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レイディ・メイディ 50-2
2008.07.12 |Category …レイメイ 49-51話
シラー『ってことは、メイディアが外へ嫁に行って、私がこの伯爵家を継げるってことじゃないの? まぁ、なんてラッキーなの! こんなに上手く、しかも簡単にいくなんて! 無理やりにメイディを失脚させようなんてしなくても良かったんだ。あははっ♪』
結局、メイディアは使用人たちに押さえ付けられて、自室に監禁されてしまった。
夫人「はぁ。……ごめんなさいね、シラー。こんな醜い争いなんて見せてしまって」
シラー「いいえ、奥様。お気持ち、お察し致しますわ」
夫人「ありがとう。……驚いたでしょう? あの子ったら、お嫁に行くのを嫌がって養成所に逃げ込んだの。私も気持ちはわからなくはないのだけど……でも公爵様をこれ以上お待たせするわけには……」
シラー「こっ……公爵様!?」
すっとんきょうな声を上げる。
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夫人「そうなの」
シラー「公爵様……では、メイディア様は公爵夫人となられるワケですね?」
夫人「ええ」
シラー『……しまったぁ』
メイディアが雲の上の階級にいくだなんて想像もしていなかった。
野獣のようなワガママ娘を蹴落として、自分こそが成り代わってやろうと画策していたのに、もっと上に行かれてしまっては、後でどんな仕打ちを受けるかわかったものではない。
地位が違っても部下になるわけではないから、妙な命令がくることはないが、もしも社交界で顔を合わせようものなら……そう考えて身を震わせた。
あてがわれた部屋に荷物を置くためメイディアの部屋の前を通る。
すると案の定、ドアを激しく叩く……いや、体当たりする音が聞こえていた。
メイディア「出して! ワタクシは帰ります!! 誰か! 開けなさい!! これは命令よっ!! 言うこと聞かないと、後で酷いんだからっ!!」
窓は彼女が逃げ出さないようにと新しく格子が設置され、ふさがれているという話だ。
まさに野獣の檻である。
シラー「あらら」
万全なら魔法でドアを蹴散らすつもりだったのだろうが、あいにくと彼女の魔法はまだ弱くドアを吹き飛ばせない。
シラー『逃がしてやれば、恩に着るかしら?』
ドアの前で考え込んでいると、メイドたちが次から次へと大荷物を運んで来て、シラーは端によけなくてはならなくなった。
シラー「何事ですか?」
メイド「お嬢様の花嫁衣装と嫁入り道具ですわ」
シラー「こんなに!」
メイド「公爵様にお輿入れするのですもの。それなりの身支度は整えませんと」
シラー「……すてき……」
大きな衣装箱に溢れんばかりに積み上げられた衣類に目を見張った。
夢見心地のシラーにメイドが優しい笑顔を向ける。
メイド「シラー様もご結婚されるときには、きれいな衣装を仕立てていただけますとも。あーあ、私も一度でいいから、こんなドレスを身にまとってみたいものですわ」
明るく言って、お世辞にも美しいとは言えない団子鼻のメイドはドアを開いた。
ドアを叩いていたメイディアが勢い余って転がり出てくる。
すぐさま逃げ出そうとする伯爵令嬢のスカートを踏ん付けてそれを阻止した。
再びしたたかに床に打ち付けるメイディア。
メイドの手際、いや、足際の良さにシラーは舌を巻かずにはいられない。
そんな驚き顔の彼女にメイドは声を潜めていたずらっぽく言うのだ。
このくらいでないとここでは長くお勤めできない、と。
たくましい限りである。
メイド「メイディアお嬢様、逃げないで下さいまし。…あ、シラーお嬢様、メイディアお嬢様を捕まえておいて下さいな」
シラー「あっ、は、はい」
ぼんやり見ていたシラーが弾かれたように動き出す。
メイディア「お離し! ワタクシに触らないで!!」
シラー「メイディア様、そんなワガママを言っては困ります」
メイディア「うるさい、離しなさい!!」
衣装箱を運び終えたメイドたちが今度は一斉に力を合わせてメイディアを部屋の中に引きずり込む。
騒ぎにまぎれてシラーも中に収まった。
服を脱がされてしまった下着姿のメイディアがぶすくれて立っている。
メイドたち「まずはこの花嫁衣装をお召し下さい。サイズが違えば直さなければなりません」 「以前のお衣装に合わせて作りましたが、現在と体型が変わられてしまったようなので……」
メイディア「ワタクシは嫁になど行きません!」
衣装合わせは難航しているようだ。
こんなに奇麗で豪華なドレスを身にまとえるというのに、何が不服なのだろう。
シラーは中の1枚を手にとって広げてみた。
シラー「……キレイ……」
他にもアクセサリー類が山ほど!
指輪にネックレスにティアラ。
女性ならばこの一度は身につけてみたいと願うきらびやかな品々ばかりだ。
シラー『欲しい! 欲しい、欲しい、欲しい!』
メイディアよりも自分がつければ、もっと似合うはず。
この美貌は飾り付けるためにあるのだ。
そう信じて疑わないシラーである。
意識せずにティアラを頭に装着してみる。
部屋に備え付けられている鏡に映してニコリと笑ってみた。
シラー「ほぅ……」
自然とため息がこぼれる。
そこには夢に見たお姫様がいた。