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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 48-3

 ニケによる面談と氷鎖女による訓練は毎日、通常の授業・訓練がすべて終わった後で行われた。

 生徒達が宿舎に引っ込んだ後で暗くなっても続く。

 メイディアは自慢だった金色の巻き毛を短く切り揃えることにした。

 入浴時にかかる時間を少しでも減らして訓練に当てるためだ。

 たかが髪を洗う時間くらいと彼女の髪をいじるのが好きなレイオットは残念がっていたが、メイディアとしてはそれほど時間が惜しかったのである。

 1カ月の間に必ず復活を成し遂げなければならない。

 指輪を貸してくれているレヴィアスと自分の時間を割いて付き合ってくれている氷鎖女、そして優しく話を聞いてくれるニケの恩に報いるため、メイディアは昼も夜もなく訓練に没頭した。

 

 


▽つづきはこちら

 ニケの執務室。

 神経を擦り減らすメイディアにとって、ここはすっかり休息の場所になってしまっている。

 香り高い紅茶とおいしいお菓子。

 クロエたち受け持ちの生徒にはちょっと悪い気がしたが、ほんの1カ月の間だけ、この小さな先生を借りてもバチは当たらないと都合よく解釈した。

 

ニケ「魔法が不調になったのは、もっと前からだったね」

メイディア「はい……ええと……夏……前くらい?」

 

 氷鎖女とレヴィアスの日誌に目を通しながら、

 

ニケ「これはどうしてわかった?」

メイディア「………負けを………認めてしまったからではないかと………自分では」

ニケ「なるほど、ふむふむ。やっぱり軽いスランプだね」

メイディア「軽い? もう全然、魔力も捻り出せなくなったのに軽いとおっしゃいますか!」

ニケ「そう慌てないで。君の先輩たちだってそういうことはあったんだから」

メイディア「それは本当?」

ニケ「そうだよ。心配することない。一時的だからね」

 

 ニケは少女のために嘘をついた。

 本当に治れば嘘が真になるわけだが、今のところ、事例はない。

 こうして親身に協力してやっているのは、ニケにとってただの親切ではなかった。

 魔力消失した人間から再び魔力を引き出せるのかという実験の一端なのである。

 

ニケ『例え魔法を使えなくても誰もが魔力自体は持っているものだ。だから完全に消失したということじゃない。もしこれが成功するなら、魔法を使えないと思われる一般人にも応用できる』

 

 一般に平均して魔力容量が大きいとされるのは、宿す者……すなわち女性である。

「魔法使い」と一言いうと、まず始めに「魔女」を思い浮かべるのもそのためだ。

薔薇の騎士でも赤青に男性が圧倒的に多いのに対して、白黒は女性率がかなり高い。

全体で見れば、もちろん戦いに適した男性が過半数を占めるのだが、数ある騎士団の中で女性がこれほど活躍するのは場瀬野騎士団をおいて他にない。

が、その代わり、少女から女性になる過程での体の変化に伴い、今回のように突然消失するケースも珍しくない。

 実際に魔法を唱えられなくなって養成所を去った人間は、多数を女性が占めているのだ。

 そうした原因の解明にもなると研究熱心な彼は思っていた。

 

ニケ『この勝ち気な子が負けを認めてスランプに陥ったのが夏。けどそれはまだスランプで済まされるような状態だった。教官をレヴィアスに変えて……』

 

 日誌をペラリとめくる。

 

ニケ『本調子といかないまでも、持ち直し始めていた。……とここまでは、いい経過じゃな。レヴィアスとヒサメの選択は悪くない』

 

 また数ページをめくって目を通す。

 

ニケ『それが、姫誘拐時、犯人を一人葬って、その後ピタリと使えなくなる』

  「…うーん」

メイディア「……先生?」

 

 不安げに眉をたれ下げる。

 

ニケ「いや。スランプだった上にショッキングな出来事が重なって、精神的にまいっていたみたいだなと思ってね」

メイディア「……………」

ニケ「大丈夫。心配ないよ。それよりもこの間の女の子の首がどうのっていうのだけどね」

メイディア「……………」

 

 話がそれに及んだ途端、貝のように口を閉ざしてしまった女生徒にニケは肩をすくめた。

 

ニケ「君はたぶん、何か事件に遭遇しているね?」

 

 メイディアはうなずかなかったが、まず間違いはないだろうと決めてかかり、先を進める。

 

ニケ「そこで犯人にこう告げられた。そう、例えばこのことを誰かに漏らしたら、君も殺してやるぞ……とかね」

 

 顔をのぞき込めば、仮定を肯定するかのように蒼い瞳が落ち着きなく揺れていた。

 

ニケ「クロエ誘拐時に君は犯人グループの一人を倒している。そのときに気分が悪くなって、沢山の映像がチカチカ見えたと言っていたね?」

 

 確認すれば、女生徒は黙ったまま弱々しくうなずいた。

 

ニケ「女の子の首の話は置いておこう。それ以外で話せることはある?」

メイディア「……いっぱい……声も聞こえました」

ニケ「声? どんな?」

メイディア「えっと……ざわざわ……いっぱい……よくわからないざわめきみたいな……」

ニケ「あまり聞き取れなかったんだね?」

  『貧血を起こす直前の耳鳴りかな』

メイディア「そうですわ。てるてる坊主が広場にぶら下がっているの。一列に並んで。それから、刃が降ってきて、首がコロリと落ちます」

ニケ「……………」

  『ワケワカラン』

メイディア「でも先生はおっしゃいました。あの方々は嘘をついたから、悪いことをしたから、当然なんですって」

ニケ「それは夢の話? それとも現実?」

メイディア「えっと………犯人を倒して気持ちが悪くなったときに瞬間的に断片が……でも、それは現実です。ワタクシ、知ってます」

ニケ「先生って誰? ヒサメ? レヴィアス?」

メイディア「いいえ。先生は…………」

 

 また考え込むようにして黙ってしまった。

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