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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 50-4

シラー『こんなドレス着られるなんて…! 夢みたい!』

 

 シラーの頬が紅潮した。

 借り物とはいえ、夢がかなったのだ。

 

シラー「………って、えっ、えっ、ちょっと! 苦しいわよ!?」

メイド「コルセットはキツく絞めませんと」

シラー「出、出る…っ! 内蔵的なモノが出ちゃうぅっ!!」

メイド「くびれをきちんとつくるためにはこのくらい我慢なさって」

シラー「くびれなら十分にあるわよ」

メイド「こういうものなのです」

 

 ぎゅううっ。

 紐を引く。

 ……どうやら、華やかなだけではなかったらしい。

 おそるべし、殺人服。

 コルセットだけでなく、メイディア用にしつらえたドレスは胸の大きいシラーにはちょっと苦しい。


▽つづきはこちら

 

メイド「まぁ、皆さん、ご覧になって。シラーブーケ様のお美しいこと!」

 

 髪を整え、化粧を施し、装飾品を身にまとったシラーは貴婦人そのものであった。

 

メイドたち「本当! プリンセスとお呼びするにふさわしいですわ」

     「女神ローゼリッタでさえ嫉妬してしまいそう」

 

 ワガママ・イジワルの代名詞メイディアよりも人間的によくできたシラーにメイドたちは好意的である。

 

シラー「そ、そんな、褒め過ぎです、皆さん。メイディの方がずっと……」

 

 せっかくこちらを受け入れてくれたメイディアがへそを曲げてしまわないかと心配してみたが、特に気にしている様子はなさそうだった。

 

メイディア「ええ、よろしいのではなくて?」

 

 シラーばかりを褒めちぎっていたメイドたちもあわてて、今度はメイディアを褒めたたえる。

 しかしそれらはピシャリと一周されてしまった。

 

メイディア「ワタクシは見え透いたおべっかは嫌いです」

 

 恐れに固まるメイドたちを無視して、メイディアは義妹に手を差し伸べた。

 

メイディア「ダンスを教えて差し上げます」

シラー「……えっ…と…?」

メイディア「養成所でも教養として習いましたが、時間が足りておりませんわね。どの方々もやっとではありませんの。ダンスはもっとなめらかでなくては」

シラー「……お願いします」

メイディア「そうこなくてはね」

 

 二人のプリンセスが部屋の中で踊りだし、緊張を走らせていたメイドたちは互いの目を見交わして微笑んだ。

 メイディア様は養成所に行って成長されたのだ。

 

メイディア「これからアナタは社交界に嫌でも引っ張り回されるハメになるでしょう。かつてのワタクシと同じように。殿方が決まるまで」

 

 音楽なしでシラーをリードしながら、踊る。

 

シラー「社交界……」

メイディア「そうです。社交界はただ美しいだけの世界ではありません。相手を値踏みし、足の引っ張り合い、袖の引き合い、羽根扇子に隠した微笑みの裏にあらゆる計算が隠されておりますのよ。きっとお母様も必死でアナタの良きパートナーを見繕うために、手腕をふるうことでしょう」

シラー『望むところだわ……』

メイディア「気疲れすることばかりですが、アナタならきっと上手くやっていけると信じます」

シラー『当然よ』

 

 踏まれそうになっ足を引き、

 

メイディア「貴族の間は表面上、言葉は柔らかいようで辛辣です。特に相手の毛並みの違いやほつれなど見つけたときには鬼の首を取ったように囃し立てますわ。だから、見破られていけません。アナタはシラーブーケ=エマリィ=シャトー。その誇りを忘れずに」

シラー「それは平民も同じですから承知しています。平民だって毛並みの違うものは死ぬまでいびり抜くんですから。鳥や獣と同じですわ」

メイディア「それもそうですわね。それを聞いて安心です」

 

 にわかに屋敷の中が騒がしくなったことに踊っていた二人のプリンセスは気が付かないでいた。

 黒い門の前にメイディアたちの乗って来た物とは別にもう一台の馬車が停車し、口ひげを蓄えた紳士が降り立った。

 教会に出掛けていた伯爵が戻ったのだ。

 その背中に続いて、年老いた神父も姿を現した。

 娘が帰ってきて一応はほっと胸をなでおろしている夫人とは対照的に、帰宅した伯爵の表情は堅く、緊張がみなぎっている。

 

伯爵「メイは帰っているか!?」

夫人「貴方! ええ、予定どおりです。今は自室に」

伯爵「そうか」

夫人「どうかして?」

 

 伯爵夫人は夫のただならぬ気配を感じ取って声をひそめた。

 

伯爵「………我々で話がしたい。いや、メイもだ。ばあやもメイを連れて来ておくれ。ばあやの言うことならばあの子も聞くだろう」

ばあや「は、はい」

 

 伯爵と神父の待つ自室に夫人とばあや、そしてメイディアが呼び出された。

 シラーとダンスを踊っていたメイディアは、普段着に着替え直して父の元へ顔を出す。

 ドレスなんか着ていては、覚悟を決めたのだと勘違いされてしまうからだ。

 

メイディア「お久しぶりでございます、お父様」

伯爵「おお、メイディ。ずいぶんとやつれたな」

メイディア「精悍になったとおっしゃって下さいな」

伯爵「この手形は、確かにお前のだね?」

 

 もっと労りの言葉などを期待していたが、父は早速、本題に移ろうとしており、少しばかりガッカリした。

 

メイディア『仕方ないわね……勝手に飛び出したのですから……』

 

 数カ月前、伯爵からの指示でメイディアがインクに手を汚して自分の手形を紙にとり、郵送したものを突き付けられてうなずいた。

 

メイディア「そうです。どうしてこのようなものを取らせたのです?」

伯爵「確かにお前のなんだね? 手が汚れるからと言って、お友達にやらせてはいまいね? そうなら叱らないからハッキリ言っていいんだよ」

メイディア「どうなさったの、お父様? それはワタクシの手です。仰せのままにちゃんとインクをつけて押しましたわ」

伯爵「もう一度……もう一度、やってみておくれ。私の見ている前で」

メイディア「はぁ? よろしいですけれど……これは一体、なんの遊びでしょう」

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