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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 48-8

 部下との話を終えて、今度は氷鎖女に向き直った。

 

ニケ「ところでヒサメ」

氷鎖女「はい」

ニケ「ヒサメは出て行ってくれない?」

氷鎖女「…………」

ニケ「被験者を直接保護する君が本当は側にいるべきなんだろうけど、悪く思わないで。薔薇の騎士でもなく、ましてやこの国の人間でない君に見せるわけにはいかないんだ。……わかってくれるね?」

氷鎖女「……承知」

 

 あっさりと返事を返して、部屋を後にする。

 確認のために別の教官がついていった。

 


▽つづきはこちら

ニケ『これは下手をすると……いや、上手くすると国家機密にもなりうる内容になるかもしれないからの』

  「……始めるぞ」

 

 ニケの要請を受けて、白薔薇の騎士が周りを見渡してこう告げた。

 

白薔薇騎士「各々方! 心を静められよ。ほんの少しの乱れも影響します。よろしいですな?」

 

 世紀の大魔法の完成に立ち会おうと集まった教官たちが一度にうなずく。

 それを見届けて、白魔術師たちの長い、長い詠唱が始まった。

 まだ魔法陣に踏み込まないニケも参加している。

 彼の力なしにこの魔法の成功はあり得ないのだ。

 魔法の目的は、人の精神内に入り、その扉を開いて奥に眠る未知の力を引き出すことにあった。

 これが成功すれば、最強の軍団を作ることができる。

 ニケが百数十年をかけて守ってきた王家が、千年王国の夢を食むことができるかもしれないのだ。

 力による平和。

 現女王のように人のつながりだけで維持できる平和などニケは信じてはいなかった。

 人には欲がある。

 欲があるから発展する。

 人が発展を望む限り、争いがこの世から消えることはないのだ。

 現実という乱世から国を護ってゆくためには、大いなる力が不可欠。

 それを老体は知っていた。

 彼が特別攻撃的なのではない。

 むしろ、本に埋もれていられればそれで十分な質素な生活と性格だ。

 だが、彼には守るべきものがある。

 長年仕えた王家という子供が、彼の死後も健やかに生きて行くためには力。

 絶対なる力が必要なのであった。

ニケ「それじゃあ、行ってくる」

 3時間にも及ぶ呪文の第一章が終わり、老体は敷き詰めた魔法陣に踏み込んだ。

 白い衣装に身を包んだ少女のすぐ側に横たわる。

 第一章の終了と同時に後ろに控えていた白魔術師12人が先の12人と入れ替わり、呪文、第二章が始まった。

 口の中でくぐもった声が延々と続き、12人の声は重なり合って地下室を満たす。

 秋も深まり、冬間近の寒さが足元からはい上がってくる季節だというのに、誰もが玉の汗を額に浮かべていた。

 

 

 地下室を出た氷鎖女の方は、ちょうど授業がなかったので執務室の床に座り込み、久しぶりにスケッチブックを片手に絵を描き始めていた。

 クロエを通したクロウディア姫の人形作成のための設計図である。

 ニケから受け取ったクロエのデータに基づいて作るのだ……が。

 

氷鎖女『身長160だと!? ナマイキな! 1cm負けておるではないか!!』

   「何かビミョーに腹が立ってきた……」

 

 などと一人で暗く文句を言いつつ、手早く骨格を描いてゆく。

 

氷鎖女「…………」

 

 時折手を止めて、ニケの魔法はどうなったかと気にしてはまた作業に取り掛かる。

 

氷鎖女『あの魔法……俺に仕掛けられたらどうなる? ひょっとして……内に巣くったあの女共を消せるのではないか? もしもそれができるなら………ひょっとして………俺、助か………る?』

 

 ふいに沸いた考えに鼓動が高鳴った。

 …………死にたくない。

 もし、助かる道があるのなら……。

 もし、この仮面を外して日の下を堂々と歩けたなら。

 もし、そんな奇跡が起こったら、今すぐにでも故郷に戻る。

 帰って、そして。

 父に、母に……兄に……

 望郷の念が鎌首をもたげたとき、誰もいないはずの背後から声がした。

 それは音のない声で、無駄だと聞こえた。

 

氷鎖女「!!」

 

 はっとして振り返ると部屋の隅に女がうずくまっている。

 濡れた黒髪を張り付かせて、白い着物から水を滴らせた女が。

 二、三度。

 瞬きをすると女は消えた。

 

氷鎖女「は……」

 

 恐怖に引きつった笑いを浮かべる。

 

氷鎖女「はは……はははは…………ははははははっ! 仕掛けても、その者が気狂いになるだけか。そうだな、そうだろうな、氷鎖女の女ァ!」

 

 誰もいない、人形だけが無数に転がる執務室で鎮が吠えた。

 

氷鎖女「だが、俺はお前たちと一緒に沈む気はないからなッ! ……どこまでも逆らってやる。従うつもりなど、微塵もないからそのつもりでおれよ」

 

 手元に転がっていた、人形を削るための小刀を憤りに任せて床に突き立てる。

 石作りの床に負けた刃は折れて飛び、頬を傷つけ血を流す。

 

氷鎖女「………………」

 

 一度(ひとたび)、高ぶった感情を吐き出してしまうといつも通り、心に霧が立ち込めた。

 氷鎖女 鎮の激情は瞬間的。

 次の瞬間には、鈍く霞がかかって普段の自分に戻る。

 これが、彼が生きていくために身につけた自我をコントロールする術であった。

 今あったことなど、何事もなかったかのように、彼は再び人形作成図に取り掛かった。

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