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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 第47話

第47話:古巣へ帰る

その日は少年の13回目の誕生日だった。

母親がケーキや御馳走を作り準備をし、部屋の飾り付けは妹らしき女の子と父親の仕事。

外から帰宅した少年は、自分の誕生日を祝う準備に感嘆した。

一緒になってメイディアも感嘆していた。

けれど彼女に誰も気がつかない。

それはそうだ。彼女はここに存在していなかったのだから。
母親は少年に優しく笑って「食べるのはまだよ」と言う。
部屋に入れば父親と妹が折り紙で飾り付けをつくりながら、お帰りと迎えてくれた。
手伝おうか、と申し出た少年は、主役は後でだから下がっていろと一蹴される。
苦笑しながら言われた通りに自分の部屋に戻った彼を妹が追う。

『お兄ちゃん、私公園にお人形忘れてきちゃった』
『………仕方ないな。そうだね、帰ってくる頃には準備も終わってるだろうし、いいよ、取って来てあげる』
『わぁい! お兄ちゃん、ありがとう』

それこそが運命の分岐であった。

 

 

 


▽つづきはこちら

 先の試験結果が廊下にズラリ貼り出され、生徒達は夢中で自分の名前を探していた。

 最終と決まっているメイディアは成績表を見ようともせずに、教科書にかじりついている。

 基礎の基礎、1年前に散々繰り返した魔力放出の項目である。

 廊下のにぎわいを避けた教室にぽつんと座っている彼女の元へ、元の担任・氷鎖女が現れた。

 机の前に来て、足を止める。

 教科書の向こうに見える黒装束に気が付いたメイディアだったが、恥じ入って顔を上げられなかった。

 先日のあの成績は彼にも当然知られてしまっている。

 元の担当者を裏切る形で他の教官についたのにこの様だ。

 裏切るつもりは毛頭なかったが、結果的には自分の力が足りないのは教官のせい。

だから新しい師につく。

そうすればもっと上に行けると。

……そう言ったようなものなのだ。

 しかし結果は惨たんたるもの。

合わせる顔がないとはまさにこのことである。

 恥ずかしいやら申し訳ないやら。

穴があったら入りたい。

 レヴィアスのせいでもなく、氷鎖女のせいでもない。

 ただ、自分の力が足りなかっただけのこと。

 一生懸命に教えてくれた教官たちの顔に泥を塗ってしまったのだとメイディアは思い詰めていた。

 

メイディア『ヒサメ先生………お懐かしい……』

 

 目の前に立って、何故か何も言ってこない教官の黒装束を教科書に隠れてそっと見つめる。

 移籍してほんのしばらくの間しか経っていなかったし、学科の方では継続して彼の授業を選択していた。

 だからクラスが変わろうとも、結局、毎日会っていたハズなのに何故かひどく懐かしく感じられた。

 懐かしく思うほど、彼は特別優しいわけではなかった。

 無機質。

 その言葉がこれほど似合う教官も他にはいないだろうというくらいに情の波を感じさせない。

 個々に対する関心が薄く、人を求めない、人に寄らない。

 来るならよし、行くなら追わない。

 冷たいわけでなく、温かくもない。

 生々しさが欠落している。

 ただ淡々とそこに在る。

 できそこないのカラクリ人形のように首をかしげて、いつもそこにただ、在る。

 才能がある者ない者に等しく、退屈な先生。

 今、全てを否定されたメイディアは、この風変わりな教官に全てを吐露してしまいたい衝動に駆られていた。

 レヴィアス先生が大好きだったこと、魔法の指輪をどうしても使いたくなかったこと。

その結果、レヴィアス先生に見捨てられてしまったこと。

 彼ならば、それでも黙って聞いてくれるような気がするのだ。

 ハリボテのプライドを楯に生きるメイディアには、本音を語れる相手が少ない。

 ライバルとなりえる相手となれば、つい意地を張ってしまうからだ。

 頼れて優しい友人もいく人かいるにはいるが、話せば彼らの心をわずらわせてしまう。

 失態に続く失態。

わずかな誇りを保つためにこれ以上の迷惑は、かけたくはなかった。

 それに対して、この教官ならば、話がここで終わる。

 誰かにメイディアが大変だ、手を貸してくれと広まる恐れもない。

 王様の耳がロバの耳であることを伝えてもそこで終わる穴のような相手なのだ。

 だが、思い止どまったのは、相手を否定しておきながら、それはあまりにずるいと感じたからだ。

 このようなことをぐるぐると考えて何分が経っただろう。

 教官の口から利き慣れた、「あー」という曖昧を象徴する音声が発せられた。

 

氷鎖女「あー……あれだ。うーんと。……指輪」

メイディア「……え?」

氷鎖女「指輪、返しとこ」

 

 手を差し出す。

 

メイディア「……先生も……ご存じだった?」

氷鎖女「いや。以前にも、そういうことが。練習試合に」

 

 カイルがメイディアを倒したときのことを言っているのだ。

 その不正が試験でも使われることを予想していたのであろう。

 

氷鎖女「違ったならすまぬ」

メイディア「もしそうなら、どうします?」

氷鎖女「何も」

 

 ぎこちなく、首をかしげる。

 

メイディア「これはワタクシが勝手に致したことです。他にどなたの干渉も受けておりません」

氷鎖女「さよか。ま、使っていないなら、どちらにしても構わぬことでござろ」

 

 首を同じようなぎこちなさで元に戻し、大きな額当てに手をかける。

 

氷鎖女「これからどうする?」

メイディア「どうすると言われましても……ワタクシはただ、沙汰を待つだけの身ですから……」

氷鎖女「敬愛せしレヴィアス殿をぎゃふんと言わせるも楽しいぞ」

メイディア「…は?」

氷鎖女「ぎゃふんだ」

メイディア「いえ、その部分ではなく……」

氷鎖女「見返してやればよい」

メイディア「……………」

氷鎖女「黒薔薇のメイディア、ここに在りとな」

メイディア「………………せ……」

氷鎖女「来るならばよし。決めるはそちらの自由」

 

 言うだけ言って、きびすを返す。

 

メイディア「お待ち下さいませ!」

 

 あわてて呼び止めた。

 彼は執着をしてくれない。

 何事も最終的には本人に決めさせようとする。

 それは相手を一人前と扱ってくれているからだろうか。

子供という甘えを許すつもりがないからか。

 それともやはり、ただ、そういう人なのか。

 どちらにせよ、気まぐれで差し伸べてくれた手はしっかりつかんでおかないと、風のように水のようにただ通り過ぎてしまうから。

 

メイディア「お待ち下さい、それは………戻っても、良いと、そういう………?」

氷鎖女「望むなら……」

 

 帰りたい。

 正直言えば、帰りたくて仕方がない。

 元の古巣へ。

 けれども……

 

メイディア「でもそしたら………レヴィアス先生には何と……」

氷鎖女「レヴィアス殿の側にお前様の席はもうないよ」

メイディア「……え……」

氷鎖女「会議で決定した」

メイディア「……そんな……」

氷鎖女「許せ」

 

口添えはしたが、力にはなってやれなかったのだ。

 

メイディア「……では、他に道はないではございませんか……」

氷鎖女「惰性で残りたいだけなら、拙者も引き受けられない。……どうする?」

メイディア「やりますっ! やらせて下さい!!」

 

 思わず身を乗り出して、黒衣装をつかんだ。

 

氷鎖女「期間は1カ月。それまでに、いいか。ぎゃふんだ」

メイディア「ハイッ! このメイディア=エマリィ=シャトー!! 必ずや……必ずや、ぎゃふんと言わせてみせますっ!! ヒサメ先生の足を引くようなマネは決して!」

氷鎖女「拙者の足などどうでもよし。自分のことだけ考えるとなおよし」

メイディア「ハイッ!」

 

 かくして、魔法の使えない魔法使い・メイディア=エマリィ=シャトーは古巣へ帰ることとなった。

 元のクラスメイトたちの白い目を一身に受けながら。

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