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レイディ・メイディ 50-3
2008.07.13 |Category …レイメイ 49-51話
うっとりと自分に見入っていると、背後にもう一つの顔が映ってはっとなる。
メイディアだ。
シラー「ごっ、ごめんなさい、私ったら。勝手に……私が触れたモノなんてしたくないですよね。洗ってきます」
いそいそとドアに向かう。
メイディア「………………」
メイド「まぁ、シラー様。そんな……」
メイディア「そんなに自分を卑下して楽しいかしら、シラーブーケ?」
メイド「お、お嬢様……」
また激しいイジメが始まるかと思い、使用人たちが身を固くした。
妾の娘。
それをこの気性の激しいお嬢様が許すはずがない。
若いメイドはシラーに手伝わせたことを後悔した。
▽つづきはこちら
メイディア「ティアラは似合っています、アナタに」
シラー「……え?」
メイディア「アナタが公爵家に嫁げばいいわ」
シラー「…………」
『そりゃあ、伯爵なんかより公爵のがいいに決まってるわよ』
メイディア「ちょうどワタクシとシラーは背格好も似ています。胸回りがずいぶん違うので、そこを調整すれば全て着られるのではなくて?」
メイド「お嫁に行かれるのはメイディア様ですよ? シラー様はシラー様で決まったときにご衣装は用意致します」
すかさずメイドが割り込んだ。
けれどメイディアは誘惑を続ける。
メイディア「シラー。公爵夫人になりたくなぁい?」
シラー「………は…はは…どうでしょう」
メイディア「なりたいのでしたら、ワタクシからお父様たちに口添えして差し上げます」
シラー「……!!」
公爵夫人! その魅力にめまいがした。
なれるものなら、ぜひなってみたい。
慎重に考えてシラーはこう答えた。
シラー「メイディア様がどうしてもとおっしゃるのでしたら、私は身代わりになっても構いません」
だが、この物言いは逆効果だった。
身代わりという単語にメイディアの良心が刺激されてしまったのである。
自分がこれだけ嫌な婚姻をシラーが嫌でないはずはない。
同じ女としてなんて酷いことをしようとしたのだろうと基本的に人間素直な彼女は思い直してしまったのだ。
迷惑にも。
メイディア「……う。……うむむ……い、言い過ぎました。謝りましょう」
シラー「……へ?」
メイディア「身代わりにだなんてしません。……忘れて下さい」
しょぼくれて肩を落とす。
が、それはシラーとて同じだ。指し示す方向がまったく異なってはいるが。
シラー『エエエエエッ!? いいのにー!!』
メイディア「で・も! ワタクシもぜっっっったいにお嫁にだなんて行きませんからね!」
行きたくないのは本当らしく、頑なに拒み続けていた。
けれどメイドの衣裳替えには辛抱強く付き合い続けるメイディア。
これをしないと奥様に我々が叱られるとメイドが泣きついたためだ。
養成所に行く前の彼女なら、メイドにケガをさせてでも逃げ出しただろうに、ずいぶんと大人になったと一同はほっと胸をなでおろすのだった。
メイディア「シラー!」
シラー「は、はい」
突然、呼び付けられて身を固くする。
メイディア「今回のこと、危篤の知らせを聞いてお母様を想って下さったアナタの心に娘として感謝します」
シラー「は?」
突然の言葉にシラーは耳を疑った。
メイディア「これまでの無礼、許してちょうだい」
シラー「い、いえ、私こそ……」
『何カンチガイしちゃってるのかしら……ま、そのほうが都合はいいけど』
一緒に馬車に向かう途中の青ざめたシラーの顔に、メイディアは自分の母を慕う姿として見たのである。
彼女の心は本物であると。
メイディア「でもペンダントを盗ったのは、ワタクシではありませんからね」
シラー「! そっ、それは……ええ、もちろん……すみません、気が動転していて……」
メイディア「気持ちはわかりますから謝罪は要りません。ワタクシも……あってはならないことですが、例えばお母様が亡くなったとして、その形見をなくしてしまったら、アナタのように動転して誰も彼も疑ったかもしれません」
シラー「…………」
『ま。なんてお人よし。さすがはここの伯爵夫人の娘ね』
自分の侍女に夫を寝盗られたマヌケな伯爵夫人。
その妾の娘を今度は取り立てて跡継ぎに置こうとしている。
世間知らずの甘ちゃんもいいところである。
凶暴で心ない娘だが、根本はメイディアも同じらしい。
シラーはほくそ笑んだ。
メイディア「ワタクシはアナタを義妹として認めましょう」
シラー「あ、ありがとうございます! メイディア様!」
メイドたち「お、お嬢様!」
思ってもみなかった言葉に、シラーもメイドも目を見張った。
メイディア「我々は姉妹です。ワタクシのことはメイディでよろしくてよ。かしこまった呼び方は不要です」
シラー「はい、メイディ」
『どういう風の吹き回しだか知らないけど、これはこれでいいわ。どうせ彼女はいなくなるんだし、逆にラッキーよね』
メイディア「いずれアナタにも結婚相手が決まれば、同じように衣装が届くでしょうが、そこで見ているだけでは退屈でしょう」
シラー「……いえそんな……」
メイディア「そこのドレスやアクセサリー、シラーにもつけさせてあげて」
メイド「はい!」
手の空いたメイドは小気味よい返事を返して、早速、新しいお嬢様を飾り立てるために衣装を合わせた。