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ゼロのノート

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レイディ・メイディ 第5話

第5話:メイディアVSティーチャー・ヒサメ

 東の空が明るくなってきて、5月の朝らしい少し肌に冷たく気持ちのよい風が吹く。

 今日も晴天になるだろうことをうかがわせる爽やかさだ。

 そんな朝だというのに、なーぜーか、ルームメイトが一匹足りない。

 昨日の晩、一昨日の晩といなかったのも知っていた。

 あえて理由を聞こうとしなかったのだが、朝まで帰って来ないとなると問題かもしれない。

 レクと同室のリクはカーテンの隙間から中庭の噴水を見つめていた。

 同じく同室のフェイトは、先日行われた赤青対抗練習試合で女性のレイオットに歯が立たなかったのが悔しくて、夜な夜な一人で練習始めているんじゃないのか?などとあまり心配していないようだ。

 

フェイト「あのバカのことだ。きっと朝になったのも気づかずにやっているか、疲れてそのまま寝ているかだろ」

リク「ああ、もしかしたらそうかもしれないねぇ。……ん?」

フェイト「どうした?」

リク「もう食堂で朝食とっているのかも」

フェイト「……君は食べ物のコトしか頭にないのか」

 

 あきれたというふうに腰に手をあてる。

 だいたい食堂が開いている時間でもなかろうに。

 他のルームメイトは夢の中で、起きて会話している二人でさえもパジャマのままの早朝。

 話題のレク=フレグリットは未だ草むらの中だった。

 女の子にだまされて縛り上げられ、一晩放置プレイ!?されてしまっていたのである。

 ところで、この人の良い少年をだました非道な女の子・メイディア=エマリィ=シャトーは、朝っぱらから教官・氷鎖女を呼び出し、朝の散歩へと誘い出していた。

 そう、2晩かけて作った恐怖の落とし穴にいざなうために……


▽つづきはこちら

リク「! あの組み合わせ?」

 

 彼女らの姿を遠目に見つけ、興味引かれたリクは手早く着替えて部屋を後にした。

 「どうした?」と問う声に、「おなかがすいたんだ」などと意味もない嘘をついて、あの二人の後を尾行することにした。

 

フェイト「だから、食堂はやってないって」

 

 もう聞こえないであろう彼の背中に、小さなため息と共に言葉を吐きかけてドアを閉じた。

 

 常日頃から仲の悪い先生と生徒がこんな早朝に逢い引きなんて妙だ。

リクは歩きながら考える。

 それもレクがいない今朝に限って。

 彼は選考の違うあの二人と接点がないと思っていたが、人間同士だどこでどうつながったかもしれない。

 それに片方があのメイディア嬢ときたら、何かが起こらないハズがない。

 リクは少し風変わりなあの貴族のお嬢様に興味津々なのだ。

 浮ついた興味などではなく、「次の瞬間に何をするか予測できない人間」としての不思議な生き物を観察するような興味である。

失礼ながら。

 そして教官の氷鎖女に対しても少なからず関心を抱いていた。

 彼の服装を見てもわかる通り、リクの着ているそれと作りとしては同じだ。

 ボタンが一切なく、前を重ね合わせて紐や布で結ぶという独特の衣装。

 前で重ねたときに必ず左が内側に入るという決まりも一緒だった。

 ここローゼリッタだけではなく、辺り一帯の国々にも見られない珍しい装いで、嫌でも目立つ。

 その独特の衣装はリクにとって遥か東の国から渡来してローゼリッタの母と結ばれた父親の面影を思い起こさせる。

 氷鎖女も異国の出身だという噂を小耳に挟んだ。

 入学して一カ月以上経つのに、実はまだ一度も額当てを外した素顔の全てを確認したことはなかったが、見えている限りは明らかにここローゼリッタや近辺に住む民族と顔立ちが違っている。

 ひょっとしたら、父と同じ国の生まれなのかもしれない。

 そんな懐かしさが氷鎖女には感じられた。

 もうこの世にはいない父だけれど。

 遠く海を隔てた東の、小さな島国へ父はよく想いを馳せていた。

 異国の父と正真正銘ローゼリッタの母の間に生まれたリク=フリーデルスにはもう一つ、名前がある。

 こちらは故郷を偲ぶ父親を思いやって家族内だけで呼ばれていた、「李紅」という呼び名だ。

 だが、家族は父親を含めて全員亡くなっており、今は彼独り。

 「李紅」という名を呼ぶ者もいなければ、知る者さえいない。

 ところで氷鎖女に惹かれる理由は、単に自分の体に半分流れている血……亡き父の面影を感じているというだけではなかった。

 天分の才というのか、リクは異常に頭の回転が早く、物事をすぐに吸収する。

そしてそれに見合う深い知識もその知識の使い道もしっかりと熟知していた。

 ただ残念なことに彼に友人はいても、自分の持つ知識や考えを思う存分発揮して同等に論じ合うことのできる話相手がいない。

 彼のレベルが高過ぎて周囲がついてこられないのだ。

 しかし現在、メイディア嬢と連れ立って歩いている()(ひと)とならば……いつもそう思ってしまう。 一見、たどたどしく退屈な授業に思えても、リクには解った。

彼は自分と同じなのだと。

 

リク「いつか捕まえてみたいと思っていたけど……先に捕まえるとはさすがだなぁ、君は」

 

 独り言を言ってくつくつと笑う。

 常識に捕らわれることのない……実際にはもう少し常識に捕らわれるべきだとは思うが……自由気ままな彼女は相手が眠っている時間などおかまいなしに自分の用件のためだけに教官を部屋から引きずり出したに違いない。

 さすがに真似できないな、と苦笑いしてみる。

 木製の古い階段が一段下りる度に頼りない音を立てた。

 静まり返った宿舎内にそれは意外な大きさで伝わり、誰かを起こしてしまいはしないかと一瞬躊躇したが、どうやら心配はなさそうだ。

 扉の開く気配はなく、廊下を歩く影もない。

ほとんどの者が夢の中のそんな時刻、彼はおかしな二人のやりとりを見物へとしゃれこむことにした。

 昇降口から出ると彼らは見当たらず、一度は見失ったものの、歩いていた方向を察して追跡する。

 あの二人を追って行けばレクもいるような気がしたし、それより何よりあの二人は面白い。

 見逃す手はない。

 やがて進むにつれてヒソヒソと小さな声に出くわした。

ほぅら、案の定。

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