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レイディ・メイディ 第48話

第48話:首切りジョン=カーター

 12歳の少女は初恋をしていた。

 自分がいけないことをしたときにしっかりと叱ってくれる彼が好きだった。

 誰もが自分のご機嫌伺いで辟易してばかりで飽きていたところ。

 でもたまには叱られることもある。

そんなときはいつも腹が立った。

 だって両親に叱られることだってめったにないのに、どうして身分卑しい者から偉そうなことを言われなくてはならないのだろう。

 だから彼女は、イタズラをしかけた。

 それで大抵はいなくなってしまうのだけれど、彼はそれでも残って、少女の尻を強かに叩いた。

 驚く少女に彼は言うのだ。

 

「悪いことをすると、こうなるんだよ。よく覚えておきなさい」

 

 罪には罰。

 ちゃん罰を受けて償ったら、許されるのだ。

 だから彼女は、好きになった彼のために罰を与えることにした。

 彼が許されますように。

 

 

 


▽つづきはこちら

 古巣に戻ったメイディアは皆と同じ授業は受けさせてもらえなかった。

 まずは……

 

メイディア「どうしてニケ先生のところに行かなくちゃいけないのでしょう?」

 

 白薔薇教官、ニケの元に送り出されてしまったのである。

 ちょうど授業の入っていない時間帯にニケの執務室のドアを叩く。

 入室許可を待って、中に踏み込んだ。

 

メイディア「失礼します」

 

 中は本の山、山、山!

 本棚以外でも平積みのタワーがいくつも出来上がっており、地震でも来たら一発アウトである。

 どこの教官室もこうなのだろうか。

 氷鎖女の部屋が汚いと思っていたが、ニケもなかなかどうして。

 そんな本の海にうずもれるようにして、小さな体が申し訳程度に見えかくれしていた。

 

ニケ「こっちこっち♪ お茶もお菓子もあるから、ゆっくりしてってね~」

メイディア「あ、はあ……」

 

 黒魔法を復活させてくれる話はどこに行ってしまったのやら。

 肝心の氷鎖女は構ってくれないし、白薔薇教官のところに送り出されるし。

 行ったら行ったで、お菓子を食べながら世間話が始まってしまう。

ニケ「ヒサメからは聞いてるよ」

 

 この一言でようやくメイディアは安心することができた。

 忘れ去られていたのではなかったのだ。

 

ニケ「魔法が全く発動しなくなったのが、クロエがさらわれたときからだって?」

メイディア「はい……捕らわれてすぐのときには、ちゃんと使えたのです」

ニケ「らしいね。一人、犯人を倒した」

 

 言って、女生徒の反応を見定めようとするニケ。

 思ったように彼女は一瞬だけ身を固くした。

 

ニケ『ヒサメ………お前さんの考えは間違っておらんようじゃ』

 

 実はニケ、氷鎖女からメイディアが抱える心の闇を引きずり出して欲しいと依頼されたのである。

 氷鎖女は魔法の使えなくなった原因が精神にあるものと見当をつけたようだ。

 魔法すなわち精神力。

その論法くらいなら誰でも簡単にいきつくだろう。

 この生徒のことを考えるつもりがあるのならば。

 ただし、同じ方法は今までに何度も試されてはきたのだ。

 スランプの生徒に通じても、魔力喪失してしまった生徒を復活まで導けることはなかった。

 それでも糸口をつかむにはこれしかない。

ニケも同じ意見だった。

 少なからず姫を救うのに貢献した生徒をゴミのように簡単に捨ててしまうのは、ニケとしても心苦しかったのである。

 協力は惜しまないと名乗りをあげ、頼まれたのが面談と精神ケアだ。

 亀の甲より年の功。

 人を癒す白魔法を操るニケおじいちゃんにこの役は適任といえよう。

 

ニケ「そのとき、どういう気持ちだった?」

メイディア「気持ち………」

ニケ「ほらぁ、怖かったとかぁー、悲しかったとか。あるじゃない」

 

 不安を与えないように明るい口調で微笑んで見せた。

 

メイディア「……わかりません……ただ必死で……」

ニケ「じゃ、何を考えていた?」

メイディア「……わかりません……」

ニケ「うーん……そうだなぁ、じゃあ………あ、このクッキーおいしいよ? 食べて、食べてー♪」

メイディア「は、はい。いただきます」

 

 お菓子を勧めつつ、話も進める。

 

ニケ「じゃあね、今言うモノの中から割りと近いかなっていうのがあったらそれを言ってくれればいいよ」

メイディア「はい」

ニケ「敵を倒して、怖かった」

メイディア「怖かった……? うーん……」

ニケ「悲しかった」

 

 首を横に振るメイディア。

 

ニケ「悲しくはなかった?」

 

 もう一度確認するように聞くと、今度もはっきりと首を縦に振った。

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