない少女の隣に立った。
 それは誰の目から見てもアンバランスな光景で、さらなる哀れみを誘った。
 可憐なつぼみがあのおぞましい手によって、手折られてしまうのかと思うとメイドは今すぐにでも連れて帰ってやりたくなった。
 もちろん、そんなことは叶わないのだけれど。
 神父による誓いの言葉が読み上げられる。
 互いに生涯、妻であり夫であることを誓わされる儀式。
 指輪の交換が行われ、これから口づけが交わされるのだ。

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