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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 48-5

 赤アフロもとい、ミハイルの言うことをようやく聞き入れたメイディアは昼過ぎまで休み、少し遅い食事を取ってから午後からはニケの元に通った。

 途中、廊下でレヴィアスとすれ違い、笑いかけてみたが反応はもらえず。

 けれど彼は彼なりにこちらのことを気にしてくれているという氷鎖女の言葉を信じて、いたずらに心を沈ませないようにと気を張った。

 

 

 ニケの執務室。

 

ニケ「“先生”は、ヨーゼフ。家庭教師」

メイディア「はい」

 

 彼女の中にフタをしていた記憶がニケによって整理され、引き出されて記憶の断片がつながりを持ち始める。

 

ニケ「君は彼のことが好きだったんだね。とても」

メイディア「はい」

ニケ「でも彼はある日突然、姿を消した」

メイディア「何か事情がおありだったのか、解雇だったのかはわかりませんけれど。でも解雇される理由はないと思いますわ」

ニケ「その彼が教えてくれたんだね? ……罪には、罰をと」


▽つづきはこちら

ニケ「その彼が教えてくれたんだね? ……罪には、罰をと」

 

 面談を終わらせたニケは、連絡手段の水晶球を使って城にいる自分の直属部下に依頼した。

 シャトー伯爵家に仕えた家庭教師を調べて欲しいと。

 数日後、優秀な秘書官から報告がもたらされる。

 メイディア=エマリィ=シャトー伯爵令嬢につけられた教育係は全部で13人。

 その半数は半年以内に辞めているというから驚きだ。

 内容はさらに驚きの連続。

 癇の強い令嬢が気に入らない教育係や使用人をとことん苛め抜くようである。

 高窓から飛び降りろと命令したり、衣服に火をつけたり、猛犬をけしかけたりして笑うのだという。

 

ニケ『とんでもない子供じゃの』

 

 現在のメイディアからは想像が……つかなくもないが……ずいぶんとおとなしくなったものである。

 ……あれでも。

 最後に受け持っていたヨーゼフ=ハミルトン男爵という青年が野獣のような彼女をまっとうな人間に近づけるという偉業をこなしたようだ。

 だがこの家庭教師は、数年前に変死体として見つかっている。

 当時、世間を賑わせていた猟奇的事件の被害者として。

 メイディアは辞めたと言っていたが、先生に懐いていた娘を悲しませたくなくて、この事実を告げられていなかったに違いない。

 ハミルトン男爵は、爵位を名乗っていても、すでに家財は破産寸前で、身寄りもなくなっていた貧乏貴族だ。

 哀れに思ったシャトー伯爵夫人が娘の家庭教師に取り立てたのである。

 

ニケ「うーん。ハミルトン男爵失踪はショックだっただろうけど、それがトラウマってこともないだろうしね。死んだのは知らなかったワケだから」

 

 部下から受けた報告書を氷鎖女に突き出して、ニケはティーカップを持ち上げた。

 

氷鎖女「は……はる…はみ…はむ………みとん男爵?」

ニケ「……相変わらず氷鎖女は長い名前に弱いね。そんなに長いようにも思えないけど」

氷鎖女「ううっ。言語は苦手分野でござる」

 

 10年経っても、まだ母国語と離れられない氷鎖女はローゼリッタの言葉と混ぜて話をするので、時折、周りを煙に巻く。

 会話するには、聞く方にもちょっとした努力と忍耐が必要だ。

 そんな本人は通じていないことを自覚しておらず、きょとんとして周囲の失笑をかうのだった。

 丁寧語のつもりでくっつけている「ゴザル」にしても、ローゼリッタの言葉で話した後に母国語で「ゴザル」ととってつけているのだから、よくわからない。

 幼い頃に彼の父親が身分のある人間に会うときに使用していた言葉を音だけで覚えて、それをつければとりあえず失礼がないなどと大きい思い違いをしているようだ。

 とにかく教育というものを受けていない彼なので、150年もの間、知識の海を漂ってきたニケからすれば、幼稚なことこの上なく思えて仕方がなかった。

 

氷鎖女「この……ごにょ……男爵の性格については?」

ニケ「名前、言えないんだ……」

氷鎖女「言えるでござるよ。はる………もご………男爵でござる!」

ニケ「いいよ、わかったよ」

 

 苦笑して、

 

ニケ「どうして性格なんて気になる?」

氷鎖女「うーむ。性格というか……残虐性というか」

ニケ「うん、当時の彼を知る人間にも聞いて回らせたけど、評判は良かったみたいだよ。明るく爽やかな好青年だったって。少し厳しいところはあったようだけど、メイディア好いていたみたいだし」

氷鎖女「そうでござったか……。なら、関係ないのかな……?」

ニケ「それから他に……」

氷鎖女「うん?」

ニケ「気になった物も見つけたよ」

 

 言って、客用テーブルの上に古い玩具を置いた。

 

氷鎖女「これは?」

 

 手にとってしげしげと眺める。

 

ニケ「オルゴール」

氷鎖女「……………」

ニケ「シャトー家の使用人にお金を握らせて、ちょっと借りてきたんだ。メイディアの持ち物だよ」

 

 ネジを回すとカラクリが動きだし、明るい音楽が鳴り始める。

 円台の上には人形が2体。

 片方は中央の台に寝そべって、片方は刃まで木製の斧を持って立っている。

 

ニケ「パンを盗んだ、ジョン=カーター、ジョン=カーター。首がなければパンはいらなくなるぞ。犬を殺した、ジョン=カーター、ジョン=カーター。犬の体に首をすげかえてやるぞ。秘密を漏らした、ジョン=カーター、ジョン=カーター。首がなければ、とんだおしゃべりしなくてすむぞ」

 

 音楽にあわせてニケが歌う。

 

ニケ「……そういう内容の曲なんだ」

氷鎖女「ジョン=カーターとは?」

ニケ「昔の大泥棒の名前だって話だけど、適当に名付けられただけじゃないかな。悪い奴の総称として、悪いことをするとこうなるよって教育も兼ねて子供達を怖がらせるのが目的で作られた歌だと思う」

 

 音楽が一周すると、人形が斧を振り下ろし、続いて中心の台……ギロチン台の刃が降りて人形の首を飛ばした。

 

氷鎖女「……………」

 

 首には磁石が備え付けられており、胴体と離れてもまたくっつけられるようになっている。

 ギロチン台の刃も木製で、子供が遊んでも安全な設計になっていた。

 新しい音楽が始まるときに、糸で巻かれてギロチンの刃は元の位置に戻る。

 

氷鎖女「まさかこれを真に受けているのでござるか、あの娘は」

ニケ「うん、これを見てその可能性が高いかなって思ったんだよ。ただ、この玩具だけであそこまでは脅えないと思うんだよ。いくら頭の中身がアレだからって、一応は16歳にもなるんだから」

氷鎖女「やはり妙な事件にかかわって?」

ニケ「誰かと言ったらいけない約束をしているんだよね、彼女。3番目の歌みたいになるのを恐れているんじゃないかなぁ」

氷鎖女「秘密を漏らしたジョン=カーター?」

ニケ「そう、たぶん……」

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